物盗られ妄想はなぜ起こる? 原因と症状について介護福祉士に聞く

写真拡大 (全4枚)

認知症の症状で物盗られ妄想というのがありますが、具体的にどんな症状なのか知っていますか? 認知症といってもいくつか種類があり、対応もさまざまです。もし、突然家族や身近な人に物盗られ妄想が起きたら、どのように対応・支援すればいいかわからないですよね。そこで今回は介護福祉士の山田さんに、物盗られ妄想の症状や原因、支援方法について聞いてみました。

物盗られ妄想の症状と原因

編集部

物盗られ妄想はどんな症状なのでしょうか?

山田さん

物盗られ妄想は、アルツハイマー型認知症の症状のひとつです。症状としては、お金や財布・洗濯物などご本人が大切にしていた物が「ない」や「盗られた」いう発言がみられます。しかし実際は取られたわけではなく、ご本人がそう信じ込んでしまい脚色されていることがほとんどです。

編集部

物盗られ妄想の原因は何なのでしょうか?

山田さん

物盗られ妄想の原因はいくつかあり、一番多いのは認知症による脳機能の記憶障害や理解力・判断力の低下ですね。次に考えられるのが、「大切な物をなくしてしまった」という不安や戸惑いによって引き起こされるケースです。また、個人の価値観が影響していることもあります。たとえば、昔からお金の心配をよくしていたり、財布は常に持ち歩かないと不安になっていたりなどの理由で、物盗られ妄想の原因になっているケースもあります。また、これらの原因が複数重なり、症状として現れている場合もあります。

編集部

認知症が進行すると物盗られ妄想はどうなるのでしょうか?

山田さん

物盗られ妄想は、アルツハイマー型認知症の“初期”症状です。認知症の症状が進行すると次第に訴えは減っていき、個人差はありますが1年程度でなくなってくるといわれています。

物盗られ妄想の対応

編集部

身近な人に物盗られ妄想が起きたらどのように対応すればいいのでしょうか?

山田さん

まずは話を聞くことが大切です。相手の意見を尊重し、傾聴しましょう。また、ご本人の物語に寄り添うのも重要です。物盗られ妄想をしている方にとっては、大切な物をなくしたという重大なことが起きています。そこで「盗られていませんよ」のような否定的な言葉で対応してしまうと、ご本人を興奮させてしまうので、「いつからないのですか?」とその人の世界に寄り添うことが大切です。話しをするときに気をつけることは、会話はゆっくり短く伝えることです。また、動作も取り入れるとご本人に伝わりやすくなります。

編集部

物盗られ妄想は治療で良くなるのでしょうか?

山田さん

物盗られ妄想の原因であるアルツハイマー型認知症は進行を遅らせることはできますが、完治は難しいといわれています。認知症の治療・支援としては、薬物的介入と非薬物的介入があり、薬の副作用による不安感や寂しさが物盗られ妄想につながっている場合もあります。そのため、現在の認知症の支援では非薬物的介入が主流となっています。

編集部

非薬物的介入はどのようなサポートをするのでしょうか?

山田さん

非薬物的介入は、アクティビティを通して支援するのが基本です。まずはご本人の興味や関心を探ります。そして次にアクティビティを選択します。アクティビティは、料理・手工芸・行動療法・オリエンテーションなどたくさんあります。アクティビティを通して「自分にもできた」や「人の役に立った」という体験が、心理的安全や生活の質の向上につながり日々の生活に波及することで、認知症の軽減に役立てていくのが非薬物的介入の目的です。

身近な人が「認知症かも」と思ったら

編集部

身近な人に認知症の疑いが出たらどうすればいいでしょうか?

山田さん

まずは、各自治体の地域包括支援センターに相談してみてください。医療機関で診察を受けるのもいいでしょう。医療機関を受診される場合は、各都道府県にある認知症疾患医療センターへの受診がおすすめです。専門医に相談し、軽度認知障害の段階で見つかることで、その後の経過によい影響を及ぼします。

編集部

軽度認知障害(MCI)とは何ですか?

山田さん

軽度認知障害とは、認知症になる前段階の状態です。認知機能は正常で生活も自立していますが、年齢や教育とは無関係だと感じるほどの物忘れがあります。軽度認知障害の段階で発見すれば、運動や食事改善・認知機能トレーニングを行うことで、認知症の進行を遅らせたり止めたりできるといわれています。

編集部

認知症と軽度認知障害の違いは何ですか?

山田さん

認知症は記憶障害だけでなく、トイレや着替えなどの日常的な動作にも影響を及ぼします。軽度認知障害の場合、生活は自立しているものの記憶障害だけが見られている状態です。

編集部

身近な人の変化にすぐ気づくためのポイントはありますか?

山田さん

以前より物忘れが多くなったと感じたら、早めに医療機関を受診するのがおすすめです。特に年齢が65歳以上の方は要注意です。厚生労働省の調査によると、2025年には65歳以上の方が700万人、約5人に1人が認知症になる可能性があるといわれています。身近な人が「何かちょっと変」と感じたら、まずは相談をするか、医療機関を受診してみるのがよいと思います。

編集部まとめ

物盗られ妄想は、記憶力の低下や判断力の低下による不安感や寂しさから起きている場合があります。「物を盗られた」と発言していると否定したくなる気持ちが生まれますが、まずは冷静になり話を聞いたり、ゆっくりと会話をしたりすることでご本人も安心し、落ち着きを取り戻します。もし、両親や家族に異変を感じたら早めに相談をしたり医療機関を受診したりしてみてください。認知症は早期発見が何よりも大切です。

近くの脳神経内科・脳神経外科・リハビリテーション科を探す