「多発性硬化症」になると現れる症状・原因はご存知ですか?医師が監修!
中枢神経の一部が障害され、様々な症状を引き起こす「多発性硬化症」は難病にも指定されている病気です。
20代~30代の若い年齢層で発症することが多く、症状が現れる「再発」と症状が治まる「寛解」をくり返すことが特徴です。
そして、その状態をくり返していくうちに徐々に身体機能の低下が現れはじめます。人によっては、初期段階から急激に身体機能が低下することもあります。
しかし、現在では治療方法の研究開発が進み、早期に治療を開始すれば病気の進行を抑えることが可能です。
今回は、治療方法や余命・日常生活の注意点・後遺症も解説していきます。是非参考にしてみてください。
多発性硬化症の経過と原因
多発性硬化症はどんな病気ですか。
多発性硬化症は、中枢神経系の様々な場所に病変がみられる疾患です。その名のとおり、脳・脊髄・視神経などのあらゆる部位に硬い病巣が多発します。「multiple sclerosis(MS)」とも呼ばれています。病巣が発生する部位により症状は異なるのが特徴です。具体的には、視力障害・感覚障害・排尿障害などの症状です。一般的には20代~30代の若年層に発症し、男性よりも女性のほうが多く発症するというデータがあります。また。多発性硬化症の患者数は年々増えており、国内では視神経症状と脊髄症状が現れる「視神経脊髄炎」を含めて約7000人、世界では約230万人もの患者がいるといわれています。
多発性硬化症はどんな経過をたどりますか。
多発性硬化症の経過は人により様々ですが、症状が出る「再発」と症状が治まる「寛解」をくり返すのが一般的です。このような経過のたどり方を「再発寛解型(RRMS)」といいます。さらに、再発と寛解を繰り返すうちに再発がみられない状態となっていきます。次第に再発がみられないにもかかわらず、身体の機能障害が悪化していくのが特徴です。この状態を「二次進行型(SPMS)」といいます。国内で「再発寛解型(RRMS)」から発症する人の割合は約8割です。
しかし、まれに初期から身体の機能障害が悪化していく「一次進行型(PPMS)」という経過をたどる人もいます。この場合、基本的に再発期や寛解期はみられず、時間の経過とともに機能障害が進行するのが特徴です。
多発性硬化症の特徴的な症状は何ですか。
多発性硬化症の症状は、病巣が発生する場所により様々です。例えば、視力障害・感覚異常・麻痺などが現れることがあります。そして、最も特徴的なのは症状が再度現れる「再発」と症状が落ち着く「寛解」という状態をくり返すことです。しかし、病気が進行するにつれ、再発期でない時にも身体機能が少しずつ低下していきます。
多発性硬化症はなにが原因ですか。
多発性硬化症が引き起こされる原因については明らかになっていません。しかし、何らかの原因で神経細胞の情報を伝える電線のような部分が障害されることにより症状が出るという機序は明らかです。この電線のような部分の一部がむき出しの状態になってしまうことを「脱髄」といいます。脱髄を起こすことにより脳からの情報伝達が阻害され、症状が出現するのが多発性硬化症の特徴です。また、多発性硬化症は、本来自分の身体を守るためのリンパ球が自分自身の細胞を攻撃してしまう「自己免疫疾患」であることも確認されています。
多発性硬化症の治療方法と余命
多発性硬化症の診断方法を教えてください。
まずはじめに行うのは問診です。はじめに症状が出てからの様子や既往歴について詳しくヒアリングしていきます。さらに、下記の検査を用いて、他の病気との鑑別をしていきます。神経学的検査
MRI検査
EDSS(Expanded Disability Status Scale:総合障害度スケール)
髄液検査
誘発電位検査
神経学的検査の目的は、視力障害や運動障害の程度の確認です。手足がしびれる症状や感覚に違和感などがないかを詳しくチェックします。
MRI検査は病巣の部位を確認するための画像診断です。この検査は、経過観察の際にも行っていきます。身体の機能の障害度を医師が評価するスケールです。20段階で評価し、多発性硬化症の進行度を確認します。
髄液検査は、腰に針を刺し、髄液を採取して検査します。髄液検査では多発性硬化症により、脳や脊髄に生じている異常を確認することが可能です。頭に電極を付けて脳波を測定するのが誘導電位検査です。脱髄がみられる場合には脳波に異常が現れます。
多発性硬化症ではどんな治療をしますか。
多発性硬化症の治療方法は、症状が出ている状況により異なります。まず、寛解期の場合には再発や進行を防ぐための治療を行うのが一般的です。具体的には、飲み薬・注射・点滴などで症状を抑えていきます。しかし、早い段階から疾患特有の神経症状などが強く出ている場合には、多発性硬化症特有の症状に高い効果を発揮する薬剤を積極的に使っていきます。また、症状が初めて出た場合や再発した場合には、ステロイド剤で神経の炎症を抑えていくことが多いです。
もしも身体に何かしらの障害が出てしまった場合には、機能をそれ以上低下させないようにリハビリテーションを行っていきます。
多発性硬化症の余命はどれくらいですか。
多発性硬化症の多くは再発と寛解を繰り返しながら、ゆっくりと神経症状が進んでいきます。しかし、早期に治療を開始すれば進行を抑えることができます。以前は20年ほどで脳が萎縮し、認知機能の低下が現れることが一般的でした。しかし現在では、治療方法の研究開発が進んだことで、発症から20年を超えても症状の悪化を抑えて生活できるようになっています。ただし、長期にわたって治療を継続していく必要はあります。
また、人によっては初期から急激に症状が進行し、寝たきりとなってしまうようなケースもあるため注意が必要です。
多発性硬化症の注意点と後遺症
日常生活での注意点はありますか。
体温が高くなると、「ウートフ(Uhthoff)徴候」という多発性硬化症の特徴的な症状が現れることがあります。これは体温が高くなることにより、神経症状が一時的に悪化する現象です。体温が正常に戻ることで症状も治まりますが、運動や入浴の際などは気をつけましょう。また、過労やストレスが症状を悪化させる原因となります。しっかりと休息をとり、ストレスを溜め込まないように心がけてください。
さらに、感染症が多発性硬化症を悪化させることもあります。過度に心配しすぎる必要はありませんが、体調に変化があった時はかかりつけ医に相談することをおすすめします。
多発性硬化症に後遺症はありますか。
神経症状の進行度合いにより身体機能が低下し、歩行障害や排尿障害などが起きる可能性があります。そのため、リハビリテーションなどを行い、現状の身体機能をできるだけ維持できるようにしていくことが大切です。リハビリの効果はすぐに実感できるわけではありませんが、残った身体機能を最大限に活かすことができるように継続していきましょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
多発性硬化症は難病にも指定されている進行性の病気です。しかし、現在では治療薬の開発が進み、病気の進行やつらい症状が抑えられるようになりました。しかし、治療の開始が遅れれば身体機能が低下し、日常生活に大きな支障が出てしまうこともあります。そのため、早期に治療を開始することが望ましいでしょう。
編集部まとめ
今回は中枢神経に硬い病巣が多数発生する「多発性硬化症」についてお話しました。
多発性硬化症は、症状がおきる「再発」と症状が治まる「寛解」をくり返し、徐々に身体機能が低下していく病気です。
感覚障害・歩行障害・排尿障害などの症状が現れ、日常生活に影響を及ぼすこともあります。
しかし、早期に治療を開始することで基本的には症状の進行を抑えることが可能です。身体の異変に気が付いた場合、できるだけ早めに検査を受けることがおすすめです。
また多発性硬化症を発症した場合には、薬による治療と並行してリハビリテーションを行うことも身体機能低下の予防につながります。
気になることがあれば一人で悩まず、医療機関へ相談するようにしてください。
参考文献
多発性硬化症/視神経脊髄炎(難病情報センター)