※この記事は2017年06月06日にBLOGOSで公開されたものです

地域の持つデータをオープン化して、街の魅力や雰囲気といった“目に見えにくいもの”を数値化し、確かな街の姿を伝えていく--。2016年から行われたプロジェクト「Growth Luck Project」は、データによる新たなシティプロモーションを実践したものだ。

このプロジェクトでは、リクルートグループ(以下、リクルート)の企画・提案をもとに、総務省と各地方自治体が手を組んで、新たな街のPRを考えていったという。

本記事の前編では、プロジェクトに携わったリクルートコミュニケーションズの榎本淳子氏、総務省の岩間健宏氏、田原諒氏、鎌倉市の平澤野安氏が、オープンデータの価値や、その課題について話し合った。そして今回の後編では、実際にプロジェクトでどんなことを行ったのか、その道のりを聞いていく。

活用への第1歩は、「楽しく学んでもらうこと」

--Growth Luck Projectでは、具体的にどのような施策で、オープンデータをシティプロモーションに活用したのでしょうか。

榎本:プロジェクトでは大きく3つのステップを設けました。まずシンポジウムを開催し、自治体にオープンデータ活用の重要性を伝えます。次にワークショップを開き、各自治体と対面で「自分の街の魅力をどうデータで発信するか」を相談。それをふまえ、不動産・住宅の総合情報サイト「SUUMO」に、データを使った各自治体の紹介記事を掲載するという流れでした。

平澤:最初のシンポジウムは、とにかく会場のインパクトがすごかったですね。ニコファーレで開かれたのですが、「本当にここが会場ですか?」みたいな(笑)

榎本: 行政の方は座学の研修が多いと思ったので、非日常の場で楽しみながら学んでもらいたかったんです。内容はベーシックで、データ活用の意義や、横浜市とさいたま市の方からは事例を紹介したのですが、それを360°のLEDパネルでテクノロジー満載で体験として楽しい場にしたり。近くの席の人同士でハイタッチしたり、とにかく楽しんで、実現したら素晴らしい世界が待っていそうだというワクワク感を大切にし、モチベーションを上げてもらうよう工夫しました。

岩間:国が「オープンデータを推進しましょう」と声をかけても、どうしても一般的な方法になってしまいます。そんな中、伝え方や見せ方にインパクトを出せたのは、民間企業ならではと思います。

ターゲットに届く街のデータをどう探したのか

--ワークショップではどのようなことをしたのでしょうか。

榎本:エリアごとに複数の自治体を招いてワークショップを開きました。いくつかの自治体とテーブルを囲み、まずはその街におけるPRの方向性を決めます。「SUUMO」は毎年「住みたい街ランキング」というアンケート調査をしており、膨大なローデータがあるので、それを自治体ごとに細かく分析しました。例えば鎌倉市は「どんな年齢層や属性に好かれているか」「どんな部分が好まれているか」といったように、ターゲットや街のイメージを特定していったんですね。そして、その魅力に繋がるようなデータを自治体に探していただきました。

平澤:鎌倉市のイメージは、「SUUMO」の調査からは「自然」と「文化」が読み取れました。ただ、それを裏付ける自治体のデータをどうするか。「自然」をアピールするデータとして、最初に「特別緑地保全地区が48.8haもある」と伝えたのですが、「それだけで広さをイメージできますか?」と言われ、「確かに」と思ったんです(笑)。そもそも、市の広さによって面積の捉え方は違いますし。

そこで、県内各市における「特別緑地保全地区の面積」を調べ、市全体の面積とそれぞれ比較したところ、鎌倉市は市域に対しての比率が県内1番だったんです。自分で計算して判明しました。最終的にはそれが記事に使われていましたね。

変わるPRの意識。「データは作りにいかないといけない」

--ワークショップを通じてピックアップされた街の魅力は記事化され、現在、「SUUMO」には『データで知る!街の意外な魅力さがし』として掲載されています。プロジェクトを振り返ってどんな成果があったでしょうか。

榎本:記事を見る前と後の印象調査を行ったのですが、カスタマーの納得感が変わりましたね。「子育て世帯が住みやすい」とアピールしていた街も、データで示せると印象が違います。一例として、江戸川区は、区の認定を受けた「保育ママ」201人が在籍しており、これは全国トップクラスであることをアピールしています。そういったデータを見ると、「まったく興味がなかったけど、その街についてもっと詳しく知りたくなった!」という声がありました。

田原:ワークショップを通じて自治体職員の方の価値観が変化していくのが感じられました。

皆さん、自分達の街にすごく愛情を持たれているのですが、データを活用することで、それを客観的に示せることに気づいていただけました。こういう見せ方があるのかと。

岩間:データの活用は自治体自身がその気にならないとなかなか進みません。今回のプロジェクトを通じて、データ活用の有用性に気付き、自治体自らオープンデータに取り組もうと意識を持っていただけたのは大きな成果でした。

平澤:データって一般の方から分かりやすく伝わるように作りに行かないとダメなんですね。また、作るといっても、ゼロからではなく既存のものを組み合わせることで出来るケースもあります。それを改めて痛感しました。新人研修でもデータの活用方法をテーマにしようと考えていた時に、今日のプロジェクトからアイデアを得て実施することができました。鎌倉市としても今回の経験を生かしていきたいです。

榎本:Growth Luck Projectは一区切りですが、これを事例にオープンデータ活用を広げていきたいです。また、オープンデータは移り住む人だけでなく、すでに住んでいる人の暮らしの満足度の向上、ひいては社会課題解決にも活用できる可能性があると思っています。そういった取り組みも進めたいですね。

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