※この記事は2017年06月08日にBLOGOSで公開されたものです


土屋礼央の「じっくり聞くと」。今回は日本うんこ学会に所属する外科医・石井洋介さんにインタビュー。少年時代は漫画やゲーム、麻雀に競馬が好きで勉強が苦手だったという石井先生が、なぜ医師を志すようになったのか?ご専門の腸とうんこのお話、会長を務めている日本うんこ学会の活動など、今回も土屋礼央が「じっくり」聞いています。

若くして大腸を全摘出。偏差値30から医師になったワケ

土屋礼央(以下、土屋):日本うんこ学会の本『タイムマシンで戻りたい』、読みました。うんこが漏れる『うんもれ』エピソードがたくさんあって、本を手に取った時と、読んだ後とではうんもれの印象が全然違う。うんこを観察するゲームアプリを開発して、クソゲーと呼んでいるのも面白い!聞きたいことは色々とあるんですが、そもそも石井先生はなぜ医師になろうと思ったんですか?

石井洋介(以下、石井):15歳の時に血便が出たんです。夏休みが明けた頃に具合が悪くなって検査入院したんですけど、その時は熱が下がらないとだけお医者さんに伝えていて、血便に関しては言ってなかった。その後、実は血便が出ていたと伝えたところ、潰瘍性大腸炎と診断されたんです。結局、病名が分かるまで1~2ヶ月経っていて、退院して学校に戻った時には勉強についていけなくなってしまった。その後も良くなったり悪くなったりを繰り返して、授業はわからないし、食事制限もあるから友達と一緒にファミレスにも行けなくなって。

土屋:それで次第に学校から足が遠のいていって…。

石井:やる気もなくして卒業後はフリーターになりました。そのあと病状はさらに悪化して大出血を起こし、腸管穿孔という状態になったんです。その時に手術して大腸を全摘出しました。

術後、人工肛門をつけることになりました。人工肛門(ストーマ)というのは、おへそと腰骨の間のあたりに穴をあけて、腸の一部を引っ張り出してお腹に肛門を作ります。そこから自然と便が出てくるので、パウチと呼ばれるビニール袋のようなものに繋いで、ある程度の時間が経ち便が貯まったらオストメイト専用のトイレとかで流すんです。その頃は人生終わったなと思っていましたね。

それからもう少し時間が経って2000年頃だったか、2ちゃんねるで、大腸全摘出後でも人工肛門を閉じる手術があるよっていうスレッドを見つけたんです。それができる病院がいくつかあって、そのうちの1つが僕が最初に外科医のキャリアをスタートさせた横浜市民病院だったんです。そこにかかって、僕の場合は幸い人工肛門を閉じることができて、「医学ってすげー、人生変わった!」と思ったのがきっかけで、医学部へ進学しようと決めました。20歳から予備校に通って2年ちょっと勉強して、最初は偏差値30とかだったんですけど、なんとか医師になれました。それで僕の手術をしてくれた横浜市民病院の先生のもとで外科医になったんです。

土屋:それで腸の専門に。


食べ物の通り道は一方通行。逆向きは「神に抗う行為」

土屋:実は僕、ウォシュレットで便意を促してってことをしばらくやっていたんですけど、あれ実はよくなかったりするんですかね?

石井:医療行為としての浣腸もあるので、お尻に何かを入れるという行為が一概にダメだとは言えませんが、医療行為のような適切な手順を踏んでいない場合は色々と危険性があると思います。基本的には、食べ物の通り道は口からの一方通行でできているので、逆向きは神に抗う行為と覚えておいてもらえれば(笑)。僕ら大腸外科の世界でよく見かけるのが直腸異物といって。いろんなものをおしりに突っ込んで「抜けなくなった」と病院に来られるケースなんです。どうしても抜けない場合は手術して取り除くことになりますね。

直腸はサイズでいうと直径4センチまでしか開かないと言われています。ガラスの瓶を入れてしまう方とかもいるんですが、小さな栄養ドリンクの瓶は抜けても、大きめのものは抜けなくなってしまいます。その場合は開腹手術で取り出すことになります。

瓶以外でいうと、ペットボトルを抜くやり方で感動した論文があって、肛門からハサミを入れてペットボトルを切って畳んで抜いてきたというんですよ。これは外科医としては神判断なケースです。何にせよ肛門からの逆流は神に抗う行為なんで、できれば一方通行で!

土屋:大事なうんこの通るところですからね。僕もうんこの通りに関しては問題がありまして。少し便秘気味なんです。長時間きばらないと出ない。腸になにかあるのかなと?

石井:検査は?

土屋:検便は出しています。異常はないみたいですけど、大腸ガンは自覚症状がないと聞いて不安で。その割にはいい加減で、検査の時も出ないからって1回分の色の違うところを2日分に分けて提出したり。ごめんなさい(笑)。

石井:検便で陰性ならかなりの確率で陰性だと思います。大腸がん検査は結構感度・特異度というものが高いんですよ。2日分提出するっていうのも実は意味があって、例えば大腸にプクッと癌のような病変があったら、そこをこすれる時に血が便について出てくるんです。がん細胞って他の細胞に比べて弱いので、便がこすれるだけですぐに出血しちゃう。そこに触れて出てきた箇所をうまく採取できていればいいんですけど、できないかもしれない。だからもう1日分採取すると、血の付いた部分を取る確率が上がる。そういう狙いがあったりします。

土屋:なるほど、2本出しゃいいってもんじゃない。うんこっていう響きが安易なものを連想させてしまうけど、大事な検査なんですね!


うんこはテトリスのように作られる?

土屋:それから僕もうんこを漏らしているんです。1度目は出演するライブに行く途中、自転車をこいでいたらお尻に異変を感じて、ヤバイと思っているとズボンの裾からポロッと落ちてきた。もう1回はついこの間、3月アタマの表参道でした。美容院に行った帰りで……。

石井:直近のうんもれですね。おしゃれタウンなのに!

土屋:もらしたままビルの隙間に駆け込んで。手持ちがコンビニの袋だけだったんで、それで処理しようにも、ビニール袋には吸水力がない!滑るだけ!そういうことを乗り越えて人は生きて行くんですね。

石井:面白いアンケート結果があるんです。うんもれ体験と年収との相関関係。年収1000万円以上の人にうんもれ体験って多いんですって。でも、うんもれ体験の人が純粋にお金持ち程多いとは思えないので、もしかするとお金持ちは余裕も自信もあるから自分の失敗体験を話しやすいのかもしれませんね。

土屋:何でも捉えようだと、うんこから導き出しているのが、とても共感できます(笑)。あと、うんこをする頻度も大事なんでしょうか。

石井:女性に多いのがガマン癖と言われています。排便を習慣づけることは大事なんです。色々定義はあるのですが、ざっくり言えば3日以上出ないと便秘と言われているんですけど、2日に1回がスタンダードな人で特にお腹の膨満感や残便感がないなら、それでもいいんです。別に毎日絶対に出ないといけない訳ではない。平熱が35度の人ならそれでいいのと同じで、リズムが一定ならそれでもいい。だから2日に1回だったひとが毎日になったり、硬い人が急に下痢になったり、リズムが崩れてきた時に体に変化が起こっているかもしれないと気付くことが大事だと考えています。

土屋:ウンチの種類で健康状態がわかると言われていますよね。ドロドロしているとか、浮いているとか。僕の場合、シラスみたいに細かったり。

石井:以前、しみけんサンというセクシー男優さんと対談したことがあるんです。彼は肛門にカメラを仕込んで便が出てくるところを観察したんですって。そしたらテトリスみたいに細切れのものが落ちてきて便が作られていくところを見たらしいんです。上行結腸あたりではまだ水っぽいんだけど、直腸のところでストンとはまっていく。そのテトリスの組み方がうまくいかない時に、例えば水分が少ないと上手くくっつかなくて細切れの堅い便が出てくる場合も。土屋さんの場合、水分が足らないのかもしれませんね。

土屋:食べたものは何日くらいで外に出てくるものですか?

石井:鋭敏に反応する場合もありますけど、普通は2日後と言われています。食べ物の話とは変わりますが、大腸の場合、細胞の入れ替わりが激しくて2~3日で入れ替わると言われています。不摂生した2~3日後に細胞にも影響が出てくるはずです。お腹の調子が悪いと思ったら、まずは正しい生活をして、様子をみてください。


「うんこ行ってきます!」と言いやすい社会に

土屋:それと石井先生はアイデアを出すスペシャリストですよね。うんことおっぱいがネットで一番検索されるワードだと気づいたって。

石井:うんこの話がリツイートされやすいというデータをたまたま聞いたんです。それを使って腸に悩みを持っている方々への啓発をが出来ないかと考えました。僕が市民講座で医者として大腸ガンと排泄の関係について話しても、あまり響かないと思うんです。それよりもバズワード、よく検索されるワードである『うんこ』と『おっぱい』を使った方が関心を持たれやすいかなというのが、最初のとっかかりでした。

土屋:真面目にやっているひとからの反応は?

石井:院長に呼び出されました(笑)。

土屋:ポップなことにを最初にやり始めるひとはみんなそうでしょうね。親子でどうやって話をしようか悩むんです。そういう時にゲームのアプリを使えば話もしやすいですよね。

石井:今、あるんです。まだ体験版ですけど。

土屋:まだ便秘気味なんですね(笑)。もうすぐリリースされますか?

石井:もう直腸まで来ています!(笑)いま開発しているのは「うんコレ」といって、便を観察してログをとって、データを報告するゲームなんです。ところがゲームを作り始めて、毎日うんこを写真に撮ってみると、これが苦痛で(笑)。スマホで思い出の写真を見ようとすると、うんこが一緒に出てくるからイヤになっちゃうんです。

土屋:うんこの写真ってどうやって撮るんですか?出した状態から?

石井:股の間から手を入れてカメラを構えて。中腰です。でもこの体勢だとスマホを便器に落としてしまうというリスクがあるのでやめようと。次に考えたのが自己申告。色と形、硬さを自分で申告してもらうんです。これなら日々のログの中で自分の便の変化をみてもらえるなと。『今日は出ましたか?出たらボーナスが出ますよ』ってゲーム内のアイテムがゲットできたり。バトルも有利に進めることができます。

土屋:本当に心配になって写真を送って診察してもらいたい時は?

石井:その機能も組み込みたいんですが、まだそこまでは出来ていないですね。やるなら有料サービスで私が自ら診察でしょうか…。でも熱があるとか異常がある場合等、問診だけでも危険な状態はかなり分かるので、その時は病院を勧めるようなアラート機能は作りたいと思っています。

土屋:クソゲーを入り口に、便に対する意識を高めるのにはいいかも!いつもどこでアプリを作ってるんですか?

石井:医療者も含めて全員ボランティアで作ってるんです。同人サークルですね。現時点ではノースポンサーなので、ぜひLINEさんにもお願いしたいです。開発は3~4年前に3~4人で始めたんですが、今はメンバーが100人くらいまで増えています。増えていったことで、声の部分は声優さんに担当してもらえたり、キャラクターのクオリティが上がったりと、ゲーム全体の質が上がっていきました。

土屋:このアプリがたくさんの人に受け入れられるようになると、うんこについても人と話しやすくなるかもしれませんね。

石井:小学生が気軽に「うんこ行ってきます!」って言える社会になればいいなと願ってます。

土屋:うんこって、今はちんこと同じポジションの単語で、人前では言いにくいですもんね。

石井:アプリ開発はカフェでやってるんですが、そういうところでは僕たちも言いにくいので隠語を使ってます、『ガイア』って。

土屋:確かに、「ガイア、行ってきまーす」なら言える!

石井:真面目な話、大腸ガンのステージ4の人に後から話を聞くと、数か月前からうんこがおかしい時期があったって,みなさんおっしゃるんです。半年、3カ月でも発見が早いと治療方針が変わることもあるので、少しでも早く見つけてほしいという思いをもってゲームアプリを作っています。今のところ無料アプリの予定で、今年中の配信を目指しています。40歳以上になると大腸ガンにかかる人が急に増えてきますから、ひとりでも多くの人に手に取って頂きたいです。


「うんこを漏らした話」はスベり知らず

土屋:日本うんこ学会でまとめたうんもれエッセイ本の『タイムマシンで戻りたい』。あれはどういう経緯で出すことに?

石井:イベントを開催していて、うんこを漏らした話はどこでも滑り知らずだったんです。ウケる話なのに、あまり聞いたことがない。でも改めて聞いてみると隠れうんもれって多いんだなって気づいたんです。しかも、うんもれの中には、過敏性腸症候群(IBS)や潰瘍性大腸炎のような病気が隠れていることがあるので、実はうんもれの事を医師に相談できずに悩んでいる人もいるんじゃないかなって思い、そういう話を集めてみました。メッセージは「君は1人じゃない」です。僕自身、病気でうんもれをしていた当事者なので。

土屋:今はエロいこととうんこの話が下ネタでひとくくりになってますもんね。切り離さなきゃ!下ネタと糞ネタ!

石井:うんこ話もみんなで話をシェアしていかなきゃ知識の集積がないですからね。つらい思い出も話すことで面白い思い出に変わっていくことを皆さんにお伝えしたい。土屋さんの場合、ビニールで拭いたというのはナレッジ、知識の集積ですよね。普通、パンツで拭きたくなるんです。それを思いとどまったのは良かったのかも。


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土屋:僕はいざとなると手で拭けるんです。手は洗えばいいんですから!形、柔らかさときて、次はにおい。僕の場合、時間がかかるんで1回で3ジャンル出るんです。においも出る順番で違っていて…。

石井:においに関しては、まだあまり研究が進んでいない分野だと思います。一番は食べたものの影響だと考えられています。もうひとつは腸内細菌のバランス。スカトールを発生させる腸内細菌が多いとにおいが強くなると言われています。ジャスミンティーや香水に薄く入っているといい香りだと言われているものです。多いとうんこのにおいになっちゃう。

土屋:くさくない方がいい?

石井:肉食ほどくさくなるとか言われていますけど、それが健康に影響を及ぼすかというと、そこまではまだわかっていないんです。

土屋:なぜ研究が進まないんでしょうか。

石井:やっぱり、「うんこ」は人気ないんですかね…。逆に研究が進んだ領域として、最近になって、便の中の腸内菌の遺伝子分析ができるようになった。ある便の中に入っている腸内細菌の遺伝子はこのタイプの遺伝子が多いので、おそらくこの人はオドリバクター(菌の種類)が多いのだろうとか。腸内細菌のバランスがわかるようになったのは、ここ10年ですね。機器の進化等が貢献しています。

土屋:菌といえば、ヨーグルトに入っている乳酸菌もいろいろありますね。

石井:乳酸菌に関しては各社、研究が進んでいます。かつて同じ菌だと思われていたものも、光学顕微鏡ができたことや前述の遺伝子の違いが分かって実は違う菌だったと分かったケースもあるんです。ちゃんと見えるようになったんですね。ざっくりとアイドルとくくられていたものが、グループが違うぞと気づいてもらえたみたいな。

土屋:先生は例え話が上手ですね。これもやっぱりうんこ学会の影響?

石井:イベントや生放送で鍛えられました。ゲーム実況で、どういう治療をするとか医療解説をすることもあるんですが、ニコ生だと『わかりませーん』って頭の上に文字が走って突っ込まれたりします。

土屋:そういう『わかりませーん』っていってるような方にも、どうにかしてうんこの話題を受け入れやすくなって欲しいですね。先生は、今では食事も普通に?

石井:普通です。だから患者さんに対して、経験者の立場から大腸がなくてもなんとかなるよ、心配しないで大丈夫って言えるんです。学校を休んでしまっても、治したら外科医くらいにはなれるよって。かなり偏った情報ですけど、障害を乗り越えたような話に僕自身も勇気をもらってここまで頑張ってきました。

土屋:それはすごい励みになりそう。

石井:僕自身はゲームや競馬、麻雀、漫画しかなかった子だったんです。そういう昔の僕が見ていた物の中に、医療の話を溶け込ませていきたいんです。それだったら当時の僕も手に取っていたかもと思って。

土屋:アプリで遊んでいるうちに、うんちく博士になれるといいですね。

■土屋礼央
1976年、東京都国分寺市出身。RAG FAIR として2001年にメジャーデビュー。 2011年よりソロプロジェクト「TTRE」をスタート。ニッポン放送「土屋礼央 レオなるど」、TOKYO MX2「F.C. TOKYO魂!」、FM NACK5「カメレオンパーティ」などに出演中。ニューアルバム「ブラーリ」が好評発売中。
・TTREニューアルバム「ブラーリ」
・土屋礼央 オフィシャルブログ
・Twitter - 土屋礼央 @reo_tsuchiya

■石井洋介
高知医療再生機構特命医師 / 日本うんこ学会会長
2010年高知大学医学部を卒業後、 医療法人 近森会 近森病院での初期臨床研修中に高知県の臨床研修環境に大きな変化をもたらした「コーチレジ」を立ち上げた。 その後、大腸がんを中心に正しい医療情報発信を目的とした「日本うんこ学会」を設立し、 スマホゲーム「うんコレ」の開発・監修を手がけるなど、 医療環境の改善に向けクリエイティブ領域を中心に幅広く活動している。 横浜市立市民病院 外科・IBD科医師、 厚生労働省医系技官を経て現職。 近著として、 日本で初めてYouTubeを活用した医学書「YouTubeでみる身体診察」(メジカルレビュー社)がある。
・日本うんこ学会
・うんコレ
・Twitter - 日本うんこ学会公式 @unkogakkai

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