相続や宅地開発などにより、緑豊かなお屋敷や駐車場が、建売住宅や賃貸アパートになることは珍しいことではありません。いい景色を切り取ろうとつくったはずのピクチャーウィンドウが、隣の壁しか見えなくなることも…。そんな体験談を紹介します。あわせて周辺環境の変化に左右されない、家のプランについて専門家の解説も。

子育てしやすいエリアを選んで、土地探しから家づくりをスタート

第一子の妊娠を機に、土地を買って新築したMさん夫妻。その土地は平屋と2階建てにはさまれ、3方に家が建つ長方形。

「平屋の庭が広く、視界が開ける点が気に入りました。そのお宅の老夫婦から『このあたりは、設計次第で富士山が見える』と聞いたのも決め手に」と、振り返ります。

当初、建築家からは3階建てを提案されたそうですが、予算の都合で2階建てに。

「2階のリビングは、富士山に向かって大きなピクチャーウィンドウをつくってもらったので、眺めは期待どおり!  リビングのベランダは、富士山を見ながら洗濯物が干せ、平屋の庭から風が抜けてよく乾くんです」と、妻は大喜び。

 

借景や通風で快適な暮らしに、突然の終わりが…

1年が過ぎた頃、隣家の老夫婦から思わぬひと言が。なんと住まいは借地で、期間満了を機に引っ越すというのです。さらに隣地の地主からは、賃貸住宅に建て替えるという通知が…。

あれよという間に、庭だった場所は3階建ての賃貸住宅に。ピクチャーウィンドウの眺めは、富士山から外壁に激変。隣家の窓が視界に入り、今ではカーテンを閉めたまま。建物の影響で風通しも悪くなり、洗濯物も乾きにくくなったそう。

「今となってはピクチャーウィンドウのサイズを変えたいくらいです。当初の提案どおり3階建てにしておけば、あとから屋上をつくるだけで眺めや物干しの快適さが保てたかも。それもこれも、借景や周囲の環境に頼ったのがいけなかったんですね」

後悔することしきりの夫婦です。

アドバイス:周辺環境だけでなく法律も変わるという認識を

周辺の環境はずっと変わらない、と思っていたことに落とし穴があった事例です。周辺環境が変わっても、眺望や通風採光を確保する家づくりの考え方が必要でした。一級建築士・大島健二さんが詳しく解説します。

 

●一級建築士からのアドバイス

設計者は、「周辺環境(眺望や風通し)というものは常に変化し、家の建て方(配置)などの常識もあてにならない」といったことを家づくりの最初の段階で建主に伝えておく必要があります。

「北の隣地は北側に道路があるから家を北側に寄せて建て、南側に庭をつくるだろう」といったことも今では常識とはいえませんし、「隣に広がる田園風景は市街化調整区域だから家は建たない」という考え方も絶対ではなく、申請すれば建築許可が下りる場合や、法律自体が変わることもあります。

 

今回の場合「富士山の眺望」を絶対条件とするならば、予算をそこに集中し、「3階建て+屋上」ぐらいに徹底して、周辺環境の変化に影響されない間取りにすべきであったでしょう。

もしくは、2階建ての場合、大きなピクチャーウィンドウではなく「富士山鑑賞用ミニ窓」くらいにしておいて、眺望がなくなっても快適に住めるような中庭がある間取りにするなどの工夫が必要だったといえるでしょう。