混迷を深める世界経済(写真はイメージ)

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日米欧やロシア、中国など20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が2023年2月24、25日、インド南部ベンガルールで開催された。ロシアのウクライナ侵攻に加え、米欧の利上げの影響で深刻化する途上国の債務問題への対応が大きな焦点だったが、めぼしい成果は上げられなかった。

ロシアと中国の反対で共同声明が4会合連続で採択できなかったことが大きなニュースになったが、国家の経済的破綻の危機に直面する途上国もあるなかで、その救済にも満足に動けない今の国際環境の厳しさを改めて印象付けた。

今回も「共同声明」に代わる「議長総括」に 中露の反対を注記

会議では欧米や日本は共同声明の採択に向け、「ウクライナでの戦争を非難する」と記した22年11月のG20首脳会議の宣言と同等の内容を盛り込むよう要求した。これに対し、ロシアと中国は「昨年の状況とは違っている」と主張して反対した。「戦争」という文言が前面に出るのを嫌ったとみられている。

結局、議長国のインドは共同声明に代わる「議長総括」を発表。そのなかで、首脳宣言と同じく、「ほとんどのメンバーはウクライナでの戦争を強く非難」と書いた。そのうえで、この表現が「ロシアと中国を除く全てのメンバーによって合意された」とわざわざ注記した。一方で、ウクライナ問題の状況と対ロシア制裁について「他の見解、異なる評価があった」とも記し、「両論併記」のかたちになった。

IMFに金融支援を要請するスリランカ、パキスタン、バングラデッシュ 他の低所得国も過剰債務リスク抱える

ここまでは、ロシアのウクライナ侵攻後の1年間、繰り返し見てきた場面ともいえるが、財務相会議だけに、世界経済、深刻な途上国の債務問題への対応も重要な議題だった。

とりわけ、「グローバルサウス」(新興国・途上国)のリーダーを標榜するインドが23年のG20議長国で、秋のG20首脳会議に向けた一連の各大臣会合の第1弾という意味でも注目された。

「多くの国々で持続不可能な債務水準によって、財政的な存続も脅かされている」

インドのモディ首相は24日に開幕した財務相会議冒頭に寄せたビデオメッセージで、そう訴えた。

新興国や途上国の債務問題が深刻化したのは、世界的な経済環境の激変が絡み合ったためだ。

背景として、新型コロナウイルスの感染拡大による景気低迷で財政状況が悪化していたところに、2022年春から始まった米国の利上げやウクライナ侵攻が重なった。

米利上げによりドル高・新興国の通貨安が進み、途上国のドル建て債務の返済負担が増加。ウクライナ侵攻で資源や食料の価格が高騰し、外貨不足に拍車をかけている。

真っ先に危機が顕在化したのがスリランカだ。22年4月、事実上の対外債務のデフォルト(債務不履行)に陥り、国内物価は高騰、政情不安で政権交代したが、混乱が続いている。

パキスタンもインフラ整備で借り入れた債務が膨らむなか、資源高などで外貨不足となり返済が困難になりつつある。22年秋には国土の3分の1が水没するという大災害にも見舞われた。格付け大手フィッチは2月14日、「デフォルトまたは債務再編の可能性がますます高まっている」として、パキスタンの格付けを「CCCマイナス」に2段階引き下げた。

両国にバングラデッシュを加えた南アジア3か国は、国際通貨基金(IMF)に金融支援を要請している。

こうした動きがあるなか、世界の主要な金融機関が加盟する国際金融協会(IIF)は2月22日、22年10〜12月期の新興国の債務残高が98兆2000億ドル(1京3200兆円)に達したと発表した。IMFはG20財務相会議に向けた報告を2月22日におこない、低所得国の約15%が過剰債務に陥り、45%が過剰債務に陥る高いリスクを抱えていると指摘。さらに、「新興市場国でも約25%の国々が高いリスクにさらされている」と警鐘を鳴らしている。

コロナ禍で景気低迷・財政悪化、ドル高で債務拡大が追い打ち

従来、こうした債務問題は先進国を中心に作る「パリクラブ(主要債権国会議)」という枠組みで対応してきたが、近年は状況が大きく変わっている。そのカギを握るプレーヤーが中国だ。

中国はいろいろな「顔」を使い分け、たとえば地球温暖化問題では「途上国代表」として、地球に負荷を与えて先に経済成長を遂げた米欧を中心とする先進国と対峙している。

ところが途上国の債務問題では、中国はいまや二国間融資で世界最大の債権国として、債権カット(借金の棒引き)を求められる立場だ。

この間、G20は2020年に「共通枠組み」と呼ばれる仕組みを導入した。IMFを中心に個別の国について、債務の一部免除を含む支援を協議する場で、チャドに対する債務再編が妥結し、ザンビアとエチオピアに対する協議が進んでいる。

今回のG20でインドはこの枠組みの拡大を提案したとされるが、議長総括は、チャドなどへの対応を「歓迎」し、スリランカなど他国の債務の解決への「期待」を表明するにとどまり、具体策の進展はなかった。

議論の進展の壁になっているのが中国だ。

そもそも、インフラ整備などに巨額の融資をし、返済に窮すると港湾の使用権を手に入れるといったことをスリランカなどで行って、米国などから批判されている。

その中国が持つ途上国向け債権について、カットの話し合いに応じる以前に、どのような条件の債権をどの程度持っているかという、話し合いの前提になる情報も十分に開示していない。

G20でも基本姿勢に変化はなかったようで、議長総括も、債権者に「自発的にデータを提供するよう引き続き奨励する」と記すにとどまった。

ウクライナ危機に直接かかわる議論では、当面、国際社会の対立の終息は望めないが、途上国債務問題は、協力可能なテーマだ。一致して取り組まなければ世界経済の混乱を招きかねないという意味でも、先進国と新興国・途上国をつなぐG20の役割が重要というのは、衆目が一致するところ。

今回は2023年の議論のスタート。4月に毎年恒例のIMF・世界銀行の一連の国際会議があり、最終的には9月のG20首脳会議に向け、途上国の盟主を標榜するインドがどのようなリーダーシップを発揮して議論をまとめていくか、今後の推移に注目する必要がある。(ジャーナリスト 白井俊郎)