「イクメン」はもう古い!今問われる男性の育児・家事への関わり方とは
育児・家事を夫婦で分担するのが当たり前になってきている現代。自分も関わりたいと思っていても「どう関わっていいかわからない」「奥さんを邪魔してしまいそうで怖い」と腰が引けてしまう男性も多いはずだ。
東京富士大学教授の鬼木一直さんの著書『パパだからデキる子育て術』(幻冬舎刊)は、そんな男性向けの一冊。奥さんと同じことをするだけではない「パパだからこそできる子育て」とはどのようなものか。また、どのような関わり方をすれば奥さんが楽になり、子どもの成長に効果的なのか。鬼木教授にお話を伺った。
■「イクメン」という言葉が使われなくなる世の中に
――前作『デキる社会人になる子育て術』(幻冬舎刊)は子育て関連書籍としては異例ですが文庫版も発売されました。この本の反響はいかがでしたか?
鬼木:前作は、セブンネットショッピング子育て新刊部門で売り上げ1位を獲得するなど、お陰様で大変ご好評をいただきました。文庫版は、手に取りやすく、また単行本の見開きで完結する形式を踏襲しましたので、とても読みやすいというご意見を多数いただきました。
――『パパだからデキる子育て術』は、前作と比べると「パパ」にフォーカスされていると感じました。この本で「父親の子育て」をテーマにしたのは、男性に向けた育児書が少ないといった理由があるのでしょうか。
鬼木:パパ視点の育児書が少ないというのは私も感じています。最近はパパが育児を頑張っているケースが増えてきているというものの、まだまだ多くご家庭でママが育児・家事を主に行っているのが現状です。
パパの中には育児・家事に参加したくても「何をすればいいのかわからない」「むしろ足手まといになってしまう」という不安があるようです。そんな不安を解消することができればと考えて、この度、パパ目線の本を執筆することにいたしました。
――なぜパパ視点の育児書が少ないのでしょうか?
鬼木:理由は大きく分けて2つあると感じています。1つは、ジェンダー平等が当たり前と言われている状況の中、そもそもママとパパという男女を意識した視点で本を書くことがとても難しいということです。女性が、男性がという書き方は誤解を招きかねず、非常に気を遣うテーマです。
2つ目は、日本では子育てを主体的にしながら、教育関連業務を専門としている男性が少ないことにあると思います。小学校、中学校などの教育論を研究している男性は非常に多いのですが、幼児教育となると女性が多く、子育てのノウハウ本は多く出版されているものの、パパ目線の育児書は少ないように思います。
――本書の中で「イクメン」という言葉は古いと指摘されていました。その心を教えてください。
鬼木:「イクメン」という言葉が流行ったことで、男性の子育てに注目が集まったことは素晴らしいことですが、そもそもイクメンというのは、女性が育児をすることを前提とした言葉です。
男性が当たり前のように育児をするようになれば、「イクメン」という言葉は使われなくなるだろうと考えています。ママの手伝いをパパがするのではなく、パパが主体的に子育てを行うことがとても大切だと思います。
――執筆中に難しかったことや苦労したところがありましたら教えていただきたいです。
鬼木:先ほどのお話にもあった「女性と男性の違い」の表現と、人それぞれ、家庭それぞれに個性がある中で子育てに関する記述にはとても気を遣いました。データ上ではママが主に育児をしているご家庭が多いのですが、パパの方が主体的に行っている家もありますし、中にはシングルマザーで頑張っていらっしゃる方もいます。
また、少なからず男女には違いがあるのも事実です。あまり断定的に記載しすぎてもよくありませんが、現状を鑑み、今の日本の男女の違いを踏まえた上でのパパ育児の在り方というのを本書では主張したかったところです。
――パパが育児に参加することのメリットについて教えていただければと思います。
鬼木:パパはつい、ママの手伝い、代わりをしようとしがちです。それももちろんいいことではありますが、同じことはなかなかできず苦労しているご家庭が多いようです。
人にはそれぞれ個性があります。まして、女性と男性ではその違いがより大きくなります。子どもはいろいろな考えに触れることで視野が広がっていきます。ママのやり方を肯定したうえで、パパだからできることを考え、主体的に育児をしてほしいと思っています。「The Father Effect」という言葉があり、父親とよく交流した子どもほど、学力・人間力・チャレンジ精神が高いというデータがあります。是非、気軽に楽しく子育てをしてみてほしいと思います。
――「家事を一緒にやりましょう」「平等に分担しましょう」だけではなく、パパが育児・家事に参加することは明確に子どもの成長にとってメリットがあるということが伝わると、もっと積極的に参加する男性が増えそうです。
鬼木:そうですね。「いい子に育てたい」という気持ちはママもパパも一緒でしょう。これまでママが育児・家事を主にやってきたのだとしたら、パパがそこに入ることで子どもにいい影響があるという価値を知ってもらえればと思っています。
――仕事が忙しい中で子育てに参加する時間を捻出するためのアドバイスをいただければと思います。
鬼木:まずは、子育ての優先順位を高くすることです。日本では、仕事が子育てよりも高い優先順位に設定されがちです。子どもも親の仕事が大変なことはわかっています。だからこそ、子どもと関わる大切さをより感じてもらえるのです。
必ずしもまとまった時間が必要なわけではありません。朝起きたらハグをしてあげ、ご飯の時にちょっとした雑談をするなどの積み重ねが大切なのです。そして、時間のあるときには外に連れて行ってあげ、子どもが遊ぶのを見るのではなく、自分も子どもになったように思い切り遊んであげる姿勢が重要です。格好をつけるのではなく、一緒にふざけ、大声で笑う関係が子どもとの信頼関係を構築していきます。
――近年、テレワークが普及して家で仕事をする人は増えていますから、子育てに充てる時間は増やしやすいのではないでしょうか。
鬼木:ただ、家で仕事をしているといっても、それはあくまで仕事の時間ですからね。家にいるからたくさん子どもと関われるかというと、必ずしもそうではないと思います。結局、テレワークといっても働く場所が変わるだけなので、「たとえ短い時間であっても子どもと関わる」という強い意志がないと何も変わらないと思います。
――鬼木教授ご自身は子育てでうまくいかないことはありますか? またこれまでに悩んだことがありましたら教えていただきたいです。
鬼木:うまくいかないことはよくあります。双子の男の子に、「早くご飯を食べないとおばけが出るぞー」と言ったらすぐに食べたので、双子の女の子に試してみたら大泣きされて大変だったり、「男の子なんだから、そのくらいでメソメソしない!」と怒ったら、その後、辛いことがあっても涙をこらえていたことがわかり、「ごめんね、辛い時は泣いてもいいよ」と訂正したり、試行錯誤の連続でした。
ただ、悩んだことはほとんどありません。本の中にも書いていますが、子育てに失敗はないのです。しっかり愛情を注いでいれば細かな失敗は後の笑い話にしてしまえばいいのです。子どももひとりの人間ですので、どんなことでも、話を聞いてあげ、一緒に成長する姿勢があれば難しい局面も乗り越えられると思っています。
(後編に続く)
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東京富士大学教授の鬼木一直さんの著書『パパだからデキる子育て術』(幻冬舎刊)は、そんな男性向けの一冊。奥さんと同じことをするだけではない「パパだからこそできる子育て」とはどのようなものか。また、どのような関わり方をすれば奥さんが楽になり、子どもの成長に効果的なのか。鬼木教授にお話を伺った。
――前作『デキる社会人になる子育て術』(幻冬舎刊)は子育て関連書籍としては異例ですが文庫版も発売されました。この本の反響はいかがでしたか?
鬼木:前作は、セブンネットショッピング子育て新刊部門で売り上げ1位を獲得するなど、お陰様で大変ご好評をいただきました。文庫版は、手に取りやすく、また単行本の見開きで完結する形式を踏襲しましたので、とても読みやすいというご意見を多数いただきました。
――『パパだからデキる子育て術』は、前作と比べると「パパ」にフォーカスされていると感じました。この本で「父親の子育て」をテーマにしたのは、男性に向けた育児書が少ないといった理由があるのでしょうか。
鬼木:パパ視点の育児書が少ないというのは私も感じています。最近はパパが育児を頑張っているケースが増えてきているというものの、まだまだ多くご家庭でママが育児・家事を主に行っているのが現状です。
パパの中には育児・家事に参加したくても「何をすればいいのかわからない」「むしろ足手まといになってしまう」という不安があるようです。そんな不安を解消することができればと考えて、この度、パパ目線の本を執筆することにいたしました。
――なぜパパ視点の育児書が少ないのでしょうか?
鬼木:理由は大きく分けて2つあると感じています。1つは、ジェンダー平等が当たり前と言われている状況の中、そもそもママとパパという男女を意識した視点で本を書くことがとても難しいということです。女性が、男性がという書き方は誤解を招きかねず、非常に気を遣うテーマです。
2つ目は、日本では子育てを主体的にしながら、教育関連業務を専門としている男性が少ないことにあると思います。小学校、中学校などの教育論を研究している男性は非常に多いのですが、幼児教育となると女性が多く、子育てのノウハウ本は多く出版されているものの、パパ目線の育児書は少ないように思います。
――本書の中で「イクメン」という言葉は古いと指摘されていました。その心を教えてください。
鬼木:「イクメン」という言葉が流行ったことで、男性の子育てに注目が集まったことは素晴らしいことですが、そもそもイクメンというのは、女性が育児をすることを前提とした言葉です。
男性が当たり前のように育児をするようになれば、「イクメン」という言葉は使われなくなるだろうと考えています。ママの手伝いをパパがするのではなく、パパが主体的に子育てを行うことがとても大切だと思います。
――執筆中に難しかったことや苦労したところがありましたら教えていただきたいです。
鬼木:先ほどのお話にもあった「女性と男性の違い」の表現と、人それぞれ、家庭それぞれに個性がある中で子育てに関する記述にはとても気を遣いました。データ上ではママが主に育児をしているご家庭が多いのですが、パパの方が主体的に行っている家もありますし、中にはシングルマザーで頑張っていらっしゃる方もいます。
また、少なからず男女には違いがあるのも事実です。あまり断定的に記載しすぎてもよくありませんが、現状を鑑み、今の日本の男女の違いを踏まえた上でのパパ育児の在り方というのを本書では主張したかったところです。
――パパが育児に参加することのメリットについて教えていただければと思います。
鬼木:パパはつい、ママの手伝い、代わりをしようとしがちです。それももちろんいいことではありますが、同じことはなかなかできず苦労しているご家庭が多いようです。
人にはそれぞれ個性があります。まして、女性と男性ではその違いがより大きくなります。子どもはいろいろな考えに触れることで視野が広がっていきます。ママのやり方を肯定したうえで、パパだからできることを考え、主体的に育児をしてほしいと思っています。「The Father Effect」という言葉があり、父親とよく交流した子どもほど、学力・人間力・チャレンジ精神が高いというデータがあります。是非、気軽に楽しく子育てをしてみてほしいと思います。
――「家事を一緒にやりましょう」「平等に分担しましょう」だけではなく、パパが育児・家事に参加することは明確に子どもの成長にとってメリットがあるということが伝わると、もっと積極的に参加する男性が増えそうです。
鬼木:そうですね。「いい子に育てたい」という気持ちはママもパパも一緒でしょう。これまでママが育児・家事を主にやってきたのだとしたら、パパがそこに入ることで子どもにいい影響があるという価値を知ってもらえればと思っています。
――仕事が忙しい中で子育てに参加する時間を捻出するためのアドバイスをいただければと思います。
鬼木:まずは、子育ての優先順位を高くすることです。日本では、仕事が子育てよりも高い優先順位に設定されがちです。子どもも親の仕事が大変なことはわかっています。だからこそ、子どもと関わる大切さをより感じてもらえるのです。
必ずしもまとまった時間が必要なわけではありません。朝起きたらハグをしてあげ、ご飯の時にちょっとした雑談をするなどの積み重ねが大切なのです。そして、時間のあるときには外に連れて行ってあげ、子どもが遊ぶのを見るのではなく、自分も子どもになったように思い切り遊んであげる姿勢が重要です。格好をつけるのではなく、一緒にふざけ、大声で笑う関係が子どもとの信頼関係を構築していきます。
――近年、テレワークが普及して家で仕事をする人は増えていますから、子育てに充てる時間は増やしやすいのではないでしょうか。
鬼木:ただ、家で仕事をしているといっても、それはあくまで仕事の時間ですからね。家にいるからたくさん子どもと関われるかというと、必ずしもそうではないと思います。結局、テレワークといっても働く場所が変わるだけなので、「たとえ短い時間であっても子どもと関わる」という強い意志がないと何も変わらないと思います。
――鬼木教授ご自身は子育てでうまくいかないことはありますか? またこれまでに悩んだことがありましたら教えていただきたいです。
鬼木:うまくいかないことはよくあります。双子の男の子に、「早くご飯を食べないとおばけが出るぞー」と言ったらすぐに食べたので、双子の女の子に試してみたら大泣きされて大変だったり、「男の子なんだから、そのくらいでメソメソしない!」と怒ったら、その後、辛いことがあっても涙をこらえていたことがわかり、「ごめんね、辛い時は泣いてもいいよ」と訂正したり、試行錯誤の連続でした。
ただ、悩んだことはほとんどありません。本の中にも書いていますが、子育てに失敗はないのです。しっかり愛情を注いでいれば細かな失敗は後の笑い話にしてしまえばいいのです。子どももひとりの人間ですので、どんなことでも、話を聞いてあげ、一緒に成長する姿勢があれば難しい局面も乗り越えられると思っています。
(後編に続く)
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