一人で押せちゃうコンパクトさも魅力!

成田でも2〜3割は「要移動式GPU」の駐機場

 地上に駐機をしている旅客機は、メインエンジンが回っていないことから電源供給ができないため、別の方法で電力を得る必要があります。その手段のひとつが、電力供給用の車両「移動式GPU(グラウンド・パワー・ユニット)」を機体につなげる方法です。成田・羽田をはじめとする国内10空港で動力供給事業などを行っているAGP社が、時代に即した新たな「移動式GPU」の試作車のテスト運転を開始しています。


AGP社「バッテリー駆動式GPU」試作車(2022年8月29日、乗りものニュース編集部撮影)。

 駐機時の旅客機の電源供給には、おもにふたつの手段が存在します。胴体最後部などに備わる補助エンジン「APU」を用いて、いわば機体が“自家発電”する方法、そして地上に備え付けられた電源供給設備「GPU」を用いて外部から電源を供給してもらう方法です。

 この「GPU」も、大空港のターミナルビルから搭乗橋で乗り込むような駐機場では、固定式のものが装備されており、コンセントを挿して電化製品を起動するように、ケーブルを通じてGPUと機体を接続し、電源供給をうけることが一般的です。

 ただその一方で、ターミナルから離れ、バスで機体に乗り込むような、いわゆる“沖止め”タイプの駐機場などでは、そういった設備がなく、車両などから電源供給を実施する「移動式GPU」を用いる必要があります。AGP社の大貫哲也社長によると、「移動式GPU」を用いなければならない駐機場は、成田空港の場合でも全体の2割から3割程度にも上るといいます。

 AGP社が開発を進めている「移動式GPU」は、現在主流となっているディーゼル式のものではなく、バッテリーを駆動源とするもの。これは国内で初の取り組みなのだそうです。

バッテリー式の「移動式GPU」 従来となにが違うのか

 AGP社の「バッテリー駆動式GPU」は、前後約2m75cm、幅約1m50cmのコンパクトな胴体をもち、その静音性、そして環境性能を強みとします。

「これまでのディーゼル駆動の移動式GPUも軽油で駆動するゆえに、APU(旅客機の補助エンジン)を用いる方法よりも、大幅に静かで、排ガスの排出量も非常に少なくなります。ただ、それでも騒音・排出量は残ってしまいます」(大貫哲也社長)

 今回試作されたバッテリー駆動式GPUでは、ディーゼル駆動の移動式GPUと比較しても、3分の1までCO2の排出を減らすことができるほか、騒音も大幅に軽減できます。


AGPの大貫哲也社長(2022年8月29日、乗りものニュース編集部撮影)。

 この車両に搭載されているバッテリーは国産で、2万回充電しても劣化が30%以下に抑えられるものだそう。65分程度で満充電となり、使用先の旅客機のタイプにもよるものの、およそ60分から90分、電源供給を継続できるといいます。主に150から200席級の旅客機であるエアバスA320、ボーイング737などの電源供給に用いるよう設計され「おおむね2便分のターンアラウンドタイム(到着から次便出発までの駐機時間)に対応できるようにした」(大貫社長)と話します。

 またこの車両は、一人で手押しで位置を微調整できるよう電動アシスト機能などを備えるほか、電源供給の方法を工夫することで、ケーブルを従前のものより長くしているなど、取り回しの良さも工夫されているとのことです。

 AGP社のバッテリー駆動式GPUは今後1年程度試験を重ね、バッテリー容量が正しいのかなどを研究したのち、実用化を目指していくといいます。近い将来、こういった車両が旅客機へ電力を”エコに・静かに”供給する日常が見られるかもしれません。