映画『トップガン マーヴェリック』のタイトル中にもある「マーヴェリック」。これはトム・クルーズ演じる主人公の本名ではなく「コールサイン」と呼ばれるものです。あだ名とも違うパイロットの愛称が用いられるワケとは。

本名とは別、コールサインを使うワケ

※※本記事はネタバレ要素を含みます※※

 スカイ・アクション映画の名作『トップガン』およびその続編『トップガン マーヴェリック』。これらアメリカ海軍の戦闘機パイロットを描いた作品中では、主人公トム・クルーズ演じるピート・ミッチェル海軍大尉は、本名とは別に「マーヴェリック」という名前で呼ばれ続けます。

 また彼に限らず、バル・キルマー演じるトム・カザンスキー海軍大尉も「アイスマン(原作はアイス)」と呼ばれており、他の出演者も「コヨーテ」とか「フェニックス」などといった、本名とは別の名前で呼ばれています。


1988年当時、アメリカ海軍で現役だった艦上攻撃機A-7E「コルセアII」の編隊飛行の様子(画像:アメリカ海軍)。

 これらは「コールサイン」と呼ばれるもので、同じ飛行隊の隊内無線での会話で用いられる名前です。なお、アメリカ空軍や航空自衛隊などでは同様のものをTACネームと呼びます。彼ら(彼女ら)は、なぜ本名ではなく、このような「通り名」を用いているのでしょうか。

 それは、交信を敵に傍受されている可能性もあるので、本名で呼び合うのを避けるためというのが、おもな理由です。

 命名の基準は、本人の出身地、履歴上のエピソード、外観、性格など、さまざまなものからチョイスされます。たとえば主人公のコールサインである「マーヴェリック」の本来の意味は、焼印を押されていない所有者のわからない野生の子牛という単語ですが、ここから転じて、はぐれ者や一匹狼を指す言葉(代名詞)になりました。

 まさに初代『トップガン』でのトム・クルーズ演じるピート・ミッチェルのキャラにぴったりのコールサインだったといえるでしょう。

主人公のライバルや教官のコールサインの由来

 一方、同作でマーヴェリックのライバルであったバル・キルマー演じるアイスマンは、どんな時も氷のように冷静で敵の失策を突くという意味合いでのネーミング。

 同じく初代でトム・スケリットが演じていたトップガン・スクール(海軍戦闘機兵器学校)の校長はヴァイパーでしたが、これはマムシやハブが含まれるクサリヘビ科の蛇の英語における総称です。マムシのように狙った獲物は逃がさず必ず斃す(たおす)といった意味でしょうか。


アメリカ空軍の女性戦闘機パイロットであるカーリー・ジョーンズ中佐(当時)。右手に持つヘルメットのバイザーカバーには、彼女のTACネーム「MAMBA」(毒蛇の一種)の刺繍が入っている(画像:アメリカ空軍)。

 面白いのは、初代『トップガン』でケリー・マクギリス演じる民間人教官シャーロット・ブラックウッドにも、「チャーリー」というコールサインが付けられていること。もっともこれは、そのシャーロットの愛称がチャーリーなので、要はそのままといったところです。

 続編の『トップガン・マーヴェリック』にも、「フェニックス」「コヨーテ」「ペイバック」「ファンボーイ」といったコールサインが登場していますが、これらにもそれぞれ由来があるようなので、それを探ってみるのも楽しいのではないでしょうか。

 一方、前出の通り、航空自衛隊では戦闘機パイロットにTACネームという、アメリカ海軍のコールサインと同様の呼び名を与えています。

同じものは空自を描いた邦画『ベストガイ』でも

 1990(平成2)年に公開された邦画『BEST GUY(ベストガイ)』は、『トップガン』の大ヒットを受けて制作された航空自衛隊のイーグル・ドライバーたちにスポットを当てた群像劇ですが、やはりさまざまなTACネームが登場します。


航空自衛隊の戦闘機パイロットのヘルメット。「VICKY」というTACネームが見える(乗りものニュース編集部撮影)。

 まず織田裕二演じる主人公の梶谷英男2等空尉は「ゴクウ」。これは、第5航空団から転属してきた自信過剰なキャラであることから、孫悟空にも引っ掛けているとか。そのライバルとなるエリートの名高輝司1等空尉(長森雅人)は「イマジン」。吉永信明3等空佐(古尾谷雅人)は、過去にベイルアウト(緊急脱出)で生還した経験を持っているというところから「ゾンビ」と呼ばれるなど、けっこう凝ったTACネームが付けられています。

 ただ、アメリカ軍のコールサインはそう簡単には変わらないもののようですが、航空自衛隊のTACネームは転属などで変わることもあるそうです。

 2022年8月現在は、まだ映画館で『トップガン マーヴェリック』を堪能することができます。またDVDやブルーレイ、インターネット配信などで『トップガン』や『ベストガイ』を視聴し、F/A-18「スーパーホーネット」やF-14「トムキャット」、F-15J「イーグル」などの一線級戦闘機の迫力ある映像を鑑賞するとともに、コールサインやTACネームの由来を作中から発掘してみるのも、ひと味違った楽しみ方になるのではないでしょうか。