偶然の出会いからポールダンスの世界に飛び込んでいく少女たちの姿を描くアニメ「ポールプリンセス!!」がYouTubeで配信されています。本作は「ポールダンス」×「歌」×「頑張る少女たち」という、言われてみるとこれまでになかった組み合わせを形にした作品で、見入ってしまうダンス映像が特徴的。いかにしてこのような新たな作品が生まれたのか、監督の江副仁美さんと、CGディレクターであり企画プロデューサーでもある乙部善弘さんに話をうかがいました。

YouTubeオリジナルアニメ「ポールプリンセス!!」公式サイト

https://poleprincess.jp/



GIGAZINE(以下、G):

江副監督はどういったキャリアを経て本作にたどり着いたのだろうかと調べたところ、ご自身のTwitterで、スタートは『キスダム -ENGAGE planet-』だったとツイートされていました。



G:

クレジットは「設定制作」となっていましたが、これがキャリアの始まりだったのですか?



江副仁美監督(以下、江副):

そうですね、『キスダム -ENGAGE planet-』で初の制作をやって、5年ほどサテライトさんで制作をやったあと、フリーで演出になったという形です。

G:

本作に関しては3年ぐらい前に声がかかったとのことですが、どういう経緯で江副さんのところに話があったのでしょうか。

江副:

タツノコプロ作品だと、『プリパラ』や『アイドルタイムプリパラ』でコンテや演出をやらせていただいて。初めてご一緒させていただいたときは、私はもともと『プリパラ』や『KING OF PRISM』のファンだったので、やりたいですと即答してやらせていただきました。その縁があって今回、乙部さんの企画ということで、乙部さんからお話をいただきました。



G:

なるほど。続いて乙部さんにお伺いします。公式サイトで、以下のようなコメントが発表されています。

3DCGの乙部です。この度ポールダンスという題材で、まだ見たことない世界、表現が作れるのではと思い企画させて頂きました。トマリさん原案のかわいく美麗なキャラクター達、江副監督や脚本待田さんコンビによる物語、そして我々が作る美しく、熱いポールダンスCGライブを楽しんでいただければ幸いです。まだ始まったばかりの作品なので、応援よろしくお願い致します!!


ポールダンスという題材にしようと決めたのは、具体的にはどういった理由があったのでしょうか。

CGディレクター兼企画プロデューサー 乙部善弘さん(以下、乙部):

けっこう前のことなのですが、ネットで「ポールダンスの全米チャンピオンがすごい」というような話題をたまたま目にしたことがあったんです。それは、自分が今まで見たり、イメージしたりしてきたポールダンスではなかったんです。ポールダンスのイメージって、わりとセクシーな、夜のダンスという感じで、誰でもできるのではないかという浅い考えだったんです。でも、実際には筋肉美の女性が美しく舞っていて、これはすごいし、かっこいいなと思ったのが出会いでした。

G:

おおー。

乙部:

そのときは「すごいな」と思っただけで終わったのですが、後日、『KING OF PRISM』で菱田監督から「新しいものをやりたい」と言われたときに思い出して「ポールダンスはこんなにすごくてカッコいいんです」と出してみたんです。すると「いいね」と採用になり、ポールダンスを作中に取り入れることになりました。そのときは曲がバラード系だったので、ゆったりしっとりした感じの動きでしたが、終わった後に、この技術とかノウハウはもっと生かせるのではないだろうか、もっと何か企画があれば、それこそポールダンスが題材の作品があればできるんじゃないだろうかと思いました。ただ、自分で企画しようとまでは思っていなくて(笑)

G:

(笑)

乙部:

その後、たまたまネットで、ポールダンスとアニメコスプレを合わせたショーをやっている人を見かけたんです。オススメとして偶然出てきたものだったんですが、そこでイメージがばっと来て「これこそがやりたいことではないだろうか?」と思いました。それからまた時間が経過しまして、「いよいよ、これは自分で企画を作らなければ何も動かないぞ」と(笑)

G:

いよいよ(笑)

乙部:

パイロットフィルムをちょっと作ってみて、なんとなく、これは江副さんも好きそうだなと思ったので、映像を見てもらって「どうですか、監督してみませんか」と声をかけたら「ぜひ」ということでいよいよ形になった……という、けっこう長い経緯がありまして。自分自身がポールダンスのイメージを覆された身だったので、我々が発信することで、またなにか違った形で見せることができるのではないかと。それを本格的に取り組んだのが、この『ポールプリンセス!!』です。

G:

江副監督は、この『ポールプリンセス!!』の話があったときの第一印象はどんなものでしたか?

江副:

やはり、私もポールダンスは映画やドラマなどでしか見たことがなかったので、イメージとしてはセクシーなもので、習い事としても美意識が高い女性たちのものだと思っていて、なじみのあるものではありませんでした。でも、乙部さんに動画を見せていただいて、こんな一面もあるんだなと。これならいろんなことができそうだし、ポールダンスはすごくストイックでカッコいいものだということがいろんな人に伝わればとも思って……あとプラスで、私がタツノコプロさんのCGのファンだったこともあって「これなら表現できる」という確信があったというのもあります。

乙部:

江副さんに話を持っていった理由の1つには、『プリパラ』や『キラッとプリ☆チャン』などでダンスシーンの絵コンテを描いてもらったことがあり、3Dのほうにも理解があって、我々といい関係が築けるのではないかという印象がありまして。



G:

なるほど。あと、江副監督に直接伺うのもなんなのですが、『王様ランキング』の時、キャラクターデザイン・総作画監督だった野崎あつこさんが、演出だった江副さんの姿を描いたツイートがあって、江副さんも反応していました。



G:

本作もこんな感じで作業しているのでしょうか?





江副:

今回は3D作品なのでここまで机に向かって何か描くことはないですが、当時ちょうどタツノコプロさんの何階か上でこんなことをしていましたね(笑)。猫背なので、立ち姿なんかもこんな感じだなと思います。

G:

本作に関して、「監督は大変だ」というツイートを見かけました。実際のところ、どういった点が大変ですか?以前、打ち合わせがたくさんあるというツイートされていましたが、そういった点でしょうか?





江副:

打ち合わせのツイートは別作品の演出処理の時の話ですね。今回は3D作品ということで、3D部分は乙部さんにかなりお任せしているので、その関連の打ち合わせは乙部さんと話したら終了ぐらいの感じもあって、上がってきたものに「いいですね!」というだけのことも(笑)

G:

(笑)

江副:

なので、ストレスはないんですけれど、監督としての大変さとしては、やはり自分の判断の正しさに自信が持てるかどうか、というところでしょうか。それでお客さんに受け入れられなかったら私のせいだなと。たぶん、スタッフの皆さんそうはおっしゃらないと思いますけれど、自分としては、やはり監督という立場でやらせていただいている以上は責任を持たなければいけないだろうと。コンテの最終的なジャッジとかもそうですが、音響さんの最終的なジャッジとか、今まで監督にお任せしていたところも全部自分でやらなければいけない。「これで本当に正しいんだろうか」と、毎回そこが不安でしょうがないというところですね。

G:

本作の場合、「本当に正しいんだろうか」と悩むようなところはどういった点でしたか?

江副:

本作はオリジナルアニメで正解がないので、皆さんに「これでどうですか?」と聞いたときに、「いいね」と言ってもらえれば違ってなかったんだなと思いますし、「こっちの方がいいんじゃないですか」と返ってきたら「なるほど」ということで取り入れたり……。今もまだ「正解」はわからなくて、手探り状態です。

G:

3DCGは乙部さんにお任せということでしたが、乙部さんは「これで本当に正しいのかな?」と迷うときはどう進めていくのですか?

乙部:

うーん、あまり迷わないかもしれないですね。

G:

迷わない!強いですね。

乙部:

確信を持ってやっているところがあって「自分がいいと思っている」という前提がありますから。たとえば「クオリティ面でもうちょっと足せたらよかったけど、時間があるからこれでいこう」という判断はいろいろなところですることになると思いますが、あえて挙げるならそれぐらいです。「このキャラクターの設定はこれでいいだろうか」みたいなところは、思うたびに毎回言って共有し、判断してもらっているので、大きく迷うところはないんです。

G:

おお。

乙部:

そういえば、YouTubeにアップしているドラマパートについては、フルコマでいくか、コマを落とした方がいいのかというところでは迷いがあって、実は2話以降、わずかにコマを落としていたりします。

G:

えっ、そうなんですね。

YouTubeオリジナルアニメ「ポールプリンセス‼」Ep.01 「ポールダンス、教えてください!」 - YouTube

YouTubeオリジナルアニメ「ポールプリンセス‼」Ep.02「魔法少女を仲間に!? 」 - YouTube

乙部:

ちょっと見やすく、なじみよい感じにした方がいいのかなと迷いました。PVパートに関しては、そういった迷いはないかなと思います。

G:

なるほど。再び江副監督にうかがいたいのですが、サテライトには「ロボットアニメがやりたくて入った」とのツイートがありました。なにか、きっかけになるロボットアニメがあったのですか?



江副:

そうですね、ガンダムとかマクロスとか普通に好きですよ。子どものころはマジンガーZの再放送とか見てました。タツノコさんでもロボットアニメをやることがあるならぜひ……!

G:

(笑) ダンスについては『超次元ゲイムネプテューヌ』のときにモーションキャプチャーで踊らされたことがあるという話もツイートされていました。





江副:

愚痴っぽく言ってますがこれは新人のころからお世話になっていた先輩演出の監督が言った事なのでただの冗談です。良い経験をさせていただきました。(笑) この時は簡易的な感じで、センサーをつけずにカメラの前で踊るだけでモーションキャプチャーができたんですけれど、別作品では専用のスタジオで360°沢山のカメラを付けてヘルメット、全身スーツで撮ったりモーションキャプチャーにもいろんな方法があるんだと知りました。本作のモーションキャプチャーに立ち会ったときは今までとはまた違ったので、こういうふうに普通のダンススタジオや会議室みたいな場所でも精密に撮れる技術があるんだなと衝撃を受けました。

G:

この『ネプテューヌ』のアニメの話は約10年前のことなのですが、乙部さんのように現場に携わっている人から見て、モーションキャプチャーの技術というのはかなり進んだのでしょうか。

乙部:

10年くらい前だと、大きなスタジオを借りて、周囲にカメラを20台、30台と置いてスーツについているマーカーを検出する光学式が多いでしょうか。今も使われていますが、お金をかけてカメラの台数を増やすと精度が上がります。僕らが使っているのは慣性式で、スタジオなど場所はあまり選びませんが、代わりにカメラで撮るのではなく、加速度センサーや慣性センサーのような、静止している状態からどれぐらい動いたかを計測するセンサーがたくさんついています。最初は、『プリティーリズム・レインボーライブ』に出てくる男子キャラに初導入しました。まだそのときは精度が低くて、ないよりはマシですが、あまりいいものでもなかったんです。腰はガンガン動いてしまうし、足は滑ってしまうし、これは直すのが大変だと。



G:

(笑)

乙部:

でも、だんだんと機材が進化して、『プリパラ』ぐらいまで来ると直しはほとんどなくなり、ユニットでもできるな、他の作品と並行してできるなというユーティリティになっていきました。ポールダンスでも撮れますよ、狭い空間でも正しく撮れますよと、そういうものになっています。もちろん、精度としては光学式の方が高いのですが、肉薄するところまで来ています。

G:

今回のポールダンスは、修正はどれぐらい入っているものなのですか?

乙部:

結構入っていますが、ダンスの内容を変えているわけではないんです。ポールダンスは回転するので、加速度の変化が大きくて、慣性式だとちょっとずつズレてくるので、データ上でそれを修正しているという感じです。

G:

『ポールプリンセス!!』を見ていて思ったのは、結構ポールの上に行ったり下に行ったりしています。今のモーションキャプチャーだと、ああいった高さの情報もちゃんとキャプチャーされるのですか?

御子白ユカリのダンス



乙部:

そこは難しいかなと思って言わないようにしていたんですが、まさに一番の肝で、今までのスーツだと高さが取れなかったんです。どうかすると、どこかへ飛んでいってしまう。それが、スーツの進化によって、気圧を測って高さを測定する技術が入りまして、ポールダンスをしていて静止したとしてもずっとポールの上の方に居続けられるようになりました。これが5年、6年ぐらい前だと、空中で飛ぶとストーンッとデータ上で落下してしまっていたんです。あと、静止していると、そこが地面の位置だと思って勝手に修正してしまったり……。

G:

まだポールの上の方にいても、勝手に落とされちゃうんですね。

乙部:

「あなた、地面にいますよね?間違っていますよ」といってくるんです。「いや、間違っているのはお前の方だ!」という話なんですが(笑)。そういう技術が入ったことでポールダンスもできるようになりました。これがなかったらできなかったんじゃないかと思います。

紫藤サナのダンス



G:

CGWORLD.JPに2017年12月22日に掲載された記事の中で、「22/7」のフルCGミュージックビデオの制作にあたり、キャラクターは3ds Maxでモデリングし、制服はMarvelous Designer、モーションはMVNを使って収録、さらにモーションキャプチャーで収録したデータを効率よく編集するためにオリジナルツール「BipedWorks」を使っているとの記載がありました。本作でもこのオリジナルツールは使われているのですか?

22/7 1stシングル『僕は存在していなかった』music video - YouTube

乙部:

これは、キャプチャー機材の進化を待つのではなく、自分たちが機材の足りないところを直していこうということで作ったツールなんです。ポールダンス用に、実はツールを何個か追加しています。回転しているとポールに対してズレていくので、それを補正するツールが2022年12月に完成しまして。

G:

おお、新しい。

乙部:

『KING OF PRISM』のときなどは、ここまで規模が大きくなかったので根性で修正していたのですが、さすがに根性にも限界があるということで……これも、一度やってみないとそういう技術が必要だとはわからなかったのですが、機械でうまく直せないかという話が2022年11月ぐらいに構想として出てきて、実際に追加されたのが12月でした。

G:

まさに、そのあたりのツールが活用されている最新例ということなんですね。

乙部:

そうですね。たとえば、これまでなら直すのに1カ月くらいかかっていたところが2週間くらいに短縮されたり、というレベルでツールが更新されている感じです。

G:

そんな感じなんですね。江副監督は、この8年ぐらいの環境変化を演出や監督の立場から見ていて、本作でこれまでに比べてすごいなと感じる部分はありますか?

江副:

3Dの進化がすごいなというのは感じます。ちょくちょく3D作品に携わらせていただいていますが、この前、久々に自分が『プリパラ』を担当した回のCGライブを見たら、こんなにも進化してきていたんだなと実感しました。当時も「すごいな」と思ったんですけれど、そこからさらに3〜4年で精度が上がったなと。モデルもすごく美しいですよね。関節とかもめちゃくちゃ自然で……私は全然CGには詳しくなくて、どういった技術が使われているかはまったくわからないんですが、すごく進化したというのは感じています。

G:

確かにそうですよね。この3〜4年は特にレベルの向上が著しくて、とても自然に見える感じがしています。何のレベルが向上した結果なのかというのはわからないのですが、これはなんでしょう?

乙部:

自分たちとしては、じわじわとレベルを上げていったという感覚なので、「特にここを頑張った」という感じではないんです。相当昔のものを見ると「こうすればよかったなぁ」というのはあったりしますけれど、どちらかといえば時間的制約で、もうこれ以上はできなかったというものだったりします。その点、『ポールプリンセス!!』はYouTubeでの配信ということもあって「自分たちはどこまでできるか」に挑戦しているところがあって、それが出ているんじゃないかなと思います。

G:

おおー、なるほど。

乙部:

あと、それとは別に、モーションキャプチャーの技術も向上していて、今までは手で直していたがたつきを機械が直してくれるようになったので、よりきれいになったという進化もあると思います。

G:

なるほど。今までのいろいろな改善の積み重ねが着実に反映されるようになってきたというイメージでしょうか。

乙部:

そうですね。当然、どういうところを直すかという進化の余地はあります。見た人からすると「なんかきれいになってる、違和感なく見られるようになった」というものが、僕らが技術で持ち上げている部分だったりするので、逆に気付かれたくなかったりもします(笑)

G:

(笑)

乙部:

目がいい人は気付いてしまうかもしれないですが、感想として「かわいい、きれい」と素直に言ってもらえるとうれしいですね。詳しい人が「他と比較して、これは〜〜」と言及していると「あっ、バレちゃう……」とドキドキします。「あんまり他とは比較しないで〜」と(笑)

G:

そういう感じなんですね。

乙部:

子ども向けのアイドルものをやっていると、どうしても見ている人に比較されることがあるんですけれど、3DCGを作る側からすると会社や作品ごとにそれぞれ違う条件で作っているということがわかっていて。比較したくなるのはわかるんですが、たぶん、こちらと同じ条件でやれば向こうも同じようになるし、向こうの条件でやるとこちらも同じになるよな〜と思うんです。

G:

前提条件が違うから、結果は当然違っているよね、と。

乙部:

もちろん、そういうことは言わないようにしていますけれど、お互い知り合いだったりしますから、そういう話をすることもあったりします。

G:

今回、YouTubeオリジナルアニメということで、お話の長さが固定じゃないところが特徴の1つかなと思います。たとえば第1話は5分15秒で、テレビで放送されるショートアニメではちょっとない長さなのですが、これは江副監督が決めているのですか?

江副:

基本的には尺は決まっていなくて自由でいいですよと言ってもらっているので、一番気持ちいいタイミングや間にすると結果的にこうなった、という感じです。できれば5分ぐらいにそろえたいという気持ちはあるんですが、どうしても7分ぐらいになってしまったりして。今回、オリジナル作品ということもあって、気軽に人に見てもらいたいというのがあって、ちょっとした隙間時間で見てもらえるのは5分ぐらいだろうということで、目指したところではあります。



G:

なるほど。それでも7分になってしまうときは、気持ちいいタイミングや間を考えるとどうしても7分必要だと。

江副:

じっくり間を取りたいしっとりしたシーンがあると自然に伸びちゃいますね。テレビのように尺が決まっていたら泣く泣くカットするところですが、それがないので、一番気持ちいいタイミングに合わせて作らせてもらっている感じです。キャラクターによって、のんびりしゃべる子がいるとどうしても伸びちゃうというところもありますね。

G:

こういう作品の場合、絵コンテはどのように作っているんですか?

江副:

ドラマパートに関しては、最初は3Dでカット割りとかカメラワークとかを完結させましょうという話だったのですが、やっぱりなかなか大変だということで、カット割りだけ、私の方でマルチョンのコンテですけれど決めさせていただいたという形です。

G:

作り方としては、標準的なアニメ作品と同じ感じなのでしょうか?

江副:

もともと、ドラマパートはピクチャードラマのイメージで作ろうというのがあったので、プレスコで声を録って、それに合わせて舞台役者さんに芝居をつけてもらって今の3Dアニメになっています。最初、声だけを録ったので間が割とまちまちだったので、それをカッティングで詰めたり伸ばしたり、調整してもらっています。

G:

なるほど、ちょっと変わった作りではあるんですね。今回、ポールダンスは具体的になにか参考にしたものはあるのでしょうか?

江副:

スタッフの方と一緒に、ポールダンス監修をしてもらっているSTUDIO TRANSFORMのKAORI先生のところの発表会を見に行ったり、教室の生徒さんに取材させていただいたりしました。それこそ、「なぜポールダンスを始めたんですか?」とか「ポールダンスをやっていてきつかったことはなんですか?」とかを聞いて、そのエピソードはストーリーに盛り込んだりしています。

G:

作中のエピソードはわりとリアルな部分が反映されているということなんですね。

江副:

はい、実際にポールダンスをしている方々の体験が反映されています。

G:

乙部さんもそういった実地の取材で、何か印象的だった部分はありますか?

乙部:

取材では脚本の待田堂子さんを中心として中高生に話を聞いていったのですが、とても中高生とは思えないようなちゃんとした答えが出てきたのに驚きました。イメージとしては、もうちょっと答えに詰まったりするのかなと思っていたのですが、大人顔負けの回答で。ポールダンスは大人の中で練習する機会が多いからなのか、すごく大人だったなという印象があります。技術的な部分でどうこうというよりも、ポールダンスをしている人の印象が変わったというのがありますね。

G:

おおー、なるほど。

乙部:

あと、KAORI先生は『ポールプリンセス!!』の話をしたとき、「こういうのを待っていました」と言ってくれて、たとえばユカリはバレエを取り入れているから今もバレエをやっている方、ノアはKAORI先生が日舞もやっているのでご自身が担当してくださったり、とリストアップしてくれました。最悪、話を持っていったとき「興味ありません」と言われるかもしれないと思っていましたが、受け入れてもらえたというのは大きかったです。

YouTubeオリジナルアニメ「ポールプリンセス‼」御子白ユカリ ポールダンスショームービー - YouTube

G:

再び監督にうかがいます。いったん作品から離れるのですが、ツイートでメガテンシリーズが自分の原体験で、アトラスに就職したいと思っていたというツイートがありました。ゲームは結構やる方なのですか?



江副:

今はちょっとあまりできてないんですけれど、そうですね。子供のころゲーム会社に就職したいと考えたんですけれど、ぜんぜん理系じゃなかったので諦めました。ゲーム会社=プログラマーだと思っていたので。ちゃんと調べればいくらでも別の仕事があるですが、当時は思いつかなくて。結果的にはアニメをやっていたことで、間接的にですが『ペルソナ』や『デビルサバイバー』をやらせていただく機会があったので、人生わからないなと思いました。



G:

どのあたりで、アニメを仕事にしたいと考えたのですか?

江副:

大学の時、就職について何も決まっていなくて、だらだらと過ごしていたところ、姉がバイトしていたTSUTAYAでアニメや映画をいろいろ借りてきてくれたのでひたすら見てたんです。そこで『戦闘妖精雪風』に出会って「アニメの演出ってめちゃくちゃカッコいいな!」と思ったのがきっかけです。



江副:

そこから、大学に通いつつ京都アニメーションがやっていた一般向けの絵画塾に通ったり、代々木アニメーション学院の夜間に行ったり、と。

G:

なるほど、そういう出会いだったんですね。乙部さんはいかがですか?なぜアニメの道に進んだのですか?

乙部:

むしろ僕は、この業界に来るまでアニメは全然見ていなくて、絵を描く仕事をしたかったんですけれど自分はゴッホにはなれないなと思って。

G:

ゴッホ。

乙部:

それで、現実的なところで技術者やエンジニアで就職先を探そうとしたとき、「3DCGで教材を作ってみないか?」という教授がいて、それを見た瞬間に釘付けになってしまって。ずっと機械工学をやってきたんですけれど、そこからは機械工学の単位は最低限にして、残りを全振りするぐらい集中していました。「機械+絵=CG、これしかない!」と。その教授がバイトも斡旋してくれて、メガネ工場のCGを作ったりしたんですけれど、その後、本格的に勉強したいと思って大阪の方で1年だけ専門学校に行きました。就職の時、だいたいの人はゲーム会社に行きたいと言っていて、僕もカプコンを受けたんですけれど、そのとき他にサンライズからも募集があったんです。

G:

おっ、サンライズ。

乙部:

さすがにガンダムは知っていましたから、「受かるわけはないけれど記念で受けてみよう」と思っていたら面接の帰り道に合格の電話が来て、「いつから来られますか?」と。そこからアニメ人生が始まった、という感じです。

G:

なるほど。その後、タツノコプロに、と。

乙部:

サンライズ時代に、のちにタツノコに行く人と一緒になって。タツノコさんで3DCGを強化したいという話があるということなので、行って何かできたらいいなという気持ちで来ました。

G:

今回、『ポールプリンセス!!』ではスーツで高度が取れるようになったのが1つ大きそうだなと思うのですが、このほかに、技術としてはできてきているけれども使わなかった、本当はこういったこともできるようになっている、というようなことはあるのでしょうか?

乙部:

そうですね……今回、ドラマパートを3分から5分ぐらいで作っていますが、時間と予算が許すのであれば、これを30分にすることもできます。ドラマパートは最初、公式サイトにテキストを掲載して、音声を再生する仕組みにするという考えもあったんですけれど、3DCGでドラマパートを盛り上げたいということで最終的にフルCGでやらせてもらいました。「本当はこういうこともできるんだよ」と示したかったというのもあります。これを長尺にしたり、規模を大きくするのは、本当ならできるけれど、時間や予算の都合でなかなか難しいというところで、実際には想定より負担が大きくてやらないほうがいいのかもしれないですけれど(笑)

G:

(笑)

乙部:

自分でもなかなか確信を持っては言えないんですけれど、そういうのはあります。

G:

江副監督はTwitterで積極的に情報発信していて、いろいろな仕事をしつつ演劇や映画を見に行ったりしているなーという感じなのですが、スケジュールはどのように調整しているんですか?

江副:

もちろん今は、仕事に関しては『ポールプリンセス!!』に集中させてもらっていますが、演出は、引き出しを一杯作っておいた方が良くて。なるべく、お仕事が来たときにはできるだけやりたい、苦手分野は作りたくないというのがあって。あまりアクションは得意な方ではないですけれど、「アクションは苦手なんです」と言っているといつまでも学ばないので、難しいかもしれないものにもなるべく参加するようにしています。今回の『ポールプリンセス!!』の尺やボリューム感はちょうど自分の手がギリギリ届く範囲だなという感じだったので、監督をやらせていただく決断ができました。やれるところまで全力でやりたいなと思っています。

G:

『ポールプリンセス!!』はすでに配信が始まっていますが、このインタビューをきっかけに新たに視聴を始める人も、見てみようかなと思う人もいると思います。そういった人に向けて「こういったところが見どころだよ〜」とオススメする点は、どういったところですか?

江副:

やはり、ポールダンスの美しさが一番のおすすめポイントです。今までやってきていないことだと思いますし、作画はなかなか難しい、回転や立体感、3次元的に見せたりするところをやっていて、背景や演出もめちゃくちゃきれいです。さらに、ドラマパートと合わせるとキャラクターのことがさらに深く理解できると思いますので、合わせて見てもらえるとうれしいです。

乙部:

全体の構成やキャラの表情はもちろん、結構な大技をさらっとやってたりします。僕自身もポールダンスにそこまで詳しいわけではないので、「こんな技があるんだ」「この曲調だとこういう動きになるんだ」というのがあったりします。その中でも、ノアの演舞は、日舞と合わせて会心の出来だと思っています。いまだに、1日に10回以上見ています。公開されているPVを見るときの気持ちとして、たとえばユカリのショーは「これから受験して高みに行きたい、背中を押して欲しい」という時に合う、とにかく明るくなれるものだと思いますし、ノアのショーは疲れたサラリーマンの方に見ていただきたいです。そうやって、いろんな人に見てもらって、「見て気持ちがよくなった」とか「いい方向に向かいそうな気持ちになった」とかなってくれればうれしいなと思います。

YouTubeオリジナルアニメ「ポールプリンセス‼」蒼唯ノア(CV.早見沙織)ポールダンスショームービー - YouTube

G:

なるほど。本日はお話、ありがとうございました。

YouTubeオリジナルアニメ「ポールプリンセス!!」はショームービー、ドラマパートとも絶賛配信中です。

YouTubeオリジナルアニメ「ポールプリンセス‼」Ep.00「プロローグ」 - YouTube

©エイベックス・ピクチャーズ/タツノコプロ/ポールプリンセス!!製作委員会

◆「ポールプリンセス!!」作品情報

・スタッフ

監督:江副仁美

脚本:待田堂子

CGディレクター:乙部善弘

キャラクター原案:トマリ

音楽:東大路憲太

音楽制作:avex pictures

ポールダンス監修:KAORI(STUDIO TRANSFORM)

アニメーション制作:タツノコプロ

原作:エイベックス・ピクチャーズ、タツノコプロ

・キャスト

星北ヒナノ:土屋李央

西条リリア:鈴木杏奈

東坂ミオ:小倉唯

南曜スバル:日向未南

御⼦⽩ユカリ:南條愛乃

紫藤サナ:⽇⾼⾥菜

蒼唯ノア:早⾒沙織

芯央アズミ:釘宮理恵