※この記事は2018年01月29日にBLOGOSで公開されたものです

「今起きているのは、ユーザーエクスペリエンスの革命なんです。スマートフォンの登場で携帯電話業界が一変したような」――。

そう力説するのは、NTTドコモ在籍時に「iモード」など数々のサービスを立ち上げ、現在は慶應大学で教鞭をとり、IT企業の取締役としても活躍する夏野剛氏だ。「これまでクルマに興味がなかった」と語る夏野氏だが、電気自動車(EV)の登場によって、その認識は大きく変化したという。

IT技術に造詣の深い夏野氏を魅了したEVの特性とはどのようなものなのだろうか。また、7年ぶりにフルモデルチェンジしたEVの新型「日産リーフ」に期待するのはどのような部分なのだろうか。夏野氏に話を聞いた。

EVに乗ることは“ワクワクする体験”

―夏野さんは、EVのどのような部分に魅力を感じていらっしゃいますか?

夏野剛氏(以下、夏野):EVはこれまでのガソリン車はもちろんハイブリッド車ともまったく違う乗り物になっているといえるでしょう。

私は、EVのメリットとしては第一に、その静粛性が挙げられます。ガソリン車は「燃費最優先」で作られているため、例えハイブリッド車であっても運転していると「えっ、こんな低速なのにエンジンかかっちゃうの?」というところでエンジンがかかってしまうことがある。せっかくのハイブリッド車なのに、静音走行している時間が非常に短いのは、おそらく燃費を最優先する構造になっているからだと思います。

それに対して、EVはどこまでいっても静粛なんです。静粛なクルマがいかに快適かというのは、乗ってみないと分からないのではないでしょうか。信号で停止した状態から加速する時に何も音がしない。ガソリン車の「ブーン!」という音がないことが当たり前になってしまうと、もうガソリン車に戻れません。

私はクルマを2台もっていて、1台はEVでもう1台はガソリン車なのですが、ガソリン車を運転してエンジン音を聞くと、「20世紀のクルマに乗っているな」と感じてしまいますね。

―ユーザーインターフェースが変化している点もEVの大きな特徴の一つですね。

夏野:EVでは電子制御が当たり前になっているので、エアコンやオーディオなどユーザーインターフェースがすべてデジタル化しています。私はテスラに乗っているのですが、この会議室からアプリを使ってドアを開けたり、空調温度を調整したり、充電状況を確認することが出来ます。

新型「日産リーフ」もアマゾンのアレクサと連携することで、非常に便利になっていると思います。我が家はアレクサが来て、革命的に便利になったので、アレクサと連携しているのであれば、2台目を新型「日産リーフ」にしてもいいと思いますね。

ボタン一つで駐車が可能な自動駐車機能がありますし、高速道路では、アクセル、ブレーキ、ステアリングを自動で制御してくれる自動運転技術「プロパイロット」もあるので、ストレスが大幅に軽減されるのも魅力です。

―「EVに乗る」というのは、これまでのクルマの運転とはまったく異なる体験なんですね。

夏野:そうですね。試乗してみるとわかることも多いと思いますよ。

例えば、皆さんが心配されているより充電ステーションに困ることはないと思います。新しいビルにはほぼ充電設備が入っていますし、無料のところも多いです。高速道路でもほとんどのサービスエリア、パーキングエリアに充電器があるので、心配することはないでしょう。

「ガソリン車をEVにする」という発想ではもったいない

―これまで「EV」というと走行距離の長さや燃費など経済面のメリットが語られることが多かったように思いますが。

夏野:ガソリン車というのは宿命として燃費を良くしないといけない、低公害化しなければいけないといったように、どちらかというと供給者サイドの理屈で様々なものが設計されていると思います。

しかし、EVになったことでそうした制約から解き放たれて、徹底的にユーザーサイド、クルマに乗る人のために設計の重点が移っていると感じますね。

―こうした状況を夏野さんはスマートフォンが登場した際の携帯電話業界と似ていると指摘していますね。

夏野:重要なのは、ユーザーインターフェースの変化が起きているということなのです。従来の携帯電話とスマートフォンを比較した際に、機能としてスマートフォンの方が圧倒的に優れているというものは実はあまりないんです。ただ、ユーザーインターフェースが圧倒的に違う。

タッチパネルというユーザーインターフェースによって、新しいユーザーエクスペリエンスが生まれた。それと同じような感覚がEVにはあります。

だからこそ、自動車メーカーは、これまで以上に乗るユーザーのことを考えた新しい発想で取り組んで欲しいと思いますね。まず「スマホで出来ることがクルマで出来ないということはおかしい」という前提に立つべきです。EV化というのは、スマホで出来ることはすべてクルマでも出来るという世界への入り口なのですから。

せっかくEVになって様々な制約がなくなるのに、「ガソリン車をEVにする」という発想ではもったいないでしょう。ガソリン車、ハイブリッド車の延長ではない、「新時代のEV」が生み出されていくことを期待したいですし、日産はおそらく今回"EVらしいEV"として新型「日産リーフ」をフルモデルチェンジしたのではないでしょうか。

―今後もEVの進化が楽しみですね。

夏野:そうですね。世界的なEVシフトの流れのなかで、自動車産業のみならず社会全体が大きな時代の転換点にあるのかもしれません。そうした大きな流れの中で、携帯電話で起きたユーザーエクスペリエンスの革命が起きたように、EVもこれからますます進化し主流となっていくのでしょう。

日本の企業には技術はあると思うので、これまで無理だと思っていたことにもどんどんチャレンジして、実際に実現していって欲しいと思います。そういう意味では、今後も日産には是非頑張ってもらいたいですね。

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夏野氏も大きな期待を寄せる電気自動車(EV)とその進化。こうした潮流を体現する新時代のクルマとしての新型「日産リーフ」に注目し、試乗することで、多くの人にEVの主流感を体感していただきたい。

◆関連サイト
日産リーフ

プロフィール

夏野剛:1988年早稲田大学卒、東京ガス入社。95年ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートンスクール)卒。ベンチャー企業副社長を経て、97年NTTドコモへ入社。99年に「iモード」、その後「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げた。2005年執行役員、08年にドコモ退社。現在は慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授のほか、ドワンゴなど複数の取締役を兼任。著書「夏野流 脱ガラパゴスの思考法」「iPhone vs.アンドロイド」「なぜ大企業が突然つぶれるのか」「ビジョンがあればプランはいらない」「自分イノベーション」等多数。