※この記事は2017年07月05日にBLOGOSで公開されたものです

恐らく6月第4週から第5週は「ブログ」という言葉が歴史上もっともメディアを席巻した一週間になったのではないだろうか。当然、フリーキャスター・小林麻央さんの逝去に関してである。マスコミ各社は軒並み麻央さんのブログの内容を紹介し、改めてブログというものが重要な情報のソースになったことを示したが、SNS全盛の今、ブログというメディアについて改めて考えてみたい。

また、今年はブログ開始から15年目という説もある(14年目という説もあり)。正直、業界関係者に聞いても、いつ開始なのだか明確に言える人はいないのだが、ブログって何だったのかな、というのをウェブ業界に生きる者として考えていきたい。

改めて注目されたブログというストック型メディアの強み

麻央さんが亡くなったのは22日だが、翌23日朝に夫の市川海老蔵さんが「人生で一番泣いた日です。マスコミの方々もお察しください。改めてご報告させていただきます」とブログに書いたことで「遂にその日が……」という空気になった。そして、同日午後、海老蔵さんは麻央さんの逝去を記者会見で発表。以後、この会見の様子と、麻央さんが約1年間にわたって綴ってきたブログ「KOKORO.」と海老蔵さんのブログが各メディアで紹介されるようになった。

番組の中には、ブログを開始した2016年6月から順を追ってブログの画面や掲載した写真をテレビ画面に映し、それをナレーターが読み上げ続け、麻央さんの1年間の心の動きを数十分にわたって振り返るようなものもあった。これを安直だという声はあったものの、当然彼女の肉声ともいえるものはこの1年間はブログだけだったので、番組がこうした構成になるのは当然だろう。

今回、メディアにはブログの読者だというがん闘病者やその家族らも登場したが、彼女らは「勇気づけられた」「共感できた」「一緒に頑張ろうと思えた」といった発言をしていた。実際、麻央さんのブログのコメント欄には激励の声が日々書き込まれていたものの、一方で同じ境遇にいる人にとっての心の拠り所といった面も多々あったのである。

また麻央さんがブログを書いていたアメブロの担当者によると、ブログを読むうちにブログを綴る価値にも気付いた人もいたようで、麻央さんのブログをきっかけにブログを開設している人も増えているそうだ。

今回改めてブログというストック型メディアであるが故の情報量の多さが、多くの人に知らされたのではないだろうか。時に弱気になったりもする日々移り変わる心境の変化に加え、2人の子供の成長の様子、少しずつ症状が重くなりつつも生への思いと家族への感謝が滔々と綴られ、一人の女性の闘病記としても価値あるコンテンツとなった。もちろん、こうした闘病ブログは一般の人も多数執筆しているが、それらのブログも麻央さんのブログ同様に人々の心の拠り所や交流の場になるほか、ブログ執筆者にとっても生きている証となるうえに、日々のルーティンとしての役割も果たしている。そして、夫・海老蔵さんは海外からも反響があったことから、「KOKORO.」の英訳を発表した。

ブログ黎明期からアルファブロガーの誕生まで

それでは、少し前の時代のブログの姿を振り返ろう。2003年、フリーライターになっていた私の元には企業から多数のプレスリリースが届いたり、知り合いの広報担当者から新商品やサービスを説明させてくれ、という依頼が来ていた。そんな中、某老舗IT企業に勤める知り合いから「ウチもブログサービス開始するので、取材に来てもらえますか?」と言われた。

それまで「さるさる日記」などは見たことがあったし、2003年は、はてなダイアリーが開始した時期だった。自分自身もメルマガを書いたりしていたのだが、「ブログ」という言葉は初耳だった。そこから色々と事前に調べたのだが、どうやらアメリカではすでにジャーナリストらが使い始めており、ジャーナリズムの未来を切り拓く可能性が期待されているといったことが書かれていた。ブログ初期の熱狂については『ルポ 米国発ブログ革命』(池尾伸一・集英社新書・2009年6月)に詳しく書かれている。

当日までにある程度の知識は得ていたのだが、とんと分からなかったのが「トラックバック」の概念である。そこで、担当者に「トラックバックって何ですか?」と聞くと彼女は興奮してこう言った。

「ブログが普通の日記と違うのは、トラックバックというすごい機能があるからなんですよ!今までは、自分のサイトや日記に来てもらう術は『相互リンク』ぐらいしかなかったのですが、トラックバックがあれば、自分のブログやサイトの存在を通知することができるんです!」

「でも、それって通知される側からしたらウザくないんですか?」

「いや、それこそが次世代のコミュニケーションのあり方なのです!」

こう力説されたが、結局トラックバックは業者によるスパムだらけとなり、数年間で滅多に使われることはなくなった。先日、ライブドアブログがトラックバックの機能の廃止を発表したのも、もはや不要という判断だろう。私自身も2010年以降に作ったブログではトラックバックは最初から実装しないようにしてきた。なにしろ、現在の芸能人instagramにおける美容系商品のスパムコメントと同様に、トラックバックはクソ宣伝情報に溢れてしまったのだ。

しかしながら、ブログ開始から数年、「アルファブロガー」と呼ばれる人々が続々と登場し、小飼弾氏や山本一郎氏といったブログ界隈の著名人がテレビや雑誌などのメディアにも進出していくようになる。さらには、『実録鬼嫁日記』や『きらきら研修医』などのブログが書籍化され、連ドラ化する、という流れも生まれていた。女子大生ブロガー・はあちゅう氏が、「さきっちょ&はあちゅうのクリスマスまでの悪あが記」で注目を浴び、後にはあちゅう氏はスポンサーを募って無料の世界一周旅行をブログで報告するなど、一般人がブログを通じ、世間の注目を集める流れが生まれてきた。また、グルメブロガー同士が集い、同じ店に行ったことを各人がブログで報告するなど、コミュニケーション手段としても活用され、ブログが夢に溢れた時代になってきていた。

芸能人の貴重な肉声を伝える情報ソースとして定着

また、2006年以降、芸能人がアメブロを中心にブログを多々開始するようになり、彼らの書き込みがネットニュースになる時代になった。実はこれを始めたのは多分私である。2006年にアメーバニュースの編集者になったのだが、とにかく記事本数が足りないことは明白だった。初の会議の際、サイバーエージェントの藤田晋社長に「記事、量産する方法を考えなくちゃいけませんねぇ……」などと泣きごとを言ったら藤田氏は「面白い芸能人ブログを紹介すればいいんじゃないですか? アメブロも含め、芸能人ブログ、面白いし充実していますよ」と言った。

まさに、「その手があったか」という感じだが、確かに次々と更新される芸能人ブログはネタの宝庫となっていった。他にも記事作成のためにはネットの各所を徘徊し、炎上案件などを必死に追いかけていた。途中「火に油を注ぐのはやめよう」と「炎上記事」は編集部の方針として中止することになった。こうした手法は「コタツ記事」と批判されることはあるが、芸能人の貴重な肉声や、ネットという「社会」で発生した人間同士の事件である。ツイッターやインスタグラムでの発言も含め、ネットにおける著名人の発言や一般人の諍いはスルーできない状況にあるだろう。

以後、芸能人は婚約・結婚・妊娠・出産などについてブログで第一報を発信することが当たり前になっていった。それを各種メディアが「タレントの〇〇が一般男性との結婚を自身のブログで発表した」という記事にしていくのである。冒頭の麻央さんの件も広義の意味では「ブログ発」ニュースといえる。

とにかく、現在ネットニュースの編集部はスポーツ新聞の電子版も含め、麻央さん、海老蔵さん、そして麻央さんの姉・小林麻耶さんのブログの更新情報を逐一チェックしてはニュース化している。サッカー日本代表・長友佑都さんと女優・平愛梨さんの結婚式についても、出席者の誰かが早くブログ・SNSを更新しないかと固唾を飲んでリロードを繰り返していた。そして、内山信二のブログがすぐにニュースとなった。

SNS全盛時代でも確かな存在感を発揮するブログ

かくしてブログが一般人、著名人の意見表出の場となるとともに、それらをまとめたのが当サイト・BLOGOSである。BLOGOSが開始した2009年10月、開始当初は「ブログを寄せ集めただけのサイトが成功するわけない」などと酷評されたものだが、今や錚々たる書き手が揃った総合オピニオンサイト兼ニュースサイトとなっている。

このやり方の優れた点は、両派の意見がごった煮になっている点である。多くのサイトであれば、一つのイシューについての論調はなんとなく予想ができるのだが、BLOGOSの場合は、両派が執筆陣に揃っている点から両方の論を読むことができる。また、編集部の方針としては、「自由に書いてください」という雰囲気を常に感じるため、著者としても書いていて楽しいものである。BLOGOSを運営するLINEが、ライブドアブログとLINEブログ両方を運営していることもあってブログ=自由な場所という文化が定着しているのであろう。

ブログに関してはツイッターをはじめとしたSNS勢に駆逐されているかという印象があったが、実際はどうなのか。最大手のアメブロの広報担当者・古賀早希子氏はこう語る。

「たしかに、一時期はブログ離れをする方が増えているように感じた時期もありましたが、今はSNSとブログをうまく使い分けている方が多いように感じます。自分の体験や思い、考えはブログにまとめ、その瞬間の感情や思いはSNSで投稿したり、ブログの記事をSNSで拡散するために使っていらっしゃったりする方も多いです。それぞれのメディアの特徴を活かした利用がされているのではないでしょうか。」

また、現在「プロブロガー」という言葉も存在し、ブログでお金を稼ぐ人々も出てきたが、ブログ「らふらく^^」著者で『副業ブログで月に35万稼げるアフィリエイト』著者のタクスズキ氏はブログをやり続けて良かったことについてこう語る。

「良かったことは、『好きなことを仕事にできたこと』です。ブログを始める前から、なんとなく『自分は書くこと、発信することが好きなんだろうな』とは思ってましたが、それをどうやって仕事にすればいいかはわからずにいました。ですが、ブログに出会ってこれで収入が得られると知ってからは、『これは本業にしよう』と思って頑張ることができました。結果、今のように『プロブロガー』という職業につけています。こうした経験をしたため、ブログをやって本当に良かったなと思っていますね」

そして、ブログが人生にどう役立ったかについてはこう語る。

「答えるのが難しいですが、『やりたいことを実現するためのツール』として役立つと思っています。 僕の場合は、『書く、発信する仕事につきたい』という夢を叶えるのに役立ちました。 他の方だと、『副業ブログで本業の会社員以上に稼いで、ゆとりある生活を手に入れられた』『ブログが有名になって出版し、作家としての足がかりをつかんだ』という方がいます。他にも、ブログを始めたことがきっかけでやりたいことが見つかり、起業してウェブメディアを運営している方もいます。このように、ブログを足がかりに夢に近づいていけるので、こういった点で人生にすごく役立つと思っています」

いずれにしても、ブログというものの意味合いを改めて問いかけた麻央さんの逝去だが、私達が生きた証を残すという意味において、以前より日本中のブログ群が愛おしくなってきた(※ただし、ニュースサイトをコピペしてPV稼ぎをするバカは除く)。2000年代中盤、雨後の筍のごとく乱立したブログも今やサービス閉鎖する例が増えている。だからこそ、今でもサービスを継続しているサービスの運営者・そして過去に運営した人・執筆者の皆様方に心より「あっぱれ」を入れたい。