※この記事は2017年12月31日にBLOGOSで公開されたものです

NPO法人「日本消費者連盟」が柔軟剤などの香りによって気分が悪くなったり体調が悪化する「香害」の110番を実施したところ、全国から200件を超える相談が寄せられたという記事があった。(*1)

「香害」ねぇ……。

自分も洗濯に柔軟剤は使う。部屋干しをしているが、さほど匂いが強いとは思わない。これで体調が悪くなる人は大変だなと思うと同時に、本当にそんなに体調が悪くなるものなのか。ちょっとした気持ちの変化を被害者ぶって大げさに騒いでるだけじゃないかとも思ってしまう。

僕が憶測するに、香りが害と感じられてしまうのは、今は街から匂いが消え失せたからであると思う。

音の大きさならともかく、香りの強さなんてものは長年続けられている継続的な指標があるものでもないのでハッキリしないが、自分の感覚では今の時代のほうが、昔よりも匂いが弱い社会だと思っている。

昔は様々な物が匂っていた。自然の花の香りもそうだしトイレもそうだ。当時はまだバキュームカーも珍しくなかったし、車が近くを通れば排気ガスの臭いもした。人ももっと臭った気がする。夕方になれば近所の夕食の匂いがあたりに広がった。

しかし現在はなかなか匂いを感じることはない。排ガス規制の成果か、排気ガスの匂いを感じることは少なくなったし、外まで匂いがする夕食もカレーくらいだ。花の香りはここ数年気づかないが、銀杏の強烈な臭いはさすがに気づく。

特にトイレは臭わなくなった。今や駅の公衆トイレですら強烈なアンモニア臭がするものはまったくない。だからトイレの芳香剤も臭わなくなった。かつてはトイレの芳香剤と言えばキンモクセイの強い香りが主流だった。しかし今は消臭技術の発達と、キンモクセイの匂いがそのままトイレの臭いとして認識されるようになったため、キンモクセイの芳香剤はほとんどなくなったそうだ。(*2)

僕がかつて通っていた小学校はキンモクセイの木がたくさん植えられていたことから、秋になるとトイレの臭いがしていたことをふと思い出した。単に子供の頃の経験だから記憶が強いだけなのかもしれないが、昔のほうが、あらゆるものが臭っていた記憶がある。

すなわち、昨今の日本では匂いの経験をすることが少なくなり、僅かな匂いでもそれを「異物」として認識し、不快なものと感じるようになったのではないかと憶測はできる。

だが、それはどこまで行っても憶測でしかない。だって僕自身は少なくとも柔軟剤のレベルでは香害というものをほとんど認識できないからだ。香害の原因の1つとして名指しされる「ダウニー」も一時期使っていたが、それを部屋干ししていても害であると思うほどのことはなかった。

香りに対する許容範囲は他人と比較するには違いすぎる。いくら香害を主張する人が「この匂いは酷すぎる!」と主張しても、香害を感じない大半の人には全く伝わらないだろう。

さしあたり必要なのは、香害で苦しんでいる人たちの陳情ではなく、香害が存在するという明確なデータである。香害を主張し、それを感じない人を味方に引き込むためには客観的なデータが絶対に必要不可欠なのである。

ただ、データという点で気になることもある。それは、ニセ科学によくある「化学物質への安直なヘイト」が存在する点だ。記事上で日本消費者連盟の人も「柔軟仕上げ剤や制汗剤、除菌スプレーなどに含まれる人工的に作られた化学物質に対して、身体的な症状が出ることが香害」と定義してしまっている。

しかし、化学物質も自然の物質もどちらも単なる物質に過ぎないにもかかわらず、化学物質にのみ身体が悪い反応をし、自然のものではしないというのは、明らかに科学的ではなく情緒的過ぎる定義である。

また、この定義では自然に発生している強い匂いにより不快感や身体的症状が出る人の問題を無視することになる。

香害の存在を口外……じゃなくて主張するのは必要だろうが、その一方であまりに「気持ち悪くなる人もいるんですよ!」とか「化学物質は体に悪いに決まっている!」といった情緒的過ぎる主張は、一時的な賛同者を増やすことには使えても、最終的な法的規制などを考慮する段になったときに、「科学的ではない」とか「化学物質という悪印象によるプラセボ効果ではないか」という強い反対意見を引き寄せることになる。

確かに香害で苦しんでいる人たちはいるのだろうが、一方でそうした香りに日常の楽しみを感じている人達もいる。情緒的な意見同士がぶつかれば、問題が余計に理解されなくなっていく可能性は高い。

香害を告発する人たちは、そのことを自覚して、なるべく情緒的な感覚を排除して、科学的根拠を探し出すことに注力したほうが、スムーズに香害問題を解決できるであろうということは理解しておいたほうがいいだろう。

*1:柔軟剤などの「香害」で体調不良、学校現場の制汗剤でも発生…消費者団体が強い危機感(弁護士ドットコム)https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171230-00007181-bengocom-life
*2:トイレの「キンモクセイの香り」が衰退した理由(Excite Bit コネタ)https://www.excite.co.jp/News/bit/00091161497065.html