いまから24年前、ボーイングの旅客機「717」が初飛行しました。実はこの機、開発経緯や型番の付け方まで、ほかのボーイング機とは大きく違うモデルです。どういった経緯があるのでしょうか。

「7○7」の命名法則ガン無視

 1998年9月2日、アメリカの航空機メーカー、ボーイング社の単通路旅客機「717」が初飛行しました。この機は横3-2列の客席をもつ「単・通路機」で、胴体後部に2基のエンジンを備え、垂直尾翼最上部に水平尾翼が設置された「T字尾翼」が特徴です。ただこのどことなくボーイング機っぽくない形状、そして航空ファンにとっては不自然な「717」という型式名には、この機のユニークな出自が関係しています。


ボーイング717(乗りものニュース編集部撮影)。

 まずは、ボーイング社が開発した旅客機がデビューした順序と型式名の法則について、初飛行をした時期をもとに振り返っていきます。

 1957年2月、ボーイング初のジェット旅客機「707」が初飛行します。その後1963年2月、エンジンを尾部に3基装備し、JAL(日本航空)やANA(全日空)でも運用されていた「727」が初飛行、ついで1967年4月、旅客機のベスト・セラー「737」が飛びました。

「ジャンボ・ジェット」と呼ばれ民間航空機の歴史を大きく変えた「747」が初飛行したのが1969年2月、その後胴体のサイズを変えた姉妹機としてほぼ同時期に開発された「757」・「767」がデビュー、それぞれの初飛行は、「757」が1982年2月、「767」が1981年9月です。

 1994年6月、「747」の後継機として日本でも長年活躍する「777」が初飛行。そして、1998年9月に「717」が初飛行します。

 こうしてみてみると、ボーイング社の旅客機は1ケタ目、3ケタ目の7は固定されたまま、その間の2ケタ目の数字のみがおおむね時系列順に増えていくことがわかります。ただ「717」だけは、その例から完全に外れているのです。なぜこのようなことが起こったのでしょうか。

 そもそも、なぜ初期のボーイング社が、「707」のあと「727」のモデルナンバーをつけたのでしょう。

元祖「717」と現「717」、それぞれどんなもの?

 実はボーイング717とされる飛行機は、現在「717」とされているジェット旅客機のほか、もうひとつあるという説があります。それは、アメリカ空軍の世界戦略の一端を支えた「KC-135」。ボーイング707の軍用版の姉妹機ともいえるモデルで、1956年8月に初飛行しています。

 この「KC-135」、ボーイングの社内では「Model 717」と呼ばれていたことが、ボーイングの過去の文献「BOEING FRONTIERS」から明らかになっています。また、同機はアメリカ空軍によりKC-135と名付けられたのち、ボーイング社のマーケティング部門の判断で、「7○7」は商用ジェット機のためのモデルナンバーとすることを決定したとも記録されています。そのため、「717」は“空き番号”となっていたのです。


KC-135(乗りものニュース編集部撮影)。

 そして、その後30年の時を経て「717」のモデル名を付された“現717”は、かつてあったボーイング社のライバル、マクダネル・ダグラス社にそのルーツを持ちます。

 マクドネル・ダグラス社には、数多くの航空会社が使用していた、比較的短い路線むけのベストセラー機「DC-9」シリーズ、その派生型である「MD-80・90」シリーズがありました。

 このベストセラー機の系譜をくむ「MD-95」の開発は1990年代前半から始まります。しかし、開発途中の1997年、マクドネル・ダグラス社がボーイング社に吸収合併されることになったのです。「MD-95」はそのままボーイング社の製品として開発が続けられましたが、モデル名はさすがにそのまま……とはいかなかったのでしょう。あらためて「717」の名称を「MD-95」にあたえ初飛行。「ボーイング717」として販売されることになりました。

 ボーイング717は、日本の航空会社では採用がされず、日本の空港でお目にかかることはほとんどありません。一方、ハワイアン航空やオーストラリアのカンタスリンクなどの短距離路線ではまだ健在で、国や地域によっては「よく遭遇する」旅客機ともいえるでしょう。とはいえ、「717」は2006年に生産を終えており、新型機への置き換えも進んでいるので、そういった地域でも、これから見ることのできる機会はどんどん減っていくのかもしれません。