板倉滉の守備力にドイツ人は心を掴まれた。先輩・吉田麻也も「素質は十分。自分の背筋も伸びる」
古巣との対戦は、いつだって特別だ。たとえ1年間という短い在籍であっても、主力として確固たる地位を築き、2部優勝を達成したとなれば、その思いはより強くなる。今季ボルシアMGの一員になった板倉は、ブンデスリーガ1部第2節でさっそく"故郷"のシャルケとあいまみえた。
昨季、背中を押してくれたサポーターが敵に変わっても、ピッチに立てば寂寥感など皆無。「やっぱり気持ちは上がる。去年はこれを味方につけていたのかっていうふうに、試合をしながら感じていた。でも、こうやってすばらしいスタジアムに戻って来られてうれしく思います」と話した板倉のプレーは、堂々たるものだった。
1対1の勝率がチープトップだった板倉滉
前半42分に迎えたFWマリウス・ビュルターとの1対1では、振りきられそうになりながらも身を投げ出してシュートをブロック。後半38分にもFWジョーダン・ラーションのドリブルをノーファウルで完璧に止めるなど、ここぞという場面での安定した守備は顕著だった。1対1勝率もボルシアMGでトップの64%を記録した。
一方で試合は、先制点を奪われたボルシアMGが一時逆転に成功したものの、後半アディショナルタイムにPKを決められて2--2の引き分けに。知友との激戦を終えた板倉は、「相手の穴を探しながらできていたと思うし、僕個人としてもチームとしても、最後のところのクオリティを上げたら、もっとチャンスは作れていたと思う」と一定の満足感を口にしながら、敵としてフェルティンス・アレーナでプレーすることの難しさを何度も強調した。
「やっぱり、スタジアムが選手を乗せていくというか。それをすごく感じる。特に1点取られるまで落ち着いてプレーできていたなかで失点したら、スタジアムの雰囲気が一気に変わるし、シャルケの選手がそれに乗ってくるから。それを相手にしながら肌で感じていた。
もうちょっとで勝ち点3を取れそうだったので非常に悔しかったけど、この雰囲気といい、最後のPKといい、初めてシャルケをこのスタジアムで相手にしたけど、簡単じゃないなって感じた。この勝ち点1をポジティブに捉えて、次は勝ち点3を取れるように頑張りたいなと思います」
吉田麻也の板倉評は?板倉に対するファンの反応は明快だ。試合後にボルシアMG公式アプリで行なわれたマン・オブ・ザ・マッチを決めるユーザー投票では、得点を決めたMFヨナス・ホフマンとFWマルクス・テュラム(ともに14%)を大きく上回り、56%の得票で首位。その働きぶりは早くもサポーターに認められている。
強化責任者のローランド・ヴィルクスは「私は誰かを特別扱いすることを好まない」と注釈をつけつつも、「シャルケの昇格に関わった彼にとって、この試合は特別なものだった。彼はすばらしいプレーをした」と板倉を絶賛した。またダニエル・ファルケ監督も「コウはすばらしいパフォーマンスを披露してくれた」と賛辞を惜しまなかった。
さらに翌日の大衆紙『ビルト』は「板倉が"ホームゲーム"で光った」の見出しをつけ、ベンフィカからボルシアMGへ移籍の噂があるMFユリアン・ヴァイグルにふれながら「ボルシアMGが興味を示すヴァイグルも同じようなタイプの選手で、最終ライン中央だけでなく守備的MFでもプレーできる。ファルケ監督も彼のことをよく知っている。しかし今の状態では、板倉を超えることはできない。そして(板倉は)すでにファンの心を掴んでいる」と記した。新天地での板倉の滑り出しは上々と言えよう。
日本代表キャプテンを務め、この日板倉と対戦したシャルケDF吉田麻也の目にも、後輩の姿は輝いて映る。
「もっとやれるんじゃないかなとは思います。どんな選手もそうですけど、とくにうしろの選手は試合に出続けることが大事なので。パフォーマンスを崩さずに。今の、この1試合、2試合で判断とか、一喜一憂......まあ本人はしないだろうけど、そこで評価がどうだこうだと言ってもしょうがない段階なので。終わった時に何試合出ていて、どれだけ結果や数字を残せているかが大事だと思います。
(高いレベルで)やれる素質は十分備わっているし、代表でも滉が突き上げてきてくれているおかげで自分の背筋も伸びるし、非常にいい関係でやれているなと思います。頑張ってほしい反面、僕も頑張らなきゃなと」
後半はボランチでもプレーそして板倉にとっても、ともに日の丸を背負う盟友との一戦は格別だったようだ。
「日本人が相手にいるとやっぱり燃えますし、『絶対に負けたくない』っていう気持ちでやっていました。センターバックとセンターバックなんで、ちょっと距離はありますけど(笑)、でもこうやってブンデスの舞台で戦えることはうれしいことだし、これからも日本人との試合はあると思うので楽しみにしています。
(吉田は)すでにチームのなかでリーダーシップを発揮している選手だと思いますし、それこそ開幕戦でキャプテンマークを巻いて出ているわけですから。それを日本人がドイツ1部で、このビッグクラブですることがどれだけ難しいか。簡単じゃないことは僕もわかっているつもりなので。
それを加入して1カ月でできているところはすごいなと思いますし、麻也君の今までの経験が活かされていると思う。もちろん、どうにか勝ちたかったって思いもありますけど、今日は勝ち点1を麻也君と分け合ったってことで。引き続きお互い頑張っていければなと思います」
後半43分のCBマーヴィン・フリードリヒ投入にともない、板倉はポジションを一列上げてボランチを務めた。各ポジションにレギュラークラスをふたり以上揃えるボルシアMGにおいて「安泰」の二文字はないが、こういったポリバレントな部分も板倉の強みだ。
次節は混沌が続くヘルタ・ベルリンとの一戦。周囲の信頼をさらに勝ち取るためにも、無失点で抑えることに注力したい。