話題沸騰の超巨大「空飛ぶホテル」は実現できるのか “飛行機に原子炉”は過去に実績アリ?
動画サイトでアップされ、世界で話題を呼んでいる飛行機型の超巨大ホテル案「スカイ・ホテル」、実現する可能性はあるのでしょうか。そのキモとなる「原子力」の面から探っていきます。
半永久的に空中に留まりつづける?
イエメンの科学動画クリエイター、ハシェム・アル・ガイリ(Hashem Al-Ghaili)氏が、空飛ぶ宿泊施設「SKY HOTEL(スカイ・ホテル)」のイメージ動画をYouTube上でアップし、世界で話題を呼んでいます。この動画はハシェム氏が、海外のデザイナーが作成した原案をベースに動画として“具現化”したものですが、果たして実現の可能性はどれくらいあるのでしょうか。
「スカイ・ホテル」のイメージ(Hashem Al-Ghaili公式YouTubeより)。
「スカイ・ホテル」は一見したところ、エアバスの巨大旅客機「A380」にも似たようなルックスで、左右に10基ずつのエンジンを主翼下に配置するなど、形状はまるっきり「飛行機」です。
ただ、その室内(機内)は、巨大なイベント・ホールや、垂直尾翼に接地した360度の視界を持つ展望台、エレベーターで接続された何層にも重なる円形に配置された客室、レストランなどが配置されるなど、まさにホテルそのものです。
「地上で最も大きいホテル」と知られている、ラスベガスにあるMGMグランド・ホテルは、7000室近い部屋があるそうですが、「スカイ・ホテル」は5000人のキャパシティを想定しているとのこと。その規模を物語るかのように、動画では「スカイ・ホテル」とともに描かれた「ジャンボ・ジェット」ボーイング747(全長70m超)が“ミニチュアのおもちゃ”のように見えるほどの巨大なサイズ感で描写されています。
そして、「スカイ・ホテル」は、基本的に地上に着陸することなく、半永久的に空中に留まりつづけるという“運航方針”を取ります。地上〜ホテル間の旅客の行き来は、通常の旅客機をスカイ・ホテル上部にドッキングさせる方法だそうです。
「スカイ・ホテル」が長く空中に留まるうえで、もっとも問題となるのがエンジン。既存のガスタービン系のターボ・ファン・エンジンは大量の燃料を必要とすることから、それでこの性能を実現するのは、全く適しません。
そこで「スカイ・ホテル」では、原子力で動くエンジンを搭載することにより、従来より燃料を補給する必要性を著しく減らし、着陸する頻度を「数年に一度」のレベルまで減らせると動画では紹介されています。
キモの“原子力”、これまで航空業界ではどんなトライが?
動画内の「スカイ・ホテル」で搭載されている原子力エンジンは、核融合により発生した熱をタービンに誘導して、回転力に変換させるというもの。原子力を採用することのメリットとしては、搭載する燃料が少量で済み、熱効率も通常の燃料とは比べ物にならないほど高いため、化石燃料系のエンジンと比較して、搭載する燃料が軽くて済み、その効率は桁違いです。
ただ、いまでこそ、「原子力」は高エネルギーながら高リスクなものと知られていますが、1950年代には、アメリカやソ連で原子力を有効利用する方向性が模索されており、一時期は「理想の燃料」とさえ言われた時期もありました。そして実際に「原子力を使って空を飛ぶ」ことが過去にトライされたことがあったのです。
NB-36H Peacemaker実験機(画像:アメリカ空軍)。
アメリカでは1950年代、原子力飛行機計画「X-6」というものがあり、その実現可能性を探るために、戦略爆撃機「B-36」を改造した「NB-36H」が、機体に原子炉を搭載し、1950年代後半にテスト飛行を実施しました。それに次ぐように、ソ連でも1960年代、ツポレフ設計局のTu-95爆撃機の胴体中央部に原子炉を積んだ改造機が飛行しています。
とはいっても、ともに“原子炉を積んで飛んだ”事実こそあれども、結局その目的である「原子力飛行機」が実用化されることはありませんでした。
もちろん、そのおもな理由は、安全性の確保が難しいことでしょう。軍用機の場合は、相手方からの攻撃を受けることを想定し、損傷を受けても放射能が外部に漏れだすことを避けなければなりませんし、旅客機の場合は、機内の乗客への放射能汚染がないようにせねばなりません。
これらの課題を解決するのは、当時の科学の力では至難の技といえるでしょう。ちなみに、「NB-36H」では、操縦席を鉛とゴムで覆い、窓も鉛ガラスとするなどの乗務員の被爆を防止する措置も取られたそうです。
原子力で動く「スカイ・ホテル」は“ロマン枠”で終わるのでしょうか。今後、原子力の採用以外で、半永久的に空に留まるための新たな画期的な方法が開発される可能性もゼロではないでしょう。この一例としては、太陽電池システムの画期的な進歩や、UFOのように浮いていられる「反重力装置」の実用化といった案があげられるかもしれません。