心身のバランスを整える自律神経は、年齢とともに乱れやすくなることがわかっています。とくに、50代以降は心身をリラックスさせる「副交感神経」を健やかにすることが、健康に繋がる重要なポイントだと、自律神経研究の第一人者である、順天堂大学医学部教授・小林弘幸さんは話します。

ここでは、小林先生の著書『50歳からの自律神経を整える生き方』(扶桑社刊)の中から、加齢と自律神経の関係や、自律神経の乱れにどう対処すればいいかをご紹介します。

自律神経と加齢の関係は?50歳以上が心がけるべきこと

過労や不規則な生活、それに伴う精神的なストレスが重なれば、自律神経失調症と総称される、さまざまな症状を引き起こします。漠然とした不安、緊張状態、倦怠感、吐き気、多汗、頭痛、肩こり、手足のしびれ、動悸、不整脈、めまい、不眠などが挙げられます。

自律神経の乱れの原因は、生活習慣だけではありません。健全な生活を心がけていても、加齢によって起こる乱れはなかなか予見できません。

●男性の30代、女性の40代は自律神経の曲がり角

男性は30代、女性は40代から、副交感神経が急速に低下する時期です。それまで交感神経、副交感神経がほどよくバランスをとっていたにもかかわらず、思い当たる原因もないままに足をすくわれたかのようにバランスを崩してしまう。そんなことが起きるのです。

また、自律神経がバランスを崩す原因として、ライフステージの変化も挙げられます。

たとえば、女性であれば妊娠、出産という節目に、ホルモンバランスの変化から自律神経の低下につながっていくことがあります。本来であれば幸せオーラに包まれるような時期に、「マタニティブルー」「産後うつ」などと呼ばれる症状に見舞われます。ただでさえ新生児を抱えて大変な時期に、お母さんがまいってしまう例です。

男性であれば、本来ならおめでたい昇進や転職などの場面で、すっかり体調を崩し、疲弊してしまう例が少なくありません。

つまり、自律神経は変化にも弱いと覚えておきましょう。

自律神経のウィークポイントがわかっていれば、なるべく生活習慣から整えていこう、あるいはタイミングを見て医者にかかろうというアクションにつながり、大事に至る前に対処していくことができます。

 

●つらい更年期症状も自律神経の乱れが影響

研究が進むにつれ、加齢で機能が低下するのは副交感神経、つまり心身をリラックスさせる「休息」の神経のほうだということがわかってきました。そのことが原因で「活動」をつかさどり、緊張や興奮を与える交感神経が優位になってしまうのです。

たとえば、つらい更年期症状が現れたり、怒りっぽいとか、頑固な人になったりする原因は、自律神経のバランスの崩れにもあるわけです。また、副交感神経が低下すると血流が停滞し、免疫力が低下するため、病気になりやすくなるということもわかっています。

つまり、副交感神経の機能を下げないような生活や生き方を選んで自律神経を整えれば、疲れを感じさせない健康的な暮らしをすることが可能と言えるのです。

昨今は、10代、20代でもパンデミックやインターネットの影響で副交感神経の機能低下が取り沙汰されていますから、年齢に関係なく、暮らしを変える努力をしていくことが大切になってきているのかもしれません。

●自律神経を整えるワンツー呼吸法

ここで、密かにできる自律神経を整える技をお教えしましょう。

人間は1日に2万回もの呼吸をしています。けれど、ほとんどの人が呼吸を意識することはありません。緊張するようなシーンでは、交感神経が刺激されて呼吸が浅く、早くなります。そのため、緊張が続けば血流が悪くなり、思考力や判断力が低下していきます。

これはまずい、と思ったら「ワンツー呼吸法」で血流をよくして、思考力を取り戻しましょう。

(1) 3秒かけて鼻から息を吸う

(2) 6秒かけて口から息をゆっくり吐く。口をすぼめるとよい。

(3) (1)(2)を5〜7回繰り返します。

ゆっくり長く息を吐くことで、頸部にあるセンサーが反応して、副交感神経を効果的に高めて緊張が抑えられ、イライラやストレスも雲散することでしょう。

『50歳からの自律神経を整える生き方』(扶桑社刊)では、自律神経研究の第一人者である小林先生が、60代になるまでに心がけてきた習慣を一冊にまとめました。50歳からは人生を振り返りがちになりますが、還暦や定年、子どもの独立などをゴールとして捉えず、健康で前向きになり、新たなスタートラインに立てる本です。ぜひチェックしてみてくださいね。