2月下旬にロシアがウクライナに侵攻しました。欧米によるロシアへの経済制裁などの影響もあり、原油をはじめとしたエネルギー価格が高騰し、そこから波及してあらゆるモノの値段も上がっています。ニュースでは連日何かしらの値上げが報じられるようになりました。経済指標を基にウクライナ侵攻の影響を確認し、これからも値上げラッシュが続くのかなどを解説していきます。

原油価格の高騰

原油価格といってもあまりイメージが湧かない方もいるかもしれませんが、今年に入ってからガソリン価格が高いという感想を持った方は多いのではないでしょうか?ガソリンの原料は原油ですから、ガソリン価格が高いということは原油価格が高いとほぼ同意なのです。

原油にはいくつかの種類がありますが、ニューヨーク・マーカンタイル取引所で取引されているWTI(West Texas Intermediate)という米国の代表的な原油の先物商品の価格が代表的な指標として知られています。今年の年始から執筆時点(2022年6月上旬)までの価格推移をグラフにしたものが下図です。

ウクライナ侵攻があった2月24日から価格が大きく上昇し、その後も上昇傾向を続けていることが分かるかと思います。まだ2022年は折り返し地点にも至っていませんが、既に6割近くも上昇しています。

原油はあらゆるモノに使われています。ガソリンだけではありません。プラスチックや合成ゴム、合成繊維、包装フィルムなどの原料も原油ですし、モノを運ぶときには燃料代がかかりますから、原油価格の高騰はあらゆるモノの値段を押し上げる要因となるのです。

それほど物価は上がっていない?

原油価格が年始から6割近くも上昇しているから、最近はあらゆるモノの値段が上がっているのか、と腹落ちしたでしょうか?それでは、ここからは「モノの値段が上がっているなぁ」という感覚ではなく、実際に経済指標を見てどのくらいモノの値段が上がっているのかを確認しましょう。一般的にモノの値段は総務省が発表している消費者物価指数を用います。最新のデータは今年の4月分になりますが、総合でみると前年同月比+2.5%となっています。

グラフを見てみると4月に入って物価が急上昇しているように見えますが、これはウクライナ侵攻の影響ではありません。

菅政権が昨年の4月に携帯電話の通信料を大幅に引き下げたことによって、物価全体を1.4ポイントほど押し下げたのですが、消費者物価指数は前年同月比の伸び率を見るため、今年の4月に入ってその特殊要因が剥がれた結果、急上昇したようにみえるのです。つまり、長い間にわたって1%未満の物価上昇率が定着していた日本では、物価上昇率の水準が2%ほどになったということです。

体感とズレている理由

物価上昇率の水準が2%ほどと書きましたが、最近の物価上昇の体感はもっと高いと思う方が多いのではないでしょうか?帝国データバンクが発表したデータによると、今年に入って既に値上げされた品目は4,770品目(5月19日時点)、そして6月から年末にかけて値上げが予定されている品目は3,615品目とされており、その平均値上げ率は12%となっています。やはり、2%という経済指標よりも、みなさんの体感の方が正しいのです。

消費者物価指数は600近い品目から物価上昇率を算出しています。前述の携帯電話の通信料のように下がっているものも含まれているため、体感よりも高い時もあれば、低い時もあるのです。

ちなみに、600近くの品目を代表的な10個の費目に分けてそれぞれの物価上昇率を見てみると、水道・光熱費が15%近く上昇しています。私も水道光熱費の明細を見て驚いた記憶があります。まだクーラーもつけてないし、水もお湯も無駄遣いしていないのに、なんでこんな金額になっているのかと不思議に思ったものです。

値上げは年内いっぱい続く

それでは、この値上げラッシュはいつまで続くのでしょうか。先程まで見てきたデータは消費者物価指数ですから、消費者が買うモノの値段を表したものですが、これからみていくのは企業間でやり取りされているモノの値段になります。消費者物価指数が2%ほどの上昇率なのに対して、企業間でやり取りされているモノの値段は10%近く上昇していることが分かります。

なぜ、企業と消費者の間に物価上昇率の乖離があるのでしょうか。それは、コストが増加したからといって、企業がそのまま価格転嫁すると消費者が買ってくれないということを恐れ、コスト増をそのまま価格転嫁していないからなのです。

しかも、ウクライナ侵攻から少し経ってから急速に円安が進んだことで、輸入価格も上昇してしまい、多くの企業はコストがさらに増加しています。足元ではすでに物価上昇していますが、企業は十分に価格転嫁できておらず、年内いっぱいは値上げが続くと覚悟しておいた方が良いでしょう。