50年走ってた!? 「私鉄の急行形」東武350型 なぜ長く重宝されたのか 東武の一時代が終焉
東武鉄道の350型は1991年に登場した特急形電車ですが、実はこのときは“再出発”。さらに30年以上使われ、引退した時は50歳を超える長老でした。日光や会津など沿線の名所への輸送を担った350型は、どんな生涯だったのでしょうか。
有料急行「りょうもう」でデビュー
去る2022年3月6日(日)、同月のダイヤ改正を前に一足早く引退した東武鉄道の特急形車両があります。特急「きりふり」などに使われた350型電車です。350型は改造車として1991(平成3)年に登場していますが、改造前から通算すると、なんと50年以上も使用され続けた車両です。
2022年に定期運行を終了した東武350型電車(柴田東吾撮影)。
東武鉄道では2022年9月現在、特急「りょうもう」が浅草から伊勢崎線を経由し赤城方面などへ運転されています。「りょうもう」は以前、有料の急行列車として運転されており、その専用車両として登場したのは350型の前身、1800系電車でした。
1800系は1969(昭和44)年のデビュー当時、ローズレッドを基本としてジャスミンホワイトのラインを添えた車体色でした。ちなみにこの塗装は2020年、「1800系カラーリング『りょうもう』」として現行の200型電車で復刻されています。
急行「りょうもう」は増発を繰り返したため、1800系は増備が行われたほか、1979(昭和54)年には4両編成から6両編成に増強されています。最終的には1987(昭和62)年までに6両編成9本が揃いました。
「りょうもう」から日光・会津方面に転身
1991年に現在の「りょうもう」の200型が登場すると、1800系は転用が行われました。この際、余剰となった1800系を改造し登場したのが300型と350型です。あわせて日光・会津方面に向かう列車の一部を急行列車に格上げし、これらを充当しています。
300型は6両編成のままでしたが、350型は4両編成に短縮されています。これは直通先の野岩鉄道や会津鉄道へ6両編成の列車が入線できないからです。
300型と350型では車体色を変え、350型はジャスミンホワイトを基に、窓上にサニーコーラルオレンジ、窓下にパープルルビーレッドを添えた塗装に改めています。この3色は登場時の100系電車「スペーシア」や、快速用の6050型電車と同じです。
「スノーパル」など夜行列車にも使用された
また、300型と350型は前面の前照灯と尾灯を角形に改めたほか、列車名を表示する愛称幕を大型化しています。内装では座席の交換を行っていますが、急行「りょうもう」の時代からの回転クロスシートを維持し、特急列車の設備と差別化が図られています。
夜行列車「スノーパル」(画像:東武鉄道)。
300型は東武日光方面の急行「きりふり」、鬼怒川温泉方面の急行「ゆのさと」で使用された一方、350型はこれらの列車に加えて、急行「南会津」や東武宇都宮発着の「しもつけ」でも使用され、野岩鉄道会津鬼怒川線や会津鉄道線にも乗り入れています。ほかにも、「尾瀬夜行」や「スノーパル」といった東武鉄道の夜行列車でも使用された実績があります。
出番が少なくなっていった350型
2005(平成17)年には急行「南会津」が廃止されたほか、翌年には「きりふり」「ゆのさと」「しもつけ」が特急に格上げされたことで、300型と350型もそのまま特急用車両に昇格しています。この頃には、両車を使用した列車が少なくなり、「ゆのさと」は臨時列車のみの設定となっていたほか、「きりふり」は臨時列車に加え、通勤ライナーのような位置づけとして平日の浅草方で運転されていました。
2017年には通勤ライナー的な設定もなくなり、運用を失った300型は同年中に引退。残った350型は「しもつけ」と、同年に設定された土休日の東武日光発着の「きりふり」で使用されていましたが、2020年には「しもつけ」が休止を経て廃止され、いよいよ「きりふり」だけとなっていました。
ついに2022年3月のダイヤ改正で「きりふり」が消滅。350型は定期運用から離脱しました。その後はツアー列車で使用され、同年7月に実施された廃車回送の列車に乗車するイベントを最後に、引退しています。
最後の20年ほどは特急形として君臨したものの、「私鉄の急行形」の趣を持った車両が見られなくなることは、東武鉄道における一時代の終焉ともいえるかもしれません。