日本では、かつては国内で飛び廻っていましたが、今ではほとんど見ることがなくなってしまった「ボーイング727」。世界にはこの機をベースに「鼻をとがらせる」改造を施し、運用を続ける機があります。どういったものなのでしょうか。

旅客機としての役割はすでに終了済み

 2022年6月はじめ、青森・三沢基地で珍しい飛行機が飛来したと一部航空ファンのあいだで話題になりました。当該機のレジナンバー(登録番号、自動車のナンバーに相当)は「N289MT」。アメリカに籍を置く飛行機です。

 この機はジェット旅客機の「ボーイング727」を母機とした改造機です。727は1963年に初飛行。3発のエンジンを胴体後部に集中させたレイアウトが特徴で、かつては多くの航空会社で運航されていたヒット機です。JAL(日本航空)やANA(全日空)でも主力機のひとつでした。


ボーイング727をベースに改修した試験機「N289MT」(画像:Raytheon Intelligence & Space)。

 727は1980年代に製造を終了。デビューから60年近く経たいま、同型機が飛ぶ姿を見ることは日本では至難です。なお、2019年1月にCNNが報じたところによると、イラン・アセマン航空の国内線フライトを最後に、旅客機としての使命は終えたとされており、いまは貨物機やプライベート機などが存在するのみといえるでしょう。

 日本の航空ファンによっては、「飛行可能な727を見られる」というだけでも大感激モノですが、この「N289MT」は、そのなかでもとくにユニークな形状をしている機体です。まるで「ピノキオの鼻」のように、機首部分が尖っているのです。

 このユニークな鼻先の改造は、同機の用途が関係しています。

「N289MT」の来歴

 現在「N289MT」として運航されている「鼻先の尖ったボーイング727」は、もともと1981年に「N710AA」というレジナンバーを付され、アメリカン航空で運用が開始されました。機齢はのべ41年を超えています。

 アメリカン航空から退役した同機は、アメリカで防衛・航空宇宙事業を展開するレイセオン社に引き取られることになりました。ここで同機は、「マルチプログラム・テストベッド(多用途試験母機)」として改修をうけ、第2の人生を送ることになります。

「N289MT」のピノキオのような機首は、F-15 戦闘機に順じた改修が施されており、その鼻の中にはレーダーが搭載されています。現在は、おもに高精度レーダー開発に関する任務を担っていると見られています。「フライト・レーダー24」をはじめとする航空機をリアルタイムで追跡できるサイトで飛行経路を追ってみると、ある地点を中心に周回するような経路を取っていることもあり、地上レーダーの探知性能などを確認しているのかもしれません。


ベースとなったボーイング727はJALでも主力機だった(画像:JAL)。

 なお、「N289MT」のコール・サイン(呼び出し符号)は「VOODOO1(ヴードゥー1)」という名称で、これは、ハイチの宗教に由来するそうです。

 ちなみに、日本の航空自衛隊でも似たような改修を施した機体を保有していたことがあります。C-46輸送機の機首にF-86D戦闘機のレーダーを搭載したC-46FTB試験機がこれで、飛行中におけるレーダーの機能を確認したことがありました。