性犯罪者は出所後、どう生活をしているのか~映画「scope(スコープ)」から考える - 渋井哲也
※この記事は2017年06月01日にBLOGOSで公開されたものです
性犯罪加害者が刑務所を出た後の更生のあり方を描いた映画「scope(スコープ)」の上映会とトークイベントが、都内で開かれた。日本「性とこころ」関連問題学会の主催。この映画は7年前に上映されたもの。
性犯罪に関する刑法改正議論がされている中、性犯罪加害者の更生についてはなかなか注目されない。そんな中で、加害者更生や被害者支援の関係者、性のあり方に関心のある参加者たちが映画を見て、感想を語り合った。
6月17日に都内で行われる、同学会第9回学術研究大会のプレイベントとして企画した。 映画は、性犯罪者を関する法律「scope法」ができた近未来の日本を想定している。
この法律では、性犯罪者が出所するときには1)GPSを埋め込み、監視する、2)出所者の所在は勤務先の雇用主には伝えられ、インターネットでも公開される、3)薬物療法による去勢がされる、といったもの。主人公は、集団強姦罪で、懲役6年の刑で、刑務所を満期出所した男。被害女性は、男が服役中に自殺する。被害者遺族はscope法成立に尽力した人物だ。
出所後、性犯罪者を監視する法律があったら
男は出所後、就職活動をする。ある会社の面接を受けるが、偶然、大学時代のサークルの後輩がその会社におり、素性が明らかになったため、就職ができなくなる。困った男は父親が住むマンションに向かうが、インターフォン越しに話をされるだけ。また、新しい家族がいるとのことで、“手切れ金”をポスト越しに渡される。そして、男は離島に向かう。偽名を使って就職をするのだ。
就職はできたが、scope法により、雇い主には通知が行く。ただ、雇い主も飲酒運転で人をはねた過去があったために、似たような境遇ということで同情的になり、問いたださない。しかし、いずれはバレる。同僚の男性から忌み嫌われる。男を雇っている工場が地域から嫌がらせをされ、取引先にもわかり、業績が悪化。最終的には解雇されてしまう。
一方、耳が聞こえない20歳の女性も働いていた。その女性が男を好きになる。それに同僚の男性が嫉妬する。男が解雇されたとき、女性も一緒に島を出ようとするが、嫉妬した男性が女性を殺害し、自殺する。そこで、男は大切な人を失うことの意味に気がつく。そして、亡くなった被害女性の父親宅に出向き、直接謝罪する。
加害者からの謝罪はどうあるべきか
映画終了後、映画監督の卜部敦史さんと、性犯罪加害者の更生プログラムに携わっている斉藤章佳さん(精神保健福祉士、社会福祉士)と、白鴎大学の平山真理教授(法学部)の3人によるトークセッションが行われた。
斉藤:この映画は10回ほど見ている。一番関心がある場面は、最後の謝罪のシーン。加害者臨床の中でも謝罪は大きなテーマだ。 以前、息子さんを交通事故で亡くし、今は被害者支援をしている方が講演されたときに「息子の命を奪った加害者に、今どんな謝罪を求めますか?」と質問したことがある。
すると、「謝罪はいりません」とおっしゃった。そう返ってくるとは思わなかったので大変驚いた。その方は、「加害者も出所すると大切な人ができる。パートナーができ、自分が家族を作るかもしれない。そのときに、自分がそれだけ大切なものを奪ったのかを気づくだろう。だから、今は謝罪を求める気持ちはありません」とも言った。 その方は、時間の経過とともにそういう気持ちになったが、事件当時は「殺してやりたい」と思っていたとも言っていた。長い間、被害者支援をしている中でそういう気持ちに変化してきたということだった。
平山:神戸出身なんですが、阪神淡路大震災(1995年)で性的な被害が起きているのではないか、という報告がされた。公式の統計、つまり警察の統計では、性的な被害が増えていないというズレがあった。被害者の人たちは助けを求めようとしたのですが、セカンドレイプの問題があったのです。警察がきちんと対応してくれないと聞いた。
被害者を支援してくれるはずの警察が、勇気を出して訴える被害者に対して、勇気をそぐ対応をすることがあるんだ、とびっくりした。それがきっかけで性犯罪の被害者支援に関心を持った。その過程で、加害者の人が立ち直らないと困ると思うようにもなった。 この映画ではscope法を想定している。似ている法律がある国もある。アメリカにはミーガン法がある。韓国にもある。もし、日本でこの法律ができたらどうなるのかということを問いかけている。この映画は挑戦的な作品だと思った。
映画では、加害者が被害者遺族に謝罪する場面がある。修復的司法と呼ばれている。被害者と加害者の間があまりにも分断されているために、なんらかの手段で結びつける方法はないか、と考えたこともある。みなさんも思うんでしょうが、性犯罪の場合、当事者同士は難しいのではないかと言われている。
*ミーガン法:1994年にアメリカ・ニュージャージー州で起きた少女ミーガン・カンカ(当時7)への暴行殺人事件の犯人が、過去に女児暴行で二度の逮捕歴があった。これをきっかけに成立した性犯罪者に関する情報公開法のこと。出所情報や転入・転居時に周辺住民への告知が行われる。連邦法でも類似の法律ができた。
**韓国:01年、青少年に対する性犯罪者名簿を公開。ただし、08年の改正で、写真と身元情報の閲覧の範囲は、未成年の保護者、教育機関などの代表などに限られた。同年、13歳未満の児童への性犯罪を犯した者に対して、GPSの10年間装着を義務付ける法律が成立した。
斉藤:謝罪の場面があったが、当事者同士の対話による謝罪は難しいと私も思う。私は10数年前から加害者臨床に携わっている。被害者支援をしている人たちともコンタクトをとってきた。支援者同士の対話による新しいものができないか、または理解し合えないか。理解することで、もう一歩先の新しい修復的司法の段階に発展していかないかと考えている。
加害者はどういう存在か
卜部:最後の場面で描かれている謝罪。それは本当に難しい。7年前に劇場公開したときにはいろんな人に来ていただいた。加害者の方、被害者の方、そのご家族の方、司法関係者….。そんな中、被害者に言われたのは最後の対話はありえないと。やっぱり、そうなんだ、と率直に感じた。
性犯罪をなくして行くにはどうすればいいか。歩み寄ることが、解決の糸口になるのではないか、と想像しながら映画を作った。
なぜ映画を作ったのか。もともとテレビの仕事をしていて、性犯罪被害者の方々を取材することがあった。ふと、加害者は、出所後は何をしてるんだろう?と思った。取材する機会がなかった。加害者はその後、どう社会に戻って、どう生活をしているのか。そんな中で再犯を繰り返す人もいる。出所後の加害者にスポットが当たらない。テレビの仕事でそう感じていた。
加害者はどういう存在なのか。そんなとき新聞記事で、法務省が、性犯罪者を監視する法律を検討していると書いてあった。厳罰化の流れでもあるし、大きな事件があると、法律ができる可能性がある。服役後も縛られるのは二重刑罰じゃないか。なぜ性犯罪者だけなのか。そう思っていた。 だから、近未来に、こういう法律ができたときに、自分も含めて、社会は加害者をどう受け入れるのか、重大な罪をおかして罪の意識をかかえながら生きている人をどう受け入れるのか。現在進行形で関心がある。
斉藤:今年は、(性犯罪関連の)刑法改正案の議論が盛り上がっている。主人公の罪状は集団強姦。去年は、そういうテーマの報道が重なった。もう一度、この映画を関係者に見ていただきたい。どう考えて、どうしていいかを考えてほしい。
会場から:加害者はどんな人が多いのか
斉藤:私が加害者臨床をしているのは精神科の外来です。社会内処遇の対象群と、刑務所など矯正施設内の処遇の対象群は違うでしょう。社会内処遇の対象者の場合は、罪状は痴漢、盗撮、露出、のぞき、小児性愛が比較的多い。強姦は少数派です。
では、過去に被害体験から加害者になるというストーリーはあるのか。被害者は少数。加害者臨床でも使っているリスクアセスメントツール(static-99)があるのですが、過去の生育歴を問う項目はありません。ということは、それほど影響を及ぼす因子ではないということです。
痴漢の場合は四大卒で家庭持ち、サラリーマンということが多く、我々と変わらない。しかし、暴力行為を伴うハイリスク群になると有意差があると思う。
恋愛・結婚の不安を抱える当事者と家族
会場から:出所してきた男が、女性を抱きしめるシーン。あの部分は、薬物療法はどうなっているのか
卜部:劇場公開のときも突っ込まれた。最初の設定上は、薬物による去勢で、興奮すると拒絶反応がある、というもの。あの場面は、出所後に初めて人を愛した。だから抱きついても拒絶反応がなかった。乗り越えたというニュアンスを出したかった。
斉藤:臨床の中では、恋愛や結婚もテーマとして出てくる。過去に性犯罪を犯した人が恋愛や結婚ができるのか。彼女ができたとして、過去のことをカミングアウトするべきか。しなくてもいつかバレるのではないかと考えながら交際を続けるのか。
結婚が決まった人もいるが。親はどう思っているのか。しかも、結婚となると、相手方の両親にも関わる影響が大きい。結婚後、再犯したらどうしょうと常に加害者家族の悩みは尽きない。その意味では、加害者の親としては、本音としては結婚する前に破綻しほしいと思っている場合もある。
平山:刑法改正議論で足りていない点がある。性犯罪者の加害者の家族サポートがない点だ。諸外国でも実は非常に少ない。性犯罪というとやはり特別な反応をされる。性犯罪を犯した人の、周囲を取り巻く家族のサポートをどうするかを考えるべき。
斉藤:親の立場では、自分の育て方が悪かったのではないかとまずは考える。特に母親はそう。そのため、「子育て自己責任論」からの解放が加害者家族の中では大きなテーマ。他の親の話を聞いて、親としても自分なりに精一杯、子育てをやってきたとい気づく。最終的には、息子個人の問題なんだ、と腹をくくる家族が多い。
しかし、妻のほうはもっと事情が深刻だ。血が繋がっていないから離婚できる。離婚せずに、「妻の会」にやってくる人の中には、夫が同世代の女性を傷つけたと思うと複雑だ。あるいは、妻としてのケアが行き届かなかったから夫が性犯罪に走ったのではないか?と周囲から暗に責められることがある。 夫の母親に相談すると、「辛かったね」ではなく、「離婚しちゃいなさい」と言われることがある。被害者の女性への思い。親類からの視線、妻はその狭間で悩んでいる。そして、子どもにとっても「いい父親」の場合がある。(離婚などで)子どもから父親を奪ってしまっていいのかを悩む。
刑務所内と社会をつなぐコーディネーターが必要
平山:刑法改正案では厳罰化になっている。それは(性犯罪は重い罪という)メッセージとしては評価される。一方で、社会に出てくるのは遅くなる。社会でうまく生活ができるのか。矯正施設内処遇と社会内処遇を結びつける橋渡しが必要になる。
斉藤:(孤立する加害者の中には)再犯すれば、刑務所に行けると思っている加害者も少なからず存在する。矯正施設内処遇と社会内処遇をつなぐコーディネーターが必要だ。そして、我々がなんとかつなぐ役割ができればいい。根気よく、地道な活動をしていかないと。
卜部:険しい道のりだ。忍耐が必要。受け皿が不足している。受け皿がないのに厳罰化というのはどうなのか。人は一人では生きていけない。誰かしら関わることが必要だ。