視力の喪失は生活の質を大幅に低下させる問題であり、世界中では推定1270万人が角膜の損傷または疾患を原因とする視力の喪失に苦しんでいます。そんな角膜の問題で視力を喪失した人に、「ブタの皮膚から作ったインプラント」を移植して視力を回復させる臨床試験が成功しました。

Bioengineered corneal tissue for minimally invasive vision restoration in advanced keratoconus in two clinical cohorts | Nature Biotechnology

https://www.nature.com/articles/s41587-022-01408-w

Bioengineered cornea can restore sight to the blind and visually impaired | EurekAlert!

https://www.eurekalert.org/news-releases/961194

Clinical Trial Restored Sight to 20 People With Corneas Made From An Unlikely Source : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/clinical-trial-restored-sight-to-20-people-with-corneas-made-from-an-unlikely-source

角膜の損傷や疾患による失明や視力の低下に苦しむ人にとって、視力を取り戻すほとんど唯一の方法はドナーから寄付された角膜の移植手術です。しかし、寄付された角膜は2週間しか保存できないほか、ダメージのある角膜を除去して新たな角膜を置き換える手術は侵襲的であり、設備の整った病院でしか行うことができません。そのため、角膜移植を受けられるのは70人に1人程度であり、低・中所得国家では治療法へのアクセスが非常に限られているという問題もあります。

そこでスウェーデン・リンショーピング大学などの国際的研究チームは、厳格な条件で精製された「ブタの皮膚由来のコラーゲン分子」を化学的・光化学的に処理した人工角膜を開発しました。ブタの皮膚は食肉産業の副産物として容易に入手可能であり、特別に開発された包装・滅菌プロセスによって人工角膜は最大2年間保存可能だとのこと。

研究チームはブタの皮膚から作った人工角膜を、円錐(えんすい)角膜という病気による失明または視力低下に苦しむ20人の被験者に移植する臨床試験を実施しました。円錐角膜は角膜の中央部分の厚みが薄くなって、角膜が前方へ円錐状に突出する病気であり、正確な原因は不明なものの遺伝・目の外傷・花粉症・ぜん息・ダウン症・エーラス・ダンロス症候群などが発症確率を高める可能性があるとのこと。臨床試験の被験者はインドやイランで募集され、20人のうち14人は完全に失明していました。

研究チームは人工角膜の開発に加え、角膜の除去や縫合などを伴う通常の侵襲的手術ではなく、2mmほど目を切開して人工角膜を挿入して角膜の厚みを補うという比較的簡単な手術法も考案しました。侵襲性の低い手術は角膜の神経および細胞層を維持することができ、切開した傷も迅速に治癒するとのことで、免疫抑制点眼薬と包帯を用いた8週間の治療後に患者は回復したとのこと。

臨床試験の結果、失明していた14人を含むすべての患者の視力は通常の角膜移植と同程度に回復し、その効果は手術から2年後も継続していました。特に、実験前は盲目だったインド人参加者のうち3人は、手術から2年後に「1.0」の視力を有していたと報告されています。患者には移植による免疫の拒否反応などもみられなかったほか、傷痕やその他の有害事象は確認されませんでした。

リンショーピング大学の生物医学エンジニアのMehrdad Rafat氏は、「私たちは今回の発明が富裕層だけでなく、すべての人によって広く利用可能で手頃な価格になることを保証するために、多大な努力を払ってきました。だからこそ、この技術は世界中のあらゆる地域で使用することができます」と述べています。

同じくリンショーピング大学の眼科研究者であるNeil Lagali氏は、「今回の研究により、寄付された角膜組織の不足と眼疾患の他の治療法へのアクセスの問題を回避できます」「侵襲性の低い方法はより多くの病院で使用できるため、より多くの人々を助けることができます。私たちの方法では外科医が患者の組織を摘出する必要はなく、代わりに小さな切開が行われ、そこからインプラントが角膜に挿入されます」「この結果は、ヒトインプラントとして使用されるすべての基準を満たす生体材料を開発し、大量生産して最大2年間保存することができ、これが視力障害を持つさらに多くの人々に届くことを示しています」とコメント。

今後、ブタの皮膚由来の人工角膜を移植する大規模な臨床試験が計画されているとのことで、研究チームは将来的に規制当局の承認を満たすことを期待しています。