身体のプロに聞く! スポーツ外傷・ケガとの上手な付き合い方

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スポーツに取り組む以上、一定確率でケガをしてしまうことは避けられません。かといって、ケガをしないためにスポーツを遠ざけると、「肥満」という健康阻害要因にみまわれるでしょう。そこで、「ちあき接骨院・ちあきスポーツ院」の戸畑先生に、運動やスポーツをする際のコツについて話を聞きました。

過去の常識が通用しない時代に

編集部

スポーツによるケガですが、全体的な傾向はあるのでしょうか?

戸畑先生

あくまで当院比ですが、ケガが顕著な時期は、中学校1年生と高校1年生の「6月」ですね。部活などで先輩との体力差・技術力差があるにも関わらず、同等の運動を強いられるからでしょうか。箇所として最も多いのは、上半身だと肘関節から指までです。下半身なら、かつては足関節の捻挫が多かったものの、感染症の影響か、近年では筋力低下によるトラブルや痛みを訴える方が急増しています。具体的にいうと、股関節から膝関節、ふくらはぎです。「やりすぎて捻挫」というレベルではなく、その手前の「筋力不足による障がい」という印象ですね。

編集部

外傷やケガの種類は、取り組んでいる競技内容によっても違ってきますよね?

戸畑先生

はい。サッカーであれば、接触プレイによる足首捻挫や打撲といったケガがほとんどでした。しかし最近では、これも感染症による試合離れが関係しているのか、肉離れや股関節周辺の痛みなど「体幹の弱さから連動する痛み」が増えています。なお、野球は以前と変わらず、ダントツで肩、肘の故障が多いです。続いて陸上競技ですが、事情は少し複雑になってきました。

編集部

陸上競技の特殊事情とは?

戸畑先生

つま先からではなく足全体で着地するような走り方と、それによる厚底シューズの流行が関係していると思われます。つま先から着地する場合は、ふくらはぎ、すね周り、アキレス腱の損傷が顕著でした。しかし厚底シューズの使用により、太ももからお尻の外傷・疲労を訴える患者さんが増えています。足全体で着地するとしたら、シューズに限らず、練習場の工夫も必要でしょう。

編集部

つまり、旧来の考え方とは一線を画してきた?

戸畑先生

そう思いますね。メーカーの技術力向上や感染症の影響などが、新たな状況をもたらしています。他方、インターネットや書籍の情報は必ずしもリアルタイムを反映していません。やはり、専門家という生きた人から、最新事情を仕入れてみてはいかがでしょうか。

ケガの再発や習慣化を防ぐには

編集部

1度ケガをすると、同じ箇所を再発しやすいそうですが?

戸畑先生

原因をおざなりにしている限り、再発するのは当然と言えば当然です。「なぜ、この症状が出たのか」をしっかり考えて、トレーニング内容を日々改善していくことが重要でしょう。運動は、手や足をいかに自分の思うように動かせるかにかかっています。思うように動かないとしたら、体幹の弱さ、四肢の筋力不足、筋持久力、瞬発力、動体視力、空間認知能力などを個々に見直してみましょう。

編集部

再発した箇所をむやみに「リハビリ」をするものでもないのですね?

戸畑先生

はい。私はリハビリやトレーニング内容を、「患者さんがどの試合に合わせたいか、なん歳でピークにもっていきたいか」などで変えています。野球の投手が良い例です。肩やひじは消耗するので、とにかく甲子園をめざしたいのか、それとも、社会人になっても草野球をしたいのかで変わりますよね。このとき、「症状に応じたステップがある」ということを知っておいてください。

編集部

「症状に応じたステップ」ですか?

戸畑先生

具体的には、「復帰準備の期間」と「復帰予防の期間」の2段階があります。「復帰準備の期間」では、体幹から上肢、あるいは体幹から下肢の連動した運動連鎖をしっかり説明し、選手も納得したうえで準備に入ります。一方の「復帰予防の期間」では、再発防止のためになぜ故障、ケガをしたのかをしっかりと本人が理解し、自己管理させるコーチングに努めます。総じて、ピークを後にもっていきたいのであれば、家庭環境も問われますよね。ご本人は運動をしたくてしょうがないので、とかく無理しがちです。「あれ? いつもと動作が違うぞ」ということを、保護者や周囲が気づいてください。

編集部

先生のようなスポーツ専門家の指導も必須という印象です。

戸畑先生

医師はどうしても医学的な所見を優先しますよね。ですが、もし不具合などを感じたら、最初に「骨に異常がないか」を整形外科などで確認してください。骨に異常があったら、医学的なアプローチを優先します。他方で骨に異常がなければ、「これをしたらダメ」というネガティブ思考より、「ここまでなら大丈夫」というポジティブ思考で進めたいものです。その意味で、整形外科の先生に、当院のようなスポーツに特化した接骨院の通院をご相談されるのがよいかと考えます。

編集部

スポーツに理解のある専門家の「違い」はなんでしょう?

戸畑先生

スポーツが好きでケガをする患者さんに、「競技を休んでください」「安静にしてください」とお伝えするのは、とても残念で悲しいことです。そうではなく、コートサイドでのちょっとした体幹トレーニングやボールのハンドリング練習などでも「休養を兼ねる」ということをお知らせしたいですよね。その時点で患者さんにできることを一緒に考え、お伝えするのが専門家の責務だと考えます。

自分でできることと、その注意点

編集部

続けて、受傷直後の注意点についても知りたいです。

戸畑先生

いまはネットが普及して、随分と良い処置をして来院される患者さんが多いです。「手首・足首であれば、水の入ったバケツに突っ込む」「肩・肘であれば三角巾でつる」で十分な応急処置になっています。関心のある方は、さらに「RICE処置」などのキーワードで調べてみてください。ただし、腰、頭、首などの体幹の痛みに関しては、その場でむやみに動かさないようにし、すぐに整形外科に連絡してしかるべき処置の指示を仰ぐのが良いでしょう。

編集部

「休み」の取り方も重要ですよね。

戸畑先生

この点も、以前よりだいぶ改善してきました。「休みも練習の一部で意味がある」ということを、とくに監督、コーチ、大人たちが理解することは重要です。また、練習から離れて見学することが休みの意味するところではありません。足のケガなら手は動かせますし、バランスを取る体幹トレーニングなら座ってできますよね。そして、選手個々の運動に対するゴールや目的はさまざまなので、その選手に合った言葉がけが重要と考えます。

編集部

仮に重症化すると、復帰までどれくらいかかりますか?

戸畑先生

一般には、「3~6カ月以上のリハビリが必要」とされているものの、重症化した運動器の“感覚”が問われます。そして、「スポーツをやりたくなってきた頃」は、「感覚が完全復帰する少し手前」であることが多いです。ですから、一律にリハビリ期間を設定するのではなく、専門家に相談しながら決めていきましょう。

編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

戸畑先生

リハビリ復帰の期間にも関係しますが、やはり、理由となるエビデンスを「見える化」することが、患者さんの納得につながると考えます。例えば、エコー検査などで「内出血した血の塊がここまで引いてきましたよ」とお示しできれば、終わり時が把握できますよね。ですから当院では、理由の可視化とゴール設定に留意しています。

編集部まとめ

外傷やケガに限りませんが、我流で進めず、専門家の指導を仰ぐことが肝要なのですね。画像での見える化やエビデンス提示があれば、我々も納得のうえで取り組めます。かつての少年野球漫画などに描かれていた世界観は過去のものです。我々のリテラシーも進歩していますし、「理由とゴール」の見える進め方をしていきましょう。

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