忖度しないフジテレビ「ネタパレ」が見せた気概~ウーマンラッシュアワーの「原発ネタ」にGO! - 松田健次

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※この記事は2017年07月25日にBLOGOSで公開されたものです

何かと向かい風に晒されているフジテレビの中で、最近、気にかかる番組がある。「ネタパレ」だ。

俳優、アーティスト、タレントなどゲストを招き、番組側が見せたい芸人を紹介する態のネタ番組だ。

前身番組「超ハマる!爆笑キャラパレード」(2016年4月~2017年3月)を経て、今年4月からは金曜深夜23時半からの30分枠にマイナーチェンジした。

ありそうで無かった「イオン出禁」というフレーズ


スタジオでネタを披露する芸人を軸に、野生爆弾くっきーの奇怪キャラ「邦彦おじさん」や、アルコ&ピース平子祐希の意識高い系キャラ「瀬良社長」など前枠より引き継いだキャラクターコント、ロバート秋山によるクリエイターズファイル的なVTR、他では見られない芸人同士のコラボコント等が主なメニューだ。

ここで、ネタ披露する芸人は知名度に限らず、番組が推す次世代の芸人が度々登場する。しかも、(かつて1分ネタでブーム化した「爆笑レッドカーペット」のように広く浅くではなく)、ピンポイントでを間を置かずに繰り返し出演させ、露出のヘビーローテーションで背中を押し出そうとしている。「フースーヤ」「ネイビーズアフロ」「東京ホテイソン」などがそうだ。

この番組で先月、昨年のM-1ファイナリストでもある男女コンビの「相席スタート」がコントを披露した。

<2017年6月2日放送「ネタパレ」(フジテレビ) 相席スタート>
※(職場の年上女性(山粼ケイ)に告白する山添寛。すると女性は真実の自分自身を打ち明けて、相手の真意に迫る)

山添「おれ、本気でミズキさんのこと好きなんです」

(M~BG 白い季節/MISIA)

ケイ「わたし、もうオバさんだよ」

山添「オバさんなんかじゃない!品のある大人の女性です」

ケイ「もう、水はじかないよ」

山添「はじくより、受け入れるほうが素敵じゃないですか」

  (中略)

ケイ「あんたには誰にも言ってない本当の私、教えてあげる」

(M~BG ハードに変調)

ケイ「あたし、イオン出禁だよ」

山添「なんで! じゃあ、ららぽーと行きましょう」

ケイ「20代の頃、ずっと坊主だったよ」

山添「強い思想がありそう。でも僕は過去は気にしない」

  (後略)

コンスタントに笑いを重ねる中で、最もインパクトを放ったのは「あたし、イオン出禁だよ」だった。一体この女性に何があったのか。「イオン出禁」という、ありそうで無さそうな重いフレーズが耳に残った。

そして・・・イオン出禁ってフレーズ、スポンサー関係大丈夫なのかな・・・と外野から要らぬ心配がよぎる。今どき企業名商品名がからむと、取りようによっては理不尽な横槍が入りやすい時代だからだ。

イオン出禁ということは、イオン側ではなく客側に非があった設定だ。しかし、イオン出禁って実際にそんな烙印あるのか? もし無ければ不要なイメージ付けにつながりかねないぞ・・・。と、営業担当でもないのにナーバスな考えを巡らしてしまった。

しかし、それにしても、イオン出禁・・・なんという重たくてバカバカしいフレーズか。その背景を想像したくなる悲哀喚起の切ない一言だった。相席スタートは日本の流通業界を代表するイオングループを相手に、崖から堕ちそうで堕ちないギャグを放ち、そのオンエアを担った「ネタパレ」に、いい意味で引っ掛かりを覚えた。

ウーマン・村本の炎上を厭わないネタに「放送OK」

その翌々週だった。ウーマンラッシュアワーが登場し、村本が高速の早口でまくし立てる独特のスタイルでおなじみの漫才を披露した。これを見て、この番組への引っ掛かりが決定的になった。

<2017年6月16日放送「ネタパレ」(フジテレビ)ウーマンラッシュアワー>
村本「(相方は)大阪出身なんです」

中川「大阪ですよ」

村本「(自分は)福井県なんです」

中川「福井県やね、あなた」

村本「(相方は)都会だから田舎のことバカにしてるんです」

中川「いや、そんなことないです」

村本「福井県ですよ福井県、福井県の場所知ってますか?」

中川「場所?」

村本「東京の方は福井県の場所、知らない方が多い。福島なのか福岡なのか分からないという方が多い」

中川「ややこしいから」

村本「私が今日代表で皆さんに福井県の場所教えますんで」

中川「場所」

村本「良かったら福井県の場所だけでも覚えて帰ってください、いいですか」

中川「うん」

村本「北朝鮮の向かい側です」

中川「いや、地元の人がよくそんなこと言うなホンマに」

村本「福井県の大飯町です」

中川「大飯町」

村本「大飯町出身。知ってます大飯町? 知りませんか、大飯原発があるところです」 

中川「ああ、大飯原発ね」

村本「あの大飯町の隣りが高浜町、高浜原発。その隣り美浜町、美浜原発。その隣りは敦賀のもんじゅ。小さい地域に原発が四基ある」

中川「すご」

村本「しかし大飯町には夜の7時以降あいている店が無い。夜の7時になったら町が真っ暗になる。 電気はどこへ行く~~~!」

中川「言い過ぎやわ」

福井の原発を題材にしたボヤキネタがスタジオを爆笑させた。耳を疑いながら唸った。原発をネタにした漫才を地上波テレビで見ているのだ。これが、ライブや舞台であれば取り立てる話ではない。テレビとライブでは足枷の重みが違う。テレビで、報道ではなくバラエティで、漫才で、となれば取り立てる話だ。

原発はテレビ局にとって複雑な利害がからむ政治的案件だ。国策、自民党、総務省、放送免許、東電、福島、原発事故、除染、廃炉、避難、帰還・・・。どう扱うかでシビアに立ち位置が問われる。言うなれば軽々には扱えない笑えないテーマだ、巨大な利害システムであるテレビの中で、原発は笑いのネタに向かない。

しかし、ウーマンラッシュアワー村本大輔は意図的にそこへ踏み込む。とはいえ、炎上を厭わない姿勢を度々見せる村本の意気だけでは放送には至らない。このネタにOKを出し、放送をGOとしたのは「ネタパレ」だ。

笑いのために、自主規制や忖度に引きこもらない。笑いの基準は自分達で決めていく。そんな気概が感じられた。

この、ウーマンラッシュアワーの漫才のあと「受け」の場面があり、ゲストの神田沙也加とMCの陣内智則がこのネタに触れた。

<2017年6月16日放送「ネタパレ」(フジテレビ) >
神田「わたし先日福井に、ミュージカルのツアーで行かせて頂いたんですけど、たしかに夜、真っ暗でした」

陣内「ハッハッハッハ、たしかに電気はどこへ行ったっていうのは、なかなかの叫びですね」

神田「なかなかの叫びですよね」

神田沙也加はネタにかぶせたコメントで対応し、センスを見せた。陣内は「なかなかの」という玉虫色のフレーズを繰り出し、自身の仕事を果たしていた。しかしこの「受け」場面、あえて触れなくていい場面に、あえて触れ、あえて放送していたように見えた。「ネタパレ」とはあえてこういう番組なんだと発信するかのように。

勝手な憶測ではあるが、「ネタパレ」は前身だったゴールデン帯から深夜枠へのマイナーチェンジとなったことで、より、笑いに対するスタンス、送り手としての立ち位置が現場で問われたのではないか。そして「自分達が面白いと思うもの」(プッシュしたい若手芸人のヘビロテしかり、ハードネタのオンエアしかり)に妥協しない、そんな風の通り道が新たに通り抜けるようになったのではないだろうか。

・・・と、ここまで書いてきたものの、これらの見方は個人的にうがっているだけかもしれない。

とはいえ、久しく向かい風に晒され、ネガティブな話題が目立つフジテレビだが、決して何もかもが一括りではないはずだ。それぞれの番組にそれぞれの風が吹いていて、それぞれに風向きをどうにかしようとしている。

その中で、「ネタパレ」には風通しの良さのようなものを感じる。もしも、笑いの風の谷のナウシカがいたら、この風をどう読むか、聞いてみたいものだ。