外国人投資家が日本株を買うための条件とは何か
2023年は日経平均、TOPIX(東証株価指数)とも下落して始まった。だが「大発会の下落」は「その年を象徴する」とは限らない(撮影:尾形文繁)
2023年の各種相場アンケートを見ると、証券会社、シンクタンク、投資ファンド、個人投資家あるいは経営者まで、ほぼすべての証券関係者は「前半調整・後半高」となっている。
インフレは低下傾向にあるものの、ロシアのウクライナ攻撃は収まる様子はない。IMF(国際通貨基金)やOECD(経済協力開発機構)のレポートなどにおける世界景気の減速予測が常識になっている現在、「前半調整」の見通しはやむをえないところだ。
ただアンケートをよく見ると、「前半調整」の中でも「調整期間は3月まで」が多数意見のようだ。また「5月まで調整が長引く」と見るところもあれば、「2月で終わる」と見るところもある。日経平均株価の下値はおおむね2万5000円だが、2万4000円まで見ているところもある。今回は筆者の見方を加えてみたい。
「大発会の下落」は「その年の相場」を象徴しない?
前回の記事「大納会までの5日間が2023年相場のヒントになる」でも触れたように、「2022年のラスト5日間」の結果を「2021年のラスト5日間」の特徴と照らし合わせてみた。
2022年のラスト5日間は3勝2敗ながら、日経平均はその前の週に比べて140円安となった。これは2021年の1勝4敗、同6円高とほぼ同様に、動きの乏しい5日間だった。これらを象徴するかのように、2023年の日経平均は前年末比377円安の大発会で始まった。
では、2023年を通じて相場は低調なのだろうか。ここで1つ、大発会のアノマリー(理論的根拠はないものの、よく当たる経験則)を紹介したい。
確かに「1年の計は元旦にあり、1年の相場は大発会にある」と昔から言われてきた。しかし、2022年までの10年間で日経平均の騰落率がマイナスだったのは2018年と2022年の2回だけだが、不思議なことに、下落したこの2回とも大発会は高く始まっているのだ。すなわち、2018年は前年末741円高の大発会で歓喜し、2022年の大発会も同510円高だったのだ。
つまり、「大発会はその年の相場展開を示す」というアノマリーはここ10年、実は当たっておらず、逆に最終的に大幅高となった年はマイナスでスタートする傾向さえあるわけだ。今年の大発会が大幅安のスタートだったことで、年間の相場まで不安視することはないと言いたい。
ここで、あらためて新年のスタートを振り返ってみよう。「最初の関門」だった1月6日のアメリカ12月雇用統計(非農業部門の雇用者数)はどうだったか。
結果は市場予想の前月比20万人増を上回って同22万3000人増となったが、11月(同26万3000人増から同25万6000人増に下方修正)からは鈍化し、2020年12月以降2年ぶりの低水準となった。それと同時に、平均時給は前月比+0.3%(予想は同+0.4%)、前年比でも+4.6%(予想は同+5.0%)と、11月の同+4.8%を下回り、昨年8月以来では最低の伸びとなった。
5日に出た12月ADP雇用リポート民間雇用者数が前月比23万5000人増と、予想の同15万人増や11月の同12万7000人増を大きく上回ったため、引き締め強化懸念から5日のNY(ニューヨーク)ダウ30種平均株価は前日比339ドル安となった。その反動もあり、6日の雇用統計の結果を受けて買い戻しも入ったようだ。NYダウが結果的に「倍返し」の同700ドル高となったことは、いいスタートだったのではないか。
外国人投資家が注目する日本の賃上げ
2023年の日本株のポイントはどこにあるのか。筆者は「生産性の改善」だと見る。というのも、世界の投資家は日本の低い生産性をずっと嫌気してきたからだ。
その低い生産性を象徴するのが「賃上げ率の低さ」だった。世界の投資ファンドは、以前から「日本の賃金が上がったら日本株を買う」と言明していた。
それと関連して、最近兜町筋で話題になっているのが、世界最大で10兆ドルの資金を動かすといわれる機関投資家ブラックロックが、日本株に対して強気になったのではないかということだ。その理由の1つが、日本の賃上げ議論の盛り上がりにあるという。
現在のところ「今年の春闘の目標は5%」などと報じられているが、筆者は一部の大企業を中心に、経営者側がそれを上回る努力目標を出していることに驚いている。岸田文雄首相が物価上昇を上回る賃金上昇を経営者に呼びかけたのは周知のとおりだが、多くの海外投資家はこの推移を見守っている。
賃金上昇が進めば、早めに調整終了の期待も
厚生労働省が6日に発表した昨年11月の毎月勤労統計調査によると、従業員5人以上の事業所の1人当たり実質賃金は前年同月比3.8%減となっている。
一方、11月の全国コアCPI(消費者物価指数)は前年同月比+3.7%と同10月の同3.6%を上回り、1981年12月以来、40年11カ月ぶりの上昇率だった。
今週10日には、12月の東京都区部消費者物価指数の発表がある。11月の前年同月比+3.6%からさらに上昇するとの見方が有力で、場合によっては上昇に加速度が加わる可能性もあり、賃上げは待ったなしの状況だ。
こうした状況下、メディア上では春闘の結果を待たずして結論が出されるだろう。もし賃上げが失敗に終われば、海外ファンドの売りによる日経平均の予想外の安値が出ることも考えられる。その意味でも、政府、経営者の強い姿勢を望む。
逆に「物価上昇を上回る賃金上昇」(岸田首相)が見えてくれば、新年初頭の市場のコンセンサスである「前半調整」は早めに終わり、弱気筋が唱える3〜5月安などではなく、「前半5月高」になる可能性も十分あるとみている。
一方、「後半高」に関しては、これから徐々に読み解かれようが、アメリカの各連銀総裁が年頭コメントを出しているように、利上げプロセスが終了したあとも当面は高水準の金利を維持すべきだろう。
だが、株や国債が急落すると最も困るのは、国の中央銀行なのだ。金融政策の目的は、適度な物価上昇で安定した経済成長と労働市場を確保することで、それらを破壊することではない。
アメリカの連銀関係者がことあるごとに安易な楽観論を戒めているのは、「株式市場の暴騰・暴落で当局のソフトランディング戦略を妨害するな」という忠告だと解する。
12月の雇用統計という第1関門は無事通過したが、今週の予定を見ると、やはり12日のアメリカ12月消費者物価の発表に注目だ。11月は前年同月比+7.1%と5カ月連続で前月比の上昇率は鈍化しているが、コアCPIは同+6.0%とまだ高い。
一方、日本では、安川電機(10日)をはじめとする、2022年3〜11月期の決算発表が本格化する。しっかりと見極めて冷静に対応しさえすれば、2023年の投資成果はおのずと上がってこよう。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
(平野 憲一 : ケイ・アセット代表、マーケットアナリスト)