この夏の甲子園で、ここまで(3回戦終了時)今大会最速となる148キロをマークしたのは、山田陽翔(近江)、田中晴也(日本文理)、生盛亜勇太(興南)、武元一輝(智辯和歌山)の4人。また、地方大会は未登板だった仁田陽翔(仙台育英2年)が147キロ、高橋史佳(日本文理2年)が146キロを記録した。さらに地方大会で1イニングのみの登板だった中川真乃介(国学院栃木)が146キロを出すなど、140キロを超えた投手は50人を超えた。

 スピードだけなら間違いなくハイレベルだが、スカウトからは「ドラフト対象選手は少ない」と明るい声は聞かれなかった。それでも「ドラフト上位候補」「将来が楽しみ」と高評価を得た投手はいた。今回、セ・パそれぞれ2人ずつ計4人のスカウトに話を聞いた。

夏の甲子園、スカウトが注目した10人の好打者は?>>


この夏の甲子園で最速タイの148キロをマークした近江の山田陽翔

上位指名候補の山田陽翔と田中晴也

 まず名前が挙がったのが、山田陽翔(近江)だ。昨年夏の甲子園でベスト4、今春のセンバツで準優勝。今夏も勝ち星を重ね、史上13人目となる甲子園通算10勝をマークした。最速148キロのストレートを投げ込む山田だが、むしろ武器になっているのは縦のスライダーやツーシームといった変化球。スカウトもその部分を高く評価する。

「繊細かつ大胆な投球ができる。ピッチャーとしてのセンスを感じます。投打でチームの中心となり、言動でチームを引っ張る姿は東邦時代の藤嶋健人(現・中日)と重なります。あの野球に対する姿勢は立派です。プロでは先発よりも中継ぎタイプのような気がしますが、甲子園での活躍で人気もありますし、上位で指名する球団はあると思います」(パ・リーグスカウトA氏)

「カットボール、スライダー、ツーシームをきれいに真ん中から変化させることができる。あれはプロでも十分に通用するボールだと思います。マウンドでの気迫もすばらしいですし、精神的な強さを感じます。ただ、プロでは先発としては厳しいかもしれないですね。中継ぎで1イニング任せるほうが、彼の力を発揮しやすいと思いますね」(セ・リーグスカウトB氏)

 山田は身長175センチ、体重78キロと投手としては小柄。3回戦の長崎・海星戦で満塁本塁打を放った打撃を評価する声もある。

「投手としては、柔らかさがないので故障が心配です。高校野球の広いストライクゾーンだから結果が出ている感じもします。個人的には、多少強引に引っ張る傾向はありますが、バットが振れるし、打者としてのほうが面白いかなと思っています」(パ・リーグスカウトC氏)

 次に名前が挙がったのが、田中晴也(日本文理)だ。186センチ、92キロの堂々たる体躯から投げ込むストレートが武器の本格派右腕だ。この夏は新潟大会で右手人差し指の皮が破れた影響もあり、本来のピッチングができなかった。甲子園では148キロ止まりだったが、最速は150キロを誇る。

「もともと今年の高校生投手は、田中を中心に回るんじゃないかと言われていた逸材です。指の故障があったとはいえ、それなりにゲームをつくっていたし、ピッチングに強弱をつけられるのは高く評価できます。欲を言えば、爆発力がほしい。今年に入って150キロは出ましたが、それ以上の上積みが感じられなかった」(パ・リーグスカウトA氏)

「真っすぐはいいですね。ただ、スマートに投げようとしすぎている印象を受けました。もう少し、ガツガツした気持ちがほしいなと。体のサイズはあるし、柔軟性もあるので2、3年後にはすごいピッチャーになるかもしれないという可能性は感じました」(セ・リーグスカウトD氏)

 プロ志望か、それとも大学進学か。本人の決断に注目が集まる。

指名有力な3人の本格派

 このふたり以外で指名確実と評価された投手は以下の3人だ。筆頭は今春のセンバツ優勝投手で、今大会でも146キロをマークした川原嗣貴(大阪桐蔭)。初戦の旭川大高戦は本塁打を浴びるなど3失点したが、3回戦の二松学舎大付戦は完封勝利を飾った。

「188センチの大型投手ですが、ものすごく丁寧に投げます。コーナーにいろんな球種のボールを投げられるのは大きなメリットです。ピンチでも同じペースで投げられるのもいい。そういう面も評価できます」(パ・リーグスカウトC氏)

「身長があるというのは大きな武器。真っすぐをパチンと投げられるようになったら面白い。気になるのは、フォームがゆったりしすぎていて、3ボールになることも多い。守っている野手からするとリズムがつくりづらいピッチャーです。それでも伸びしろは、この夏の甲子園で見たピッチャーのなかでは上位でしょう」(セ・リーグスカウトB氏)

 ヒジの故障も影響もあり、この夏は思うような結果を出せなかったが、昨年夏の甲子園でベスト4入りした森下瑠大(京都国際)は、投打"二刀流"であることがメリットになっている。

「去年のいい時を見ているし、センスがあるのは間違いない。左ピッチャーでコントロールがいいのは魅力だし、角度があって質のいいストレートを投げる。今回は投手としては結果を残せませんでしたが、バッティングでアピールした。スイングはきれいだし、バッティングセンスがすばらしい。仮に、ピッチャーで結果を出せなかったとしても、これだけの打力があれば指名する側のリスクは少なく、獲りやすい選手です」(パ・リーグスカウトA氏)

 球団によっては上位での指名があるかもしれない。

 こちらも初戦で敗退したが、日高暖己(富島)も高い評価を得た。

「体のバランス、投球のバランスがいい。新チームになってから本格的にピッチャーになって、ここまで成長したのは立派。まだ投手歴が浅く、これから体も大きくなるでしょうし、そうなればボールも変わる。柔軟性もありますし、大きく化ける可能性は大いにあると思います」(セ・リーグスカウトB氏)

「初めて見ましたが、びっくりしました。しっかり腕が走っている。フォークも真ん中からベース板の上に落とせるから空振りが奪えるし、打者の左右を問わずに内外角を突けるコントロールもある。伸びしろは大きいですね」(パ・リーグスカウトC氏)

将来性を評価された5人の投手

 このほかに名前が挙がったのは以下の投手たちだ。

 武元一輝(智辯和歌山)は優勝候補に挙げられながら初戦で敗れたが、148キロをマークして能力の高さを示した。

「ピッチャーとして大きな可能性を感じさせてくれる選手です。まだボールがばらついていて、いい球とそうでない球の差がありますが、指にかかった時のボールは本当にすばらしい。カット系の球もいいですし、187センチとサイズもある。21、22歳になった時に150キロ中盤のストレートを投げるんじゃないかと思わせる魅力があります」(パ・リーグスカウトA氏)

 春夏連続でチームのベスト16入りに貢献した猪俣駿太(明秀日立)は、春からの成長をアピールした。

「真っすぐの質がいいですし、春に比べてボールに強さも出てきた。変化球も腕が振れて、低めに集めることができる。コントロール自体は悪くないけど、ストライクとボールがはっきりしてしまうところが課題ですね」(セ・リーグスカウトB氏)

 宮原明弥(海星)は、初戦で日本文理の田中との投げ合いを制して完封勝利を挙げた。

「ストレートの質と変化球のキレがほかの投手とは違う印象を受けました。そこは立派な個性として評価できます。球速は最速144キロとすごく速いわけではないけど、この夏に見た投手のなかでは一番印象に残っています」(パ・リーグスカウトC氏)

 有馬伽久(愛工大名電)は、工藤公康がエースだった時のチーム以来となる41年ぶりのベスト8に導いた左腕だ。

「真っすぐは強いし、変化球をコースに投げられるし、実戦向きの投手です。バッティングもいいし、オールマイティな選手です。総合的に高校生レベルでは上位です。いますぐプロで通用するタイプではないですが、将来が楽しみな投手であるのは間違いありません」(セ・リーグスカウトD氏)

 同じく愛工大名電で、「4番・ファースト」ながら投手としてもマウンドに上がった山田空暉は将来性を買われた。

「183センチと身長があるし、現時点で140キロ台中盤が出る。真っすぐと変化球の腕の振りが同じで、角度のある投げ方なので面白い存在になるような気がします」(パ・リーグスカウトC氏)

 現時点で「ドラフト1位間違いなし」という大物はいないが、将来性を高く評価されている投手が多いのが特徴だ。それだけにスカウトの腕の見せどころになりそうだが、はたして今大会のなかから何人の投手がドラフトで指名されるのだろうか。