医者のはなしがよくわかる“診察室のツボ”<アニサキス症>潜伏期間は“距離”に比例する!

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 アニサキスによる食中毒「アニサキス症」が急増している。

 これはアニサキスという寄生虫が人間の消化管の壁に食いつくことによって発症する感染症だ。サバやアジ、イワシ、イカ、サンマなどの魚介類に寄生して原因となることが多く、全長2〜3センチの白色の細長い糸のような形をしていて目視できる大きさである。日本では「胃アニサキス症」が多いが、「腸アニサキス症」「腸管外アニサキス症」を発症する場合もある。夏に多いと思われがちだが、実は季節に関係性はないと言われている。

 潜伏期間は、口から感染部位までの距離に比例して発症時間に差が生じるのが特徴だ。「胃アニサキス症」は8時間以内、「腸アニサキス症」の場合は数時間から数日後に発症するケースが多い。

 症状は、生の魚介類を食べた後に、みぞおちに強い痛みを感じたり、ひどい吐き気を感じる、お腹に張りを感じる、急激な腹痛、嘔吐など。痛みの強さに波があることが多いのもこの感染症の特徴だ。蕁麻疹などのアレルギー症状を起こす場合もあり、重篤な場合には、アナフィラキシー症状を起こすケースもある。胃潰瘍や虫垂炎、腸閉塞と症状が類似しているため、注意が必要だ。

「アニサキス症」による食中毒が疑われる場合は、すぐに消化器内科や内視鏡科がある医療機関を受診したほうがいいだろう。診断には胃カメラが用いられるため、胃カメラを得意とする病院が望ましい。一般的には、内視鏡検査でアニサキスの幼虫を回収すれば症状は改善する。

「アニサキス症」を予防する最大のポイントは、魚介類の生食を避けることだ。十分な加熱処理(70度以上、60度で1分以上)や、マイナス20度で24時間以上の冷凍処理でアニサキスの幼虫を死滅させることも有効だ。

 暑さが本格化するこの時期は、特に食中毒には十分注意をしよう。

田幸和歌子(たこう・わかこ):医療ライター、1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経てフリーに。夕刊フジなどで健康・医療関係の取材・執筆を行うほか、エンタメ系記事の執筆も多数。主な著書に「大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた」(太田出版)など。