ZEH(ゼッチ)は、環境にやさしいだけでなく財布にもやさしい住まいといわれています。これから新築注文住宅の建設や新築分譲住宅の購入を検討している人であれば、ZEH認定の家にして補助金制度を上手に活用したいところです。

この記事では、ZEHとはどんな住宅か簡単に紹介したうえで、活用できる補助金制度の概要と申請方法について解説していきます。

ZEHとは?

ZEHとは「net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略称で、エネルギー収支をゼロ以下にする家のこと。わかりやすくいえば、生活で消費するエネルギー≦生産するエネルギーとなる住まいを指します。

エネルギー収支をゼロ以下とするには、消費エネルギーを減らし、生産エネルギーを増やす必要があります。そのため、ZEHは「断熱」「省エネ」「創エネ」という3つの要件を満たさなければなりません。高性能の断熱材や窓によって断熱性を高め、省エネタイプの設備を設置することで消費エネルギーを減らし、太陽光発電などの創エネ設備によりエネルギーを生産するという仕組みです。

2050年カーボンニュートラルの実現などを見据え、住宅の省エネ・省CO2化を進めるため、経済産業省や国土交通省、環境省が連携してZEHの推進に取り組んでいます。

補助金の対象となるZEH住宅の主な要件とは?

ZEHを対象とする補助金制度について見ていく前に、補助が受けられるZEH住宅の主な要件を確認しておきましょう。ZEHは先ほど紹介した3要件の性能によって、いくつかの種類に分けられています。

また、「強化外皮基準」を満たしていることも要件とされています。強化外皮基準とは、外壁・屋根・窓・ドアといった建物の外皮にあたる部分の断熱性能基準のことで、全国8つの地域別に基準値を設定。ZEHの補助金を受けるには、地域の基準値を満たしていなければなりません。

ここまで紹介したものはいずれも戸建て住宅が対象ですが、ほかに集合住宅を対象とした「ZEH-M」も用意されています。

ZEHで利用できる補助金一覧

続いて、ZEHで利用できる補助金制度を紹介していきます。2022年7月時点で利用できる主な補助金制度は次のとおりです。
● LCCM住宅整備推進事業
● 次世代ZEH+実証事業
● 戸建住宅ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等支援事業
● 地域型住宅グリーン化事業
● 超高層ZEH-M実証事業
● 集合住宅の省CO2化促進事業

LCCM住宅整備推進事業(国土交通省)
LCCMとは「Life Cycle Carbon Minus(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)」の略。LCCM住宅は、建設時・実際に住んで暮らしている間・廃棄時までのトータルでCO2の収支がマイナスとなる住まいです。LCCM住宅は、運用時のエネルギー収支をゼロ以下にするZEHよりも、さらに省CO2化を進めた先導的な住宅といえます。

このLCCM住宅を対象とする補助金制度が、国土交通省の「LCCM住宅整備推進事業」です。本制度の主な要件と補助額をまとめると以下のとおりです。

【主な要件】
● 「創エネ」(再生可能エネルギー)を除く省エネ率が25%以上
● 「創エネ」を含む省エネ率が100%以上
● LCCO2(Life Cycle CO2)評価が0以下
● CASBEE (建築環境総合性能評価システム)B+ランク以上、または長期優良住宅認定を受けていること

【補助額】
1戸あたり上限140万円、かつ掛かり増し費用(要件を満たすために要した費用)の1/2以内

次世代ZEH+実証事業(経済産業省)
「次世代ZEH+」とは、ZEH+の要件を満たしたうえで、(1)蓄電システム(2)燃料電池(3)V2H(充放電設備)(4)太陽熱利用温水システムのいずれか1つ以上を導入した住宅のこと。さらなるエネルギーの自家消費拡大を目指す次世代ZEH+を対象とした補助金制度が「次世代ZEH+実証事業」です。

本制度の主な要件と補助額をまとめると以下のとおりです。

【主な要件】
● 「創エネ」を除く省エネ率が25%以上
● 「創エネ」を含む省エネ率が100%以上(Nearly ZEH+の場合は75%以上)
● 「断熱性能等級5を超える外皮性能」「HEMSなどの高度エネルギーマネジメント」「電気自動車への充電」のうち2つ以上を実施すること
● ZEHビルダー/プランナーが設計、建築、または販売する住宅であること

【補助額】
1戸あたり定額100万円+α

戸建住宅ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)化等支援事業(環境省)
戸建住宅の高断熱化による省エネ・省CO2化の支援を目的として、環境省が主体となって実施されているのが「戸建住宅ネット・ゼロ・エネルギーハウス(ZEH)化等支援事業」です。本制度は、新築注文住宅・建売住宅におけるZEHおよびZEH+が対象となります。

主な要件と補助額は次のとおりです。

【主な要件】
● 「創エネ」を除く省エネ率が20%以上(ZEH+の場合は25%以上)
● 「創エネ」を含む省エネ率が100%以上(Nearly ZEH+、Nearly ZEHの場合は75%以上、ZEH Orientedは再生エネルギーを加味せず)
● Nearly ZEH+、Nearly ZEH、ZEH Orientedでの申請可
● ZEH+の場合は「断熱性能等級5を超える外皮性能」「HEMSなどの高度エネルギーマネジメント」「電気自動車への充電」のうち2つ以上を実施すること
● ZEHビルダー/プランナーが設計、建築、または販売する住宅であること

【補助額】
● ZEH:1戸あたり定額55万円+蓄電システム2万円/kWh(上限20万円)かつ補助対象経費の1/3以内)
● ZEH+:1戸あたり定額100万円+蓄電システム2万円/kWh(上限20万円)かつ補助対象経費の1/3以内)

地域型住宅グリーン化事業(国土交通省)
国土交通省が主体となって実施する「地域型住宅グリーン化事業」も、ZEHで活用できる補助金の一つ。要件を満たす中小工務店などによる木造住宅のZEHで活用でき、これまで紹介してきた制度に比べると要件が厳しいものの、補助額が大きい点が特徴です。

認定長期優良住宅・認定低炭素住宅でも活用できますが、ここではZEH(Nearly ZEH、ZEH Orientedを含む)における要件を紹介します。

【主な要件】
● 一定の要件を満たす中小工務店などによる木造住宅のZEHであること
● 「創エネ」を除く省エネ率が20%以上
● 「創エネ」を含む省エネ率が100%以上(Nearly ZEHの場合は75%以上、ZEH Orientedは再生エネルギーを加味せず)
● 中小住宅生産者、原木供給、建材流通などの関係事業者からなるグループで応募すること
● 住宅のある地域が土砂災害特別警戒区域内でないこと

【補助額】
● 1戸あたり上限140万円(施工経験が4戸以上の事業者が申請する場合は上限125万円)、かつ掛かり増し費用の1/2以内
● 地域木材の活用等で上限20万円加算
● 三世代同居への対応、若者・子育て世帯のZEH取得、一定のバリアフリー対応等で上限30万円加算

超高層ZEH-M実証事業(経済産業省)
ここまで戸建住宅のZEHで活用できる補助金制度について紹介してきましたが、マンションにおけるZEH(ZEH-M)で使える補助金制度もあります。経済産業省が主体で実施する「超高層ZEH-M実証事業」は、そんなZEH-Mで活用できる補助金制度。住宅用途部分が21層以上ある超高層のZEH-Mが対象となります。

本制度の主な要件と補助額は次のとおり定められています。

【主な要件】
● 全住戸において強化外皮基準を満たしていること
● 共用部を含む住棟全体において、「創エネ」を除く省エネ率が20%以上
● 「創エネ」を含む省エネ率が100%以上(Nearly ZEH-Mは75%以上、ZEH-M Readyは50%以上、ZEH-M Orientedは再生エネルギーを加味せず)
● ZEHデベロッパーが携わり、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)を用いて広報活動などを行うこと
● 原則として1棟ごとに申請を受け付け

【補助額】
補助対象経費の1/2以内

集合住宅の省CO2化促進事業(環境省)
続いて、住宅用途部分が20層以下のZEH-Mで活用できるのが、環境省主体で実施される「集合住宅の省CO2化促進事業」です。本事業は、住宅用途部分が4~20層のZEH-Mで活用可能な「中高層ZEH-M支援事業」、1~3層のZEH-Mで使える「低層ZEH-M促進事業」に分かれています。

それぞれの主な要件と補助額は以下のとおりです。

【主な要件】
● 全住戸において強化外皮基準を満たしていること
● 共用部を含む住棟全体において、「創エネ」を除く省エネ率が20%以上
● 「創エネ」を含む省エネ率が100%以上(Nearly ZEH-Mは75%以上、ZEH-M Readyは50%以上、ZEH-M Orientedは再生エネルギーを加味せず)
● ZEHデベロッパーが携わり、BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)を用いて広報活動などを行うこと
● 原則として1棟ごとに申請を受け付け

【補助額(中高層ZEH-M支援事業)】
補助対象経費の1/3以内、かつ1事業あたり上限8億円(1年あたり上限3億円、事業期間は最長4年)

【補助額(低層ZEH-M促進事業)
● 定額40万円×住棟に含まれる戸数、かつ1事業あたり上限6億円(1年あたり上限3億円、事業期間は最長3年)
● 蓄電システム2万円/kWh(上限20万円/戸かつ補助対象経費の1/3以内)※住戸部分に限る
● 低炭素化に資する素材を一定量以上使用、または先進的な再エネ熱利用技術を活用する場合、定額加算

補助金を申請するうえで知っておきたい注意点

ZEHで活用できる補助金は多くありますが、申請するうえでは気をつけるべきことがあります。この項では、補助金申請にあたっての注意点を3点紹介します。

併用できる制度とできない制度が存在する
1つ目の注意点は、ZEH関連の補助金と併用できる制度・できない制度が存在することです。詳細は制度ごとに確認するのをおすすめしますが、国の補助金かつ目的が同じ制度は併用できないケースが多い傾向にあります。。

たとえば、各自治体が独自財源で実施している補助金であれば、ZEH関連の国の補助金とも併用可能。国の施策であっても目的が異なる住宅ローン控除などは併用できます。

一方、18歳未満の子どもを持つ子育て世帯やいずれかが39歳以下の夫婦世帯などの住宅取得に対して支援する「こどもみらい住宅支援事業」などについては、ZEH関連の補助金と併用できません。内容によってはZEHの補助金よりもこどもみらい住宅支援事業のほうが、補助額が高いケースもあるため、どちらを使うのか比較検討することが大切です。

また、先ほど紹介したZEH関連の補助金同士の併用もできないため、取得する住宅の状況に応じて最適な補助金を選択しましょう。

建築主等の要件もある
2つ目の注意点は、ZEHを申請する住宅は、ZEHビルダー/プランナーが設計、建築または販売を行わなければならないという点です。

ZEHの建設を経済産業省に申請したうえで登録した工務店等のことをZEHビルダー、同じくZEHの設計を申請・登録した設計事務所等のことをZEHプランナーといいます。

補助金の活用を前提に考えている場合、建築・設計の依頼先はZEHビルダー/プランナーから選ぶようにしましょう。

申請には期限がある
3つ目としては、各種補助金の申請には期限があるという点が挙げられます。

補助金制度は年度ごとにスケジュールが異なり、ほとんどの制度で申請期間が限定されています。予算に達すると、当初定められた期間内であっても途中で受け付けが締め切られる場合もあります。このため、制度の活用を検討する際には、最新情報を確認して早めに申請することが大切です。

補助金制度では申請するタイミングも重要です。申請前に着工したり、期限内に工事代金を支払い終えていなかったりした場合などは補助対象外となる可能性があります。申請タイミングは制度ごとに細かく定められているので、着工前に必ず確認しておきましょう。

補助金申請の流れ

ZEH関連の補助金の概要や注意点について確認したところで、最後に補助金申請の流れを順番に見ていきましょう。

ZEHビルダーの選定・プランの決定
まずは、ZEHに対応しているハウスメーカーやデベロッパー(ZEHビルダー)のなかでプランや見積もりを比較検討し、工事請負契約を結びます。繰り返しになりますが、ZEHはZEHビルダー/プランナーが設計、建築等を行う必要があるので要注意。契約を締結できたら、ZEH補助金の申請書作成を依頼しましょう。

補助金を申請し審査を受ける
ZEHビルダーと工事請負契約を締結したら、補助金を申請して審査を受けます。補助金は必ず着工前に申請しなければならないため、工事と申請の順序には注意が必要です。申請は建築主ではなくZEHビルダーが行います。申請するにあたっての主な必要書類は次のとおりです。

● 配置図
● 本人確認書類の写し
● 着手前写真用ボード」が入った敷地写真
● 平面図(兼設備設置図)、システム構成図等(一定の機器やシステムを導入する場合のみ)
● 敷地求積図、平面図、登記事項証明書等(ZEH Oriented申請の場合)

申請書類の作成もZEHビルダーが行うため、建設主は本人確認書類の写しを用意したり、誓約書にサインしたりする程度で、申請手続きは完了します。

ただし、ZEHは公募であるため、適用要件をすべて満たしているからといって、必ずしも審査に通るわけではない点は認識しておきましょう。

補助金を受け取る
事業が完了したら、ZEHビルダーは完了実績報告を事業完了日から15日以内、かつ、指定の期日までに提出しなければなりません。

事業完了日とは、新築注文住宅であれば、補助金対象となる工事が完了し、かつ工事代金の支払いが完了した日のこと。分譲住宅における事業完了日は、引き渡しを終え、かつ購入代金の支払いが完了した日となります。

完了実績報告が提出されると、その事業が補助金の目的に適していて公正に行われているかどうか判断する「確定検査」を実施。確定検査に合格すると、ZEHビルダー経由で補助金が交付されます。交付時期の目安は住まいの完成後3~6ヶ月程度です。

まとめ

環境にも財布にもやさしいZEHには複数の補助金制度が用意されていますが、その多くは併用できません。申請にあたって施工主やプランの要件を満たしていても、申請前に着工したり、期限内に工事代金を支払い終えていなかったりする場合などでは、補助対象外となるケースがあるため注意が必要です。

こうした要件や注意点に留意しつつ、上手に補助金を活用して、お得に快適なZEHを手に入れてはいかがでしょうか。