「甲状腺嚢胞」は「首が腫れる・声がかすれる」といった症状が現れるの?

写真拡大 (全5枚)

甲状腺が腫れてしまう症状には様々なものがあります。しかし、甲状腺にしこりのような腫瘍ができる「甲状腺嚢胞」という症状名は普段あまり耳にすることがありません。
ここでは、甲状腺にできる腫瘍の1種である甲状腺嚢胞の原因・診断・治療方法・経過観察について解説します。

甲状腺嚢胞の症状と原因

甲状腺嚢胞とはどのような病気でしょうか?

甲状腺嚢胞は、腺腫様甲状腺腫・腺腫様結節・濾胞腺腫・甲状腺嚢胞・機能性結節など良性腫瘍の一種です。甲状腺にできるしこりのような腫瘍は総称して「結節性甲状腺腫」と呼ばれています。結節性甲状腺腫でも良性腫瘍の場合、状態や状況によって分類されています。この良性の結節性甲状腺腫の1つが甲状腺嚢胞と呼ばれているのです。
嚢胞の大きさは人によってバラバラです。特に異常を感じていない人に超音波検査を行うと、約10人に2~3人の割合で小さい嚢胞が見つかるほど一般的な症状でもあります。そのため、嚢胞があっても気づかない方がほとんどです。
甲状腺嚢胞が大きくなると、頸部を手で触れてもしこりがわかるようになります。しこり自体に痛みはほとんどありません。ただし、しこりが突然大きくなった場合にのみ、痛みを感じることもあるようです。また、大きくなったしこりが喉を圧迫することもあります。

甲状腺嚢胞ができる原因は何ですか?

甲状腺嚢胞は、甲状腺の中に血液などの液体が溜まることでできる腫瘍です。甲状腺は袋状の構造物をもち、何らかの原因でそこに血液などの液体が溜まると腫瘍となります。それ以外の原因で腫瘍ができることもありますが、何故腫瘍ができるのかはわかっていません。DNAの異常が原因となっているケースはごくわずかです。

甲状腺嚢胞は悪性腫瘍の場合もあるのでしょうか?

悪性腫瘍の場合もあります。ただし、甲状腺嚢胞の約95%が良性腫瘍です。極めて稀に癌に伴う嚢胞もあるため、注意を要します。

しこりができる以外にも症状はありますか?

しこりができる以外の症状はほとんどありません。しかし、しこりができることによって以下のような症状が発生する可能性があります。

首が腫れる

食べ物が飲み込みにくくなる・飲み込む時に違和感がある

声がかすれてしまう

痛みがある

これらの症状は、しこりが気道・食道・声帯の一部を圧迫し始めることで起きています。この場合は早めに医師の診察を受け、しこりを除去する治療に移るようにしてください。

甲状腺嚢胞の診断と治療

受診を検討するタイミングを教えてください。

ほとんどの甲状腺嚢胞は手で触れてもわからないほど小さいです。また、しこりが痛いなどの自覚症状はありません。触れてもわからないほど小さい状態では、頸部超音波検査を行って初めて見つかる場合が多いです。
しこりが大きくなると頸部を手で触れただけでわかるほどになります。しこりがあるために呼吸がしにくかったり、食べ物が飲み込みにくい場合にはなるべく早めに受診するようにしてください。しこりの除去が必要になります。

何科を受診すれば良いでしょうか?

基本的には内分泌科もしくは耳鼻咽喉科です。症状によっては対応する科が変わる場合があります。ただし、甲状腺の腫瘍は良性・悪性の判断が難しいため、できれば甲状腺疾患の専門家が在籍している医療機関が望ましいです。甲状腺・副甲状腺センターなどの科を設けている病院もあるので、お近くの病院で甲状腺専門の科がある場合はそちらを受診するようにしてください。

甲状腺嚢胞の検査方法を教えてください。

甲状腺嚢胞の検査には、主に頸部への超音波検査やエコー検査が使用されます。甲状腺嚢胞の大きさによっては、さらなる鑑別診断に血液検査や良性・悪性を判断するための細胞診(患部を注射し腫瘍の細胞を採取すること)が用いられる場合もあります。まれに他の病気で頸部の超音波検査を行った場合に小さな甲状腺嚢胞が見つかる場合もあります。その際は改めて良性腫瘍かどうかの診断が必要になります。

甲状腺嚢胞の治療方法を教えてください。

良性腫瘍であると判明した場合は、基本的に除去はしません。経過観察となります。ただし、しこりがあまりに大きく気道・食道を圧迫したり、見た目がわかりやすく腫れている場合は治療を行います。
初期段階ではしこりの中にある液体を注射器で吸い出してしこりを小さくする治療法が多いです。これを数回行ってもしこりが大きくなる場合は、別の治療法もとられます。しこりの中の液体を少量吸い出した後、アルコールを少量注入する手法です。
しこりの中にアルコールを注入すると、しこりの細胞を直接壊死させることができます。これによってしこりの根絶が期待されます。どちらの方法も切開が必要ないため負担が少ないのがメリットです。
ただし、アルコール注入法に関してはアルコールが甲状腺外に漏れることがあり、それによって発熱・軽い痛み・声のかすれといった副作用が起きる場合があります。

手術は必要でしょうか?

良性腫瘍の場合は、ほとんどの場合が注射器による治療が用いられるため手術は必要ありません。ただし、悪性腫瘍だった場合は甲状腺を切除する手術が行われます。転移の可能性がある場合は、頸部リンパ節を取り除く手術も同時に行われることがあります。
術後は甲状腺機能が低下してしまい「甲状腺機能低下症」を発症することが多いです。そのため、術後からは甲状腺ホルモン剤の服用が必要となります。

甲状腺嚢胞の予後と注意点

甲状腺嚢胞はいつまで経過観察をするのでしょうか?

甲状腺嚢胞のほとんどが良性腫瘍といわれていますが、自然に消滅することはほとんどありません。そのため、定期的な経過観察は欠かせなくなります。
ただし、間隔は半年~1年ごとのため、それほど負担にはならないでしょう。経過観察を続けているとまれにしこりが大きくなり始めたり、悪性腫瘍へと変化することがあるため、定期的な経過観察は欠かさないようにしないといけません。治療で除去をした場合は、治療後の定期検査の後に経過観察終了となる場合があります。

甲状腺嚢胞は完治しますか?

治療・手術を行えば完治することがほとんどです。ですが、治療法によってはまれに再発する場合もあります。そのため、治療後の経過観察が必要です。一定期間後に再発がみられない場合は経過観察を終了します。甲状腺自体を半分摘出する手術の場合は、残った甲状腺にまた嚢胞ができる可能性もあるため、こちらも経過観察が必要になります。

甲状腺嚢胞と診断された場合に注意することを教えてください。

まず、甲状腺嚢胞は良性腫瘍です。特に異常がない場合は、医師の指示に従って定期的な経過観察を行うようにしてください。経過観察を行ううちにしこりが見るからに大きくなってきたり、喉に異常を感じたりする場合は改めて医師の診察を受けましょう。その他に日常生活で気をつけることは特にありません。

最後に、読者へメッセージがあればお願いします。

甲状腺に嚢胞と聞くと恐ろしく感じるかもしれませんが、基本的には予防はできません。また、知らず知らずのうちに小さなしこりができていることもあります。ですが甲状腺嚢胞は良性腫瘍です。あまり不安になりすぎる必要はありません。ですが、日常生活を送る上で喉に違和感が生じたり、気になるほどしこりが大きくなったら迷わず医師の診察を受けてください。

編集部まとめ


目立たないものが多い腫瘍です。ただし、触ってわかるほどのしこりとなってしまった場合にはしこりを除去する治療がとられます。

甲状腺嚢胞はほとんどの場合、治療を行わず経過観察となることが多いです。すぐに治療が必要な症状ではないため、診断されたとしても不安になりすぎる必要はありません。

もし頸部に触ってわかるほどのしこりがあった場合は、医師の診察を検討しましょう。

参考文献

甲状腺腫瘍診療ガイドライン 2018(日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会)