※この記事は2018年02月05日にBLOGOSで公開されたものです

昨年10月末に発覚した神奈川県座間市の男女9人死体遺棄事件で、無職の白石隆浩容疑者(27)は16日、殺害の疑いで再逮捕された。立件の対象となった被害者は4人目。この事件と同じように、「死にたい」とつぶやいている自殺願望のある若者は事件後も後を絶たない。今年1月3日、警視庁八王子署は、10代の少女を殺害しようとした類似の事件で、新聞販売所の従業員、斎藤一成容疑者(28)を逮捕している。

今なお、ツイッターで「死にたい」とつぶやく人たちも多い。その1人、美奈(仮名、20)に話を聞いた。

母親のアルコール依存症が原因で離婚。父子家庭に

美奈が「なんとなく死にたい」と初めて思ったのは小学校4年の頃だった。その原因は家族にあったようだ。小3の頃、家族が荒れ、両親が離婚したのだ。

「当時、母親は早朝の新聞配達のバイトをして帰宅後に、飲酒をしてから寝ていたんです。母親はアルコール依存症だったようです。父親はよく不満を言っていましたし、ものに当たっていました。そして、キャパオーバーで逃げ出したんです」

このとき母親はビールを飲んでいた。そのためか、美奈はいまでもビールを嫌う。トラウマになっているために、飲めないようだ。

母親に対するイメージはよくない。といっても、母親の事情を把握していたというよりも、父親からは聞かされていた情報をもとにしている。

「離婚のための裁判中だったと思いますが、母は精神科にも入院していたことがあったようです。『末っ子だけちょうだいよ』と言っており、弟の児童手当を当ていしたとのことでした。父は『(母親は)お金のためにお前らを使う気だぞ』と言っていました。こんな風に育って着たので、愛とは何か?というのがわからないんです」

離婚が決まるまでは、都内の祖母の家で過ごすことになった。きょうだい3人で一ヶ月ほど、児童養護施設に入ったこともある。この先、どうなるのか不安な日々を送っていた。

「施設での記憶はあまりないんです。(記憶と感情の)乖離がひどかったんだと思います。ただ、覚えているのは、はた織りをしたこと。そして、年上のお姉さんに髪を切ってもらえたこと、弟とゲームをしたことです。このときは施設内でいじめられもせず、平和でした」

父親と一緒に過ごすか、母親と生活をするのか。美奈には選択した記憶もある。結局、父親と弟とともに生活することを選んだ。「どっちといても未来はない。ならば、お金を稼げるほうについていく」というのが判断基準だったようだ。

「死ねばなんとかなる」。家庭内で抱いたストレスで万引きを繰り返す。

父子家庭となり、神奈川県内に住むことになった。当時は、学校に行けなかったが、友達に誘われることはあった。その友達と万引きを繰り返す日々だった。この頃、母親からも電話が多かったようで、父親には「俺のところにいるよな」と念押しをされていた。ストレスがたまった美奈は「生きるのをやめたい」「毎日をやめたい」と思うようになっていく。と同時に「死ねばなんとなる」との思いを抱く。

当時、携帯電話を持たされていた。その携帯で「機能不全家族」というキーワードで調べることもしていた。「機能不全家族」は、「アダルトチルドレン」とセットで語られることが多い概念だ。家族内で依存症や虐待などがあると、子どもは萎縮したり、バランスを取ろうとする。姉だった美奈は家庭内で母親の役割を果たしていたときもある。生きることがきついのは「自分が病気ではないか」と思っていた。

小学校5年になると、父親に愛人ができた。一緒に住む美奈にとっては「義母」となる。美奈が母親の役割をしないで済むようになるが、「義母」はネガティブな思考だった。父親はモラルハラスメントをよくする人間のようで、“ダメな女性”を捕まえては、常に優位に立とうとしていた。父の口癖は「死ぬか、生きるか」「やるか、やらないか」で、極端な選択肢を提示する。しかも、“女性性は売り物”という感覚を父親は持っていた。こうした姿を見ていた美奈は、幼い頃から、精神的に病んでいく。

「死のうとした」。リストカットやODをはじめる

この頃、美奈はリストカットを始めた。「死のうとした」というのが理由だった。当時は、市販薬でOD(オーバードーズ、薬物の過剰摂取)を繰り返していた。「ふわふわしたかった。寝逃げしたかった」と美奈はいう。「嫌なことを忘れたかったから」というのが理由だ。そして、インターネットで、自殺の方法も検索していた。

「意識を吹っ飛ばしたかったんですよ。ODをすると、お酒を飲んでいる感覚に近かったですね」

自傷行為は中学から高校までは激しかった。左手首と左腕を切っていた。

「痛みは感じます。といっても、『これが痛いという感覚』と納得するのに時間はかかっていました。自分のものじゃないものを傷つけているのに、痛みを感じていた。自分が嫌いなんです。何のためにやっていた?興味本位でしょうね。それに、ODをした後に、『飲んじゃった』と言って、父親に甘えられた」

精神科に通院し始めたのは高校入学後。このころの記憶は曖昧だというが、処方薬が12~13種類出ていたこと覚えている。カウンセリングの内容は聞いていない。話をするのは好きだが、改善している気がしなかった。初めての自殺未遂は高校1年の冬。タオルで首つりをしようと思ったが、死ねなかった。

「自殺を実行に移せるということは、鬱を回復できたのかな。毎年、寒くなるとODがひどいんです。ラリることができる薬の種類はわかりました、200~300錠、飲むこともあります」

最後の未遂は17年の夏の終わりだ。

「もう自殺未遂は随分していないですね、断薬しているんで」

「人を不快な思いをさせないように動いてしまう」。ネット依存と年の差恋愛

中学に入学すると、パソコンを購入してもらった。その後、ネットゲームにはまり、学校に行けない状態が続いていたためもあり、ネット依存となっていく。その繋がりから、友達ができ、彼氏もできていく。最初の彼氏は13歳のとき。相手は31歳だった。

「もともと一緒にゲームをしていた相手です。“付き合って!”と言われて、“いいよ”って答えたんです。年齢差もあったので、街を歩くようなデートはしていません。いつも相手の家に言っていました。ややレイプ気味だったんですが、流されるのは和姦ではないと思っていたということもある。付き合ったほうが怒られないだろうなって思いました。人を不快な思いをさせないように動いてしまうんです。プラスに言えることとして、その人を“彼氏”と扱うほうが、自分でも納得した」

ただ、この「彼氏」とは長くは続かず、14歳のときに20歳の男性と付き合った。やはり、ネットゲームの繋がりだった。もともとは「ゲームしよう」と言われて遊びに行き、告白されて付き合った、という。

「デートと遊びの違いがわからないんです。結局、告白されて付き合うことになりましたが、31歳の人とは違って、この人となら恋人には見える感じの相手です。ただ、やはり屋内デートが多かったんです。この“彼氏”は精神的にDVをする人でしたが、傷つけられるのは慣れているので、対応はできました。2~3年関係は続きましたが、自己主張がないという理由で、別れることになりました」

16歳の頃は、1歳上の男性と付き合った。年齢が上がるにつれて、自身の年齢と近い人と恋人になることが増えていく。その彼はニコニコ動画で、ゲーム実況をする人だった。

「この人は、自己管理ができず、借金癖のある人でした。躁鬱の波が激しかったので、お金の使い方が荒れていました。半年の同棲を含み、3~4年続いたのですが、自分から振りました。流石に借金は....」

「私も死にたいし、殺されたいです」。死にたいとつぶやく理由

そんな美奈はツイッターで「死にたい」「殺して」とつぶやく。自身もつぶやいているために「人ごとではない」とも述べる。座間市の死体遺棄事件は、こうした女性たちを白石容疑者が集めていたのだが、美奈は事件についてこう話す。

「被害者がうらやましい。だって、イケメンに殺されるなんて。加害者は頭がいいなと思いました。そんな人に、人生を終わらせてほしいです。苦しまないならいいんじゃないですか?だから、被害者をかわいそうと思ったことはないです。私も死にたいし、殺されたいです。明日を、5年後、10年後を考えたくない」

ちなみに、美奈はつぶやくとき、「#」(ハッシュタグ)を使わない。座間事件と同様な事件もあるのだが….

「集団自殺は怖いですね。(意志とは無関係に)同調圧力に飲まれてしまいそうで。だから安楽死が一番です」

安楽死は、白石容疑者も関心を持っていたキーワードだ。死体遺棄事件の被害者たちも似たような心情があったのだろうか。では実際のツイートの反応はどのようなものがあるのか。

「『会おう』と言われます。いきなり、『LINE交換しよう』とも言われたりします。『(助けられるのは)俺しかいない』とか「飲もう!』と誘われたこともある。ナンパにのってあげています。たまにはその人の家に泊まったりします。盛り上げられて、エッチしたこともあります。ただ、自分の性的欲求はないです。自分で性欲を発散されるのは別にいいです。だらだら、関係を継続しようとするのは嫌なんです。性的なことに感情をのせない。利用されているだけかな?」

自殺系や自傷系のつぶやきの多いTwitterユーザーは、心を開くまでは深くコミュニケーションは難しいが、一旦、オープンになると、心理的な距離感が急接近することがある。そうした心情を利用して、ナンパをしかける人たちがいる。これまでの取材でも、性的被害にあった女性の声を聞いたことがある。美奈も“一見”、性的被害を受けたとも言えなくもないが、“主観的”には被害と思わないような論理を働かせているように感じた。

なお、20歳を迎えたとき、美奈は母親に会いたいと思った。成人すれば、母親の気持ちがわかるのではないかと考えたからだ。しかし、意外な事実を知らされることになる。

「父親に尋ねると、母親は自殺していて、無縁仏になっている、とわかりました。母が自殺したのはショックで、喪失感や虚無感があります。それ以上、詳しいことは聞きませんでした。知ったら、また落ちてしまう。今更知っても仕方がないですから。この先どうしていいかわからないです。母のことは好きでしたから、助けられなかったという気持ちがあります。離婚のとき、本当は母について行きたかったんですが、損得勘定が働いてしまったんです....」