大阪環状線内のみで運用する列車は323系。大阪城天守閣を見ながら走る(撮影:鼠入昌史)

前回、大阪の北部を走る大阪モノレールや、阪急、阪神、大阪メトロなど梅田駅に乗り入れる路線を中心に紹介した(「東京より乗りこなせる?大阪北部ご当地鉄道事情」参照)。

さて、大阪の真ん中には、東京とそっくりな環状線がある。名前はそのままひねりもなくて、大阪環状線という。駅の数は山手線より11少ない19駅。所要時間はおおよそ40分で、大阪の皆様にお叱りを受けることを承知でいえば、都市の規模に応じたほどよいサイズの“プチ山手線”である。

油断ができない環状線

大阪駅から大阪環状線の内回り(左回り)に乗れば、西九条駅からはユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に向かうJRゆめ咲線が分岐。大正駅付近では京セラドームが車窓から覗き、通天閣の最寄り駅でもある新今宮駅の脇には星野リゾートが開発したOMO7大阪が広がり、そして天王寺駅からは巨大なあべのハルカスが見える。

鶴橋駅ではホームにも焼き肉の匂いが香り、森ノ宮駅は大阪城の天守閣が見える一等席。そうして京橋駅などを経て、再び大阪駅へ戻ってくる。確かに、大阪環状線に乗れば“大阪の大阪らしいところ”を、車窓から気軽に楽しめるのである。

ところが、これをもって東京から大阪に訪れた人が、安心して大阪環状線に乗ってはいけない。大阪環状線は、山手線とは明確に違う、まったく別の特徴を持っている。


西九条―桜島間のJRゆめ咲線は、ほとんどが工業地帯を走ってUSJへ(撮影:鼠入昌史)

大阪環状線は、単にぐるぐる回っているだけではない。もちろんぐるぐる回る列車もあるのだが、同じホームには環状線からほかの路線に直通する列車もやってくるのだ。具体的には、大和路線直通で奈良方面に向かう大和路快速、阪和線直通で関西国際空港や和歌山に向かう関空快速・紀州路快速である。

これらの列車は、天王寺駅を起点に大阪環状線を1周、再び天王寺駅に戻ってくると、ここからは大和路線や阪和線、それぞれの路線に入るという運行形態だ。都心を1周してから郊外へ出て行くという、どこかのマラソンコースにありそうなルートをたどって、奈良や和歌山を目指す。


大和路快速は、大阪環状線を一周したのちに天王寺から大和路線へ(撮影:鼠入昌史)

もちろん、山手線も似たようなところはあって、例えば田町駅で山手線の向かいのホームにやってくる京浜東北線に乗ってしまうと、渋谷や池袋には行かずに浦和や川崎に連れていかれてしまう。が、まったく同じホームと線路を共有しているわけではないから、間違えるリスクは低い。

中心部から延びる私鉄路線

ところが、大阪の場合は同じホームにぐるぐる回る電車と奈良や和歌山に向かう電車が続けてやってくる。

不慣れな旅人が山手線と同じように、「どちらに乗れば正解かわからないが、一周するのだからいずれはたどり着くだろう」などと思っていたら、気がつくと見知らぬ駅に誘われるという惨事を招きかねない。大阪環状線、プチ山手線などといって、侮ってはならないのである。さらに関空快速・紀州路快速は途中の日根野で切り離して別々の行き先に向かうため注意が必要だ。

そうした大阪環状線の周縁部(や内側)からは、JRの阪和線・大和路線だけでなく、私鉄各線も各方面に向かって延びている。いや、むしろ大阪をはじめとする関西の鉄道は、これら私鉄の電車によって支えられているといっていい。大阪の私鉄は、それくらいのインパクトを持った存在だ。

梅田を拠点にする阪急電車と阪神電車を除けば、まず第一に触れねばならないのは近鉄であろう。

そもそも近鉄は大阪・奈良・京都・三重・愛知という2府3県にネットワークを持つ巨大な私鉄だ。ただ、中でもやはり大阪が中心という見方は間違いないだろう。大阪には、大阪難波・大阪阿部野橋という2つの近鉄のターミナルがある。


大阪線を走って奈良盆地を目指す近鉄特急「ひのとり」(撮影:鼠入昌史)

大阪難波駅から出ているのは、近鉄奈良線・大阪線の電車。奈良線はほとんどまっすぐに東に進み、ラグビーの聖地・花園を経て生駒山地を貫いて奈良盆地を目指す。布施駅でそれと分かれる大阪線は、途中で信貴線を分けつつ生駒山地の南側を迂回してこれまた目的は奈良盆地(最終的には名古屋・伊勢志摩に達する)だ。

同じ会社でもレールの幅が違う

大阪阿部野橋駅からは、レールの幅が他とは違う狭軌の路線が延びている。南大阪線といい、松原市や藤井寺市などの河内の諸市を経由してこちらも目指すは奈良盆地。終点の橿原神宮前駅では吉野線と接続しており、吉野方面の観光にも使われる路線である。

また、南大阪線は道明寺線・長野線という支線も持ち、とりわけ長野線はPL教団の花火大会で名の知られる富田林を通る。いずれの路線も、大阪郊外のベッドタウンと大阪市内を連絡する通勤通学路線だ。

大阪は、東に横たわる生駒山地を挟んで奈良と隣接する。生駒山地をいかにして越えるかは、鉄道以前からの大きなテーマ。特に勾配に弱い鉄道にとっては厳しい課題であった。JR大和路線と近鉄大阪線・南大阪線は南側を迂回し、JR学研都市線は北をゆく。それに対して、ほとんどまっすぐにトンネルで貫く奈良線は、奈良と大阪を最短距離で結ぶ大幹線としての機能も持っている。


大和川を渡る近鉄道明寺線。近鉄全路線の中で最も古い路線だ(撮影:鼠入昌史)


近鉄奈良線は瓢簞山駅から石切駅まで、急勾配で生駒山地を駆け上る。車窓から見る大阪平野の夕暮れは絶景だ(撮影:鼠入昌史)

そんなわけで、大阪の東や南東部を目指すなら、近鉄の存在感があまりに大きい。では、南に向かうならどうか。そこで第1の選択肢に浮上するのが、南海である。

南海電車は、1932年に完成した駅ビルを持つなんば駅がターミナル。登録有形文化財で、完成以来郄島屋が入るこの駅ビルは、大阪“ミナミ”の玄関口にふさわしい。かつて南海ホークスの本拠地だった大阪球場はなんばパークスに生まれ変わり、駅の東側の繁華街の中にはなんばグランド花月もある。そうした繁華街のど真ん中のターミナルから、南海電車は南を目指す。

関空や和歌山、高野山へ

南海電車の行き先は、主に3つだ。まずは関西国際空港で、特急「ラピート」はすっかり南海電車の顔になった。もう1つは、空港には向かわずにそのまままっすぐ県境を越えて和歌山へ。和歌山方面には特急「サザン」が走る。JR阪和線と競合している路線だが、実は戦時中のほんの一時期、いずれも同じ会社の路線だったことがある。

南海電車の関空・和歌山方面は、途中、初詣でもおなじみの住吉大社、大阪第2の都市・堺、だんじりの岸和田などを通る。旧国名でいうならば、「和泉」を貫いて走るのが、南海本線の役割だ。

そしてもう1つの行き先が、高野山だ。岸里玉出駅で本線と分かれ、日本一大きい前方後円墳・大仙陵古墳の脇を抜けて、中百舌鳥駅で系列の泉北高速鉄道が分岐すると、大阪狭山市を経て山の中。こちらは旧国名なら「河内」の路線で、かの楠木正成が拠点としたのもこの一帯。近鉄長野線と接続する河内長野駅を過ぎるとほとんど山の中で、そこにポツポツとニュータウンが広がっているのは、南海の沿線開発の成果である。

ちなみに、南海高野線の列車はすべてなんば駅が起点になっているが、路線としての実際は汐見橋という小さな駅だ。汐見橋―岸里玉出間は都会の真ん中を走りながらも本線・高野線とも分離された、“大都会の中のローカル線”と化している。


南海高野線の特急「りんかん」。千早口駅付近ではすっかり周囲は山の中(撮影:鼠入昌史)

奈良へ近鉄、和歌山や関空へ南海。そして梅田からは京都・宝塚・神戸へ阪急と阪神。そしてもう1つ、大阪市内をターミナルにしているのが京阪電車だ。文字通り、京都と大阪を結ぶ路線で、淀屋橋を発車すると途中、京橋駅で環状線と接続。以後は淀川左岸の守口・門真・寝屋川・枚方といった諸都市を通って京都に向かう。


京阪電車の枚方市―私市間を結ぶ交野線。生駒山地北麓から大阪平野を望む(撮影:鼠入昌史)

阪急電車やJR京都線、新幹線が淀川右岸なのに対して、こちらは左岸を通って棲み分けが成立しているのだろう。あのひらかたパークに行くならば、京阪電車一択である。

まだまだある大阪の路線

ほかにも大阪には南海の支線である多奈川線があったり、水間観音参詣路線の水間線があったり、大阪と堺を結ぶ路面電車の阪堺電車があったりと、まるで微に入り細に入り、鉄道空白地を潰すがごとくに鉄道が通っている。山の中でもない限り、大阪のほとんどは鉄道でアクセスできるといっていい。

そうした中でも、大阪の中心部ではなにわ筋線などさらなる鉄道網充実の計画がある。2023年春の大阪駅地下ホーム(うめきた新駅)開業も、そうした計画の1つに位置づけられる。全国的には鉄道は“斜陽”のご時世。が、まだまだ大都市においては存分に力を発揮してもらわねば困る。大阪は鉄路の存在感が大きな“鉄道の街”なのである。


関西国際空港へ向かうJR阪和線の特急「はるか」。2023年春、大阪駅地下ホームに乗り入れる(撮影:鼠入昌史)


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(鼠入 昌史 : ライター)