着陸前の旅客機が、滑走路手前で着陸をやり直すことがあります。「進入復行」や「着陸復行」と呼ばれる珍しいオペレーション、それを実際に体験することができました。

「進入復行」「着陸復行」の違いとは?

 着陸前の旅客機が、滑走路手前で着陸をやり直す進入復行(Missed Approach)や着陸復行(Go Around)といったオペレーションがあります。安全を確保するためのことで、目にしたり体験したりする機会はそう多くはありません。搭乗していた便が、着陸をやり直した時はどういった感覚なのか、筆者は実際に体験したことがあります。


強風下の羽田空港で、着陸をやり直したと思われるJAL便。この後上昇し、この後、右旋回に入った(相良静造撮影)。

 進入復行と着陸復行、ともに「着陸操作をやり直す(ために上昇する)」という内容ですが、JAL(日本航空)とANA(全日空)の各種用語事典などを開くと、復行操作時の高度によって、ふたつのワードが使い分けられます。

 進入復行は、進入限界高度(あるいは着陸決心高度、Decision Height)と呼ばれる一定の高さまで降下した際に、雲や雨など気象条件が悪くて滑走路が見えなければ、進入をやめて上昇し、待機コースに入るなどして滑走路が見えるのを待つ、というものです。

 一方の着陸復行は、進入限界高度以下に降下した時点で、滑走路に障害物があったり、先に着陸する機体との間に十分な距離を取ることができなかったりした場合、再度上昇することを指します。

 筆者が着陸のやり直しを体験したのは、ある強い雨の午後、福岡発羽田着の便でした。西の空の遠く低くには青空がわずかに望めたものの、そこ以外は雨雲が濃淡さまざまに低く張る、落ち着かない空模様。この日の夜のニュースでは、横浜市で大雨洪水警報が出て、冠水が起きたと報じられていました。

「着陸やり直し」実際の記憶

 羽田空港へ降下していた搭乗便の眼下にも雲があり、地上は見えません。「まだ降りないのかな」と外を見たときに、雲の切れ間から通過するB滑走路端が突然見えました。「高い」。と思ったのと同時に、エンジン音が大きくなり背中が軽く座席に押し付けられました。機体が上昇を始めたのです。

「着陸をやり直すんだ」。瞬間に分かりはしましたが、果たして本当にそうなのか。上がったエンジン音に一瞬恐怖を感じ、声を押し殺していると、担当する客室乗務員から「着陸やり直しの連絡が機長より入りました。詳細は分かりましたらお伝えします」とアナウンスが。ほどなくして、「視界が悪いため、着陸をやり直します」と続きました。


八丈島空港。天候が荒れやすいことから「着陸の難所」と呼ばれる空港のひとつだ(乗りものニュース編集部撮影)。

 上昇した機体は、右旋回をして一定の高度で飛び、再度の進入で羽田空港に降りました。窓外の雲の様子や「視界が悪かったため」というアナウンス内容から、このフライトで実施された操作は、進入復行だったのでしょう。

 頭で着陸をやり直すと理解できても、「もしかしたら何か異常が」と、落ち着かない気持ちを安心させてくれたのが、客室乗務員のアナウンスでした。上昇とアナウンスはほぼ間髪をおかずでしたので、不安は大きくならず、客室内も着陸まで静かでした。

 この便では、フライトそれ自体の安全の確保もちろんのこと、普段の運航にない場面が起きた際、乗客をどのように安心させるかという意味で、「安全の確保に、精神的も安心も欠かせない」と感じたことを記憶しています。

【映像】超焦る… ありえなすぎる「着陸復行」実際の様子(2分16秒)