新型コロナウイルス感染症の拡大から丸3年が経過しようとしています。2023年初頭、第8波が拡大しているとはいえ行動制限がなくなり、ウィズコロナが定着して、住まいに対する考え方にも変化が生じつつあるようです。どんな変化が起こっているのでしょうか。

コロナ禍で住まいに対する考え方が大きく変化

2020年春先に新型コロナウイルス感染症が拡大、4月には第1回の緊急事態宣言が発出され、感染防止対策の徹底が促されました。

密閉空間、密集場所、密接場面の「三つの密」の回避、「人と人の距離の確保」「マスクの着用」「手洗い等の手指衛生」「換気」の重要性が強調されました。実際の生活では、可能な限り在宅ワークが推奨されるようになり、外出を控えるようになりました。

住まいに対する考え方も大きく変化しました。コロナ禍以前は、都心やその周辺の交通アクセスに恵まれ、都心やその周辺の企業に勤務する会社員などを中心に、利便性の高いマンションが人気でした。しかし、マンションでは共用部分などでの第三者との接触が避けられない上、「万一、感染者が発生した場合、居室内での安全を確保しにくい」、「家族全員の在宅時間が長くなり、居室の狭いマンションでは息苦しい」など、さまざまな問題が見えてきました。

接触を少なくできる戸建住宅が人気に

対して、一般的に戸建住宅は交通アクセスや利便性ではマンションに比べて劣る面があると言われることが多いものの、コロナ禍においてその良さが改めて見直されるようになりました。基本的に家族以外の第三者との接触を回避でき、マンションに比べて延床面積が広いことが多いので、感染者が出た際の隔離や在宅ワーク、家族全員それぞれの空間などを確保しやすい、といったメリットが再評価されるようになったのです。

リクルートSUUMOリサーチセンターが2021年3月に行った調査によると、「新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、注文住宅を建てたい気持ちは強くなった」とする人は20.2%。対して、「新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、注文住宅を建てたい気持ちは弱くなった」とする人は9.4%で、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い注文住宅に関心を持つようになった人が関心が弱まった人の2倍以上となりました。コロナ禍が戸建住宅への関心を高めるきっかけになったのは間違いないでしょう。

戸建てニーズの高まりを受け、コロナ禍以降、戸建て住宅の価格が上昇

首都圏の戸建住宅の価格は、コロナ禍が発生した2020年度から、より深刻化した2021年度にかけて急激に上昇しました(図表1)。これまでに触れたようにコロナ禍で住宅に対する考え方が変わり、戸建住宅へのニーズが高まってきたことに対応しているのかもしれません。

出典:公益財団法人東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2021年度)」

新築戸建住宅の平均成約価格は、コロナ禍前の2019年度は3,503万円でしたが、2020年度には3,575万円に、そして2021年度には3,977万円まで上がりました。2019年度から2年間で13.5%も上がった計算です。

コロナ禍で戸建て住宅市場は完全な「売り手市場」に

中古住宅価格も同様です。コロナ禍前の2019年度は3,117万円でしたが、2021年度には3,524万円となり、2年間で13%上がりました。

仲介市場では価格交渉が行われ、一定の値引きの上で契約が成立するのが当たり前になっています。戸建住宅人気のなかで、売出し時の価格(新規登録価格)と成約価格の差も小さくなって、値引き率が縮小、より売出し価格に近い価格で成約できるようになっています。さらに人気エリアの物件だと、値引きなしで契約が成立するケースが増えています。

しかも、市場に売りに出してから成約するまでの期間も短くなっています。図表2にあるように、新築住宅は2020年度は平均89.7日かかっていたのが、2021年度には69.3日に短縮されました。中古戸建も114.1日から100日を切って95.2日になりました。

コロナ禍で、戸建住宅市場は売り手優位の完全な「売り手市場」になったと言っていいでしょう。

出典:公益財団法人東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2021年度)」

在宅ワーク実施率が2022年に若干低下

しかし、2022年後半からほとんどの行動制限がなくなり、入国者に対する水際対策も解除、企業においても在宅勤務シフトから出社を求めるケースが増えてきました。内閣府の調査でも、2021年にはテレワークの実施率(※)が東京23区では50%半ばまで上昇しましたが、その後は横ばいに。2022年に入ると、わずかとはいえテレワーク実施率が低下しています(図表3)。

※働き方に関する問に対し、「テレワーク(ほぼ100%)」、「テレワーク中心(50%以上)で定期的にテレワークを併用」、「出勤中心(50%以上)で定期的にテレワークを併用」、「基本的に出勤だが不定期にテレワークを利用」のいずれかに回答した人の割合

出典:内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」

社員のコミュニケーションを重視する企業、現場主義を徹底する企業では、原則的に全社員に出社を強制するケースも出ています。

そのため、住まいに対する意識もまた変わりつつあります。戸建住宅のメリットが再評価されたものの、出社が必要となるとやはり交通アクセスに優れ、利便性の高いマンションのほうがいいのではないかと考える人が増加してきたのです。

2022年、戸建住宅購入意欲がコロナ禍以降では最低に

マンション情報サイトの「住まいサーフィン」を運営するスタイルアクトでは、定期的にマンション購入希望者に対する意識調査を行っています。コロナ禍で戸建住宅指向が高まってきたことに対応して、戸建住宅の購入意欲の増減についても調査項目に加えています。

その結果、戸建住宅の「購入意欲が増した」「戸建購入意欲がやや増した」の合計は、2022年1月は49.8%、4月は47.6%と2022年4月までは半数近くに達していたのが、7月には23.6%と急減し、10月にはさらに17.2%まで低下しました(図表4)。

調査を行ったスタイルアクトによると、この17.2%という数値はコロナ禍以降では最低の水準だそうです。

出典:スタイルアクト株式会社「『住まいサーフィン』第59回マンション購入に対する意識調査」

売り手市場が継続しているうちに高値で売るのが得策?

戸建住宅の購入意欲は低下傾向であるものの、平均価格は2022年度に入っても上昇傾向を継続しています。

東日本不動産流通機構(東日本レインズ)によると、新築戸建住宅の平均価格は2022年度に入っても上昇が続いていて、2021年後半には4,000万円台に乗り、2020年11月から2022年11月まで前年同月比で25ヶ月連続、2年以上値上がりが続いているのです。

中古戸建も新築と同様、2020年11月から2022年11月まで25ヶ月連続して上がり続けており、低下の気配はありません。2022年8月と9月は前年同月比2桁台のアップで、10月が4.4%、11月が6.6%という高い上昇率を維持しています。

しかし、これまで見てきたようにウィズコロナ社会の進行によって、戸建住宅購入意欲がより減退していく可能性もあります。完全な「売り手市場」から、ジワジワと中立的な市場に、そしてやがて買い手優位、売り手不利の「買い手市場」に変化していく可能性があります。

住まいに対する考え方の変化だけではなく、諸物価の高騰による家計の縮小や住宅ローン金利の上昇などのほかの要因も加わって、想定以上に早くそのような状況へと進行する可能性もあります。そう考えると、戸建住宅の売却を考えているのであれば、市場構造が変化する前に、早めに動いたほうがいいのかもしれません。