スペイン、リーガ・エスパニョーラ2部の2022−23シーズンが開幕した。柴崎岳(レガネス、30歳)、橋本拳人(28歳、ウエスカ)、原大智(23歳、アラベス)という3人の日本人選手が戦いを挑む。それぞれの立場とチーム状況とは――。
 

開幕戦のレバンテ戦でデビューを果たした橋本拳人(ウエスカ)

 念のために書いておくが、2部とは言っても、そこでプレーすることはJ1で活躍するよりもハードルが高い。まずは、EU外の外国人選手枠であるふたつのポストをつかむことが条件となる。そして出場した以上、助っ人外国人として際立った活躍が求められる。

 戦いの強度、精度も、欧州の中堅リーグであるベルギー、オランダ、スコットランドの1部と同等、もしくはそれ以上と言える。事実、スペイン2部から上記のリーグに移籍して活躍する選手が多くいる一方、各国からスペイン2部に来た選手が、歯が立たずに出戻る例は少なくない。かつて家長昭博(川崎フロンターレ)でも満足にポジションを得られず、井手口陽介(セルティック)はメンバー外が続き、香川真司(シント・トロイデン)も最後は契約解除だった。1部のように華やかなスター選手はいないし、洗練度は低いが、野心的でハードなリーグだ。

 たとえば原は、アラベスで背番号24をもらったが、現状、その立場は厳しいと言える。昨シーズンは開幕戦でベンチ入りしたのを置き土産にレンタル移籍。ベルギーリーグのシント・トロイデンで8得点と気を吐いたが、大した肩書にはなっていない。今季のプレシーズンも、多くの試合はメンバー入りすらできなかった。ルイス・ガルシア監督(昨シーズンまでマジョルカを率いていた)の構想から外れ、レガネスとの開幕戦もメンバー外だった。

 アラベスは昨シーズンまで6シーズン連続1部で戦ってきただけに、2部では戦力的に恵まれているほうだ。ただ財政的な問題もあって、10人以上の選手が入れ替わった。その混乱で今もメンバー編成は不十分。8月31日までのマーケットで新たなFWの獲得も十分にあるだろう。その場合、原は再びシント・トロイデンへ移籍することになるかもしれない。

柴崎に求められる「勝たせる」プレー

 一方、スペインで7シーズン目になる柴崎はすでに「ベテラン」と言ったところか。デビューシーズンはテネリフェで1部へ「個人昇格」する活躍を見せ、1部ヘタフェでは定位置を確保できなかったが、2シーズンを過ごした。その後は2部デポルティーボ・ラ・コルーニャを3部に落とし、2部レガネスを2年連続で1部昇格に導くことができなかった。

 監督がころころ変わるチームで、ほぼレギュラーの座を維持している事実は評価に値する。ただ、柴崎には中盤に君臨するMFとして、「チームを勝たせる」プレーが求められる。フリーだとリーグ1部の有力選手にも比肩するプレーを見せるが、五分五分のボールを自分のものにし、全軍を奮起させるパワーやしたたかさが足りない。アラベスとの本拠地での開幕戦も、柴崎は先発フル出場したが、チームは1−2と敗れている。

 今シーズンも苦しいスタートとなったが、殻を破れるのか。

 そして、新たにスペイン2部に挑戦するのが、ウエスカの橋本だ。

 橋本は2024年6月末までロシアのFCロストフとの契約が残っている。しかしウクライナ侵攻による裁定でFIFAに1年間の自由契約を認められ、ヴィッセル神戸を経て、今回のウエスカ移籍につながった。

「いつか1部で、できるだけ長くスペインでプレーしたい」

 橋本は野心的にそう語っているが、1部昇格につながる活躍をすることで、活路を切り開けるはずだ。

 入団10日後にもかかわらず、橋本は開幕戦で後半31分から途中交代出場し、スペインデビューを飾っている。昨シーズンまで1部に在籍していたレバンテと敵地で戦ってスコアレスドローは、出足としては悪くはない。今後は、ダブルボランチの一角でのプレーが予想される。

「攻撃的なサッカーを」

 かつてスペイン代表のFWとして活躍したホセ・アンヘル・シガンダ監督は語っているが、実現のためには守備陣の奮闘が不可欠だろう。GKアンドレス・フェルナンデス、DFホルヘ・プリードなど、1部でのプレー経験のある守備的選手の貢献がカギか。

 3年前には守りが安定したことで、岡崎慎司がラファ・ミルと並んでチーム得点王(日本人としてリーガ史上初)になって、1部昇格を果たした。

 橋本の使命は、中盤で攻守の舵取りをすること。カタールワールドカップのメンバー入りに向けても、アピールが必要になる。クラブを3年ぶりの1部復帰へ牽引できるようなら、それは欧州トップリーグでプレーする選手と同等の実績と言えるだろう。ロシアでは苦難を経験したが、災い転じて福となすことができるか。

 昇格の最有力候補は、昨シーズンまで1部に在籍していたアラベス、レバンテ、グラナダ、あるいは1部昇格をあと一歩のところで逃したエイバルあたりと見られる。どこが勝ち上がっても不思議ではない。群雄割拠のし烈な戦いこそ、スペイン2部の真骨頂なのだ。