※この記事は2018年02月16日にBLOGOSで公開されたものです

埼玉県川口市の男子中学生・栃尾良介(3年生、仮名)がサッカー部のLINEグループから外されたり、乱暴されたことをきっかけに自傷行為をしたり、不登校になった問題で、川口市教育委員会と学校と保護者の間で約束していた支援体制(17年3月28日付)がほとんど守られていないことがわかった。母親は「高校入試が近いというのに、補修プログラムが実行されていません」と怒りをあらわにしている。

これまでの記事
埼玉県川口市・いじめによる不登校 学校や市教委の対応に保護者が抱く不信感(上)
・埼玉県川口市・いじめによる不登校 学校や市教委の対応に保護者が抱く不信感(下)
・埼玉県川口市・いじめによる不登校 学校や市教委の対応に保護者が抱く不信感(続)

支援体制を確認したのは昨年3月

17年3月28日付けの支援体制に関する書類は校長名で書かれている。その中には「教職員」という項目があり、「教職員に対するメール、SNS等によるトラブル防止および、いじめに関する認識の周知と構内の指導体制の確立に向けた研修を行う」とある。

また、良介に対する「具体的配慮」には、「当面の間、状況を見ながら、登校時間や学習内容に配慮する」、「本人、保護者と話し合い2年次の学習の補充として、放課後等を使い補修の時間を設ける」、「保護者との連携を測るために、ノートを活用する。また必要に応じて定期的に連絡、面談等を行う」、「進路に向けた情報影響(学校説明会・体験入学・進路通信等)を確実に行う。また進路に関する面倒等も個別にていねいに実施する」などとある。

母親によると、補修のカリキュラムは、良介が登校できる場合と、登校できない場合の2種類作成していた。しかし、いずれも行われていない。具体的なプログラムを学校側が提示してきたのは今年(2018年)の1月末だったというのだ。これまで補習がないということは、これからの補修があるとしても、2年次と3年次の2年分になる。

「なぜ、補修のプログラム実施が遅れたのか?と聞くと、学校側は補修担当を探していて、時間がかかったと説明しました。中学校には60人ぐらいの先生がいます。なぜ、そんなに時間がかかったのでしょうか?まるで嫌がらせではないかと思えてきます」

昨年12月18日の電話取材で、筆者の「長期にわたり休んでいたことに対して、学習面のサポートはどのように?」との問いに、校長は「今、計画を準備しています」と答えている。昨年3月の年度末に保護者と支援体制を約束していたことになるが、実際には卒業間際までしてこなかったことになるのではないだろうか。

文科省への手紙「今ぼくが生きてるから、こんないやな思いとかされるんですか」

母親によると、今年1月中旬、教頭が良介の自宅を訪れたという。昨年9月、文科省に良介が手紙を送ったことが影響しているようだ。この手紙は、文科省の担当者が母親と面談したときに、母親が手渡したものだった。内容は以下の通りだ。

文部科学省へ

ぼくは1年の時からたくさんいやな思いをしました。先生とか教育委員会が守ってくれると思ったからぼくは色んな事を話しました。

どうして守ってくれる人達が法律も何回も守らないんですか。 どうしてうそばかりつくんですか。 ぼくは何も悪い事をしていないのにどうして守ってくれる人達からいやな思いをさせられるんですか。どうして法律を何回も守らないのに罰とかされないんですか。 今でも僕はいやな思いとか大変な思いをしてるのにどうして今でもちゃんとやってくれないんですか。

ぼくが生きているからいやな思いとか悔しい思いをさせられるんですか。文部科学省の人達がぼくを助けてくれるのなら。校長とか教頭とか教育委員会とかもう何回も注意されてるのにちゃんとしないんだから もう注意じゃなく罰してください。僕はもうやめてもらいたいと思ってます。 今ぼくが生きてるからこんないやな思いとかされるんですか

良介は、いじめから学校側が守ってくれると思っていた。そして支援体制ができ、高校受験も含めて、今後の中学生活を安心して過ごせるものと信じていた。しかし、母親が何度お願いをしても、実施するとしていた支援体制が構築されてこなかったことで、「ぼくが生きているからいやな思いとか悔しい思いをさせられるんですか」と感じ、文科省に気持ちを伝えた。校長は筆者の取材に「嘘をついているわけではない」と言っていたが、良介は「うそばかりついている」と感じた。母親にとっても、補修プログラムが実施されていないのだから、苛立ちを隠せない。

支援体制を担任はずっと知らされていなかった?

2月初旬、良介の担任教諭が家庭訪問に来たという。母親は支援体制のことを問いただした。

「担任は『前日まで支援体制を知らなかった』と言っていました。学年主任が学年会で一年前に決まっていた指導体制をその日に話したというのです。いったい、学校側は何をしようとしていたのでしょうか。支援体制を実行しないために、何度も何度も文科省や県教委から指導されつづけいていたのに」

保護者と校長との間で、支援体制の内容を確認し、市教委も把握していた。しかし、担任教諭が母親に説明した内容が正しければ、学校内の教職員で情報を共有していないことになる。

良介は学校に行くことができた日、校長と3時間、一緒に過ごしたことがあった。学校側は「何もしてないわけではない」と説明しているが、この時は何をしたのか。母親は言う。

「校長に聞くと、『良介くんとラジオを作りました』と言いました。なぜこのときにラジオを作ったのでしょう。しかも音も出ないわけですが...。学校は肝心なことは何もしていません。突っ込まれたときのために、何かをしておかないといけないと思ったのか、手取り早くできることをしたのではないでしょうか」

個人情報開示請求も報告書や指導要録は開示されず

母親は、プログラムの実効性のなさの背景には、学校や市教委がきちんと報告書を作成し、共有していないことがあるのではないかと考えた。そこで、今年1月、良介の名義で、良介に対するいじめの重大事態に関する記録について、すべて個人情報開示請求をした。

公開範囲は、「すべて」としたが、学校事故報告書や指導要録、職員会議録、市教委会議録、児童生徒聞き取り記録、文科省や県教委とのやりとりに関しては出てこなかった。しかし、市教委指導課が作成した「人間関係のトラブルに起因する(保護者の申し立て)いじめ事案発生報告~中学校からの報告」が2種類開示された。しかし、作成日や作者者の欄そのものがない。

「『すべて』というのに、5ヶ月分しか開示されませんでした。請求したから、慌てて作ったのではないかと思えてなりません。都合の悪い部分は書いていません。何度もいじめの重大事態だと私は報告しているのも記録にありません。すべては母親の私が悪いみたいに書かれています。また、サッカー部の顧問による体罰も、処分されたことも書いていません。会議録はいっさいありません」(母親)

事実誤認が45箇所 「虚偽記載ではないか?」

細かく確認すると、母親の認識とズレがあった。母親によると、日付の間違いを含めて、45箇所に「間違い」があることを指摘している。しかし、この記録で新たにわかったことがあった。文科省から市教委への指導は2回と思っていたが、実は3回だったのではないかという。

「いじめの重大事態として、文科省が市教委に指導したのは、昨年10月26日と今年1月4日の2回と思っていました。しかし、昨年12月7日にも指導されていることが書かれていました。ただ、1月のことは書かれていません。12月のことはこれまで出て来ていませんでしたので、文科省に指導されたのは2回と思っていました。本当は3回、指導されていたということになります」(母親)

こうしたことは公文書の虚偽記載にあたるのではないかと、母親は市教委や学校に対して不信感を増すばかりだ。また、良介は「高校へ行ったらサッカーをしたい」と話をするものの、受験勉強を満足にできず、志望校に通えるかは未知数だ。

「いじめ問題として始まった問題です。ずっと先生に相談していましたが、解決されず、市教委や学校からは嘘をつかれてばかり。ネットでは誹謗中傷され、それを知っていた市教委や学校は注意もしないできた。その上、支援体制も守らない。なぜ、被害者がこんな状態にさせられなければならないのでしょうか。良介も私も心が壊れそうです」