都電荒川線の愛称を決めるよりも、先にすべきこと - 赤木智弘
※この記事は2017年05月14日にBLOGOSで公開されたものです
荒川区の三ノ輪橋から、新宿区の早稲田までの12.2キロメートルの区間を結ぶ地元密着型の都電荒川線。
東京オリンピック開催に向けて、新愛称の公募、そして意見の募集が行われていたが、最終的に「東京さくらトラム」に決定したという。(*1)(*2)
個人的にはとても残念な決定である。
僕は住んでいる場所が、都電荒川線の路線に比較的近いので、年に数回利用している。その立場でいうと、「さくらトラム」よりは別の候補であった「ローズトラム」の方がしっくり来る。
荒川区ではボランティアとともに都電荒川線沿線にバラを植える事業を長く続けており、春と秋には140種13,000株ものバラが路線を美しく飾っている。(*3)
さくらということでは、飛鳥山公園などの名所も沿線にはあるが、飛鳥山の近くには旧古河庭園もあり、バラの咲き誇る西洋庭園は非常に有名である。
そうした地域に密着している都電荒川線ならではの本来の特色が、いかにも日本らしさを感じるが、同時に名称としては凡庸な感がある「さくら」という花と、オリンピックという強大な権威によってオミットされてしまったようで、僕には非常に残念に感じられるのである。
とは言え、決まったものは仕方ないので、広くアピールしてほしいのではあるが、この名称決定の会見で、小池都知事が「愛称を積極的に活用し、都電の魅力を国内外に広くアピールしたい」と言っていたのが気になった。
まぁ当たり前のアピール文章ではあるが、小池都知事がこれを言うと、ちょっと話が違ってくる。小池都知事は都知事選の公約として「満員電車ゼロ」を挙げていたはずである。(*4)
都電荒川線は一両編成でゆっくりとした速度であり、非常にのどかな印象が強い。しかし、土日の昼間になると、とてものどかとは言えないくらいに、非常に混み合う路線でもある。
原因としては、東京都が発行する「東京都シルバーパス」の有効路線であり、また庚申塚など、巣鴨近辺を通るためにお年寄りが多いこと。また入口と出口がワンドアずつなので、混雑すると乗り降りにとても時間がかかることが挙げられる。乗り慣れた人が乗車した後に混雑をスルスルッとくぐり抜けて出口付近に着く様子を見ると、その見事な体捌きに感動すら覚える。
正直言って、いま都電荒川線を内外にアピールされても、利用者からすれば「まずは混雑を緩和してから言ってほしい」というのが本音ではないだろうか。
小池都知事は、鉄道に対して2階建て化するなどをして、混雑緩和をすると主張していたはずだ。まずはそうした対策を都電荒川線に対して行うべきではないだろうか。
ただ、お年寄りが多い路線なので、2階建てにするだけでは、乗り降りの負担が大きく、混雑を助長するかもしれない。運転間隔を詰めてもいいが、やはり乗り降りの問題は残る。
すべての駅を改札式にして、ドアを増やす方法もあるだろうが、都電荒川線には乗り降りだけを前提とした狭いプラットホームだけの駅も多く、しっかり運用ができるかどうかという問題がある。
このような問題もあるが、少なくとも鉄道各社に思いつきのようなアイデアだけを示して混雑緩和を一方的に要請するよりは、都が管理する都電荒川線の混雑を実際に改善してみせるほうが、都知事の実行力を明確に示すことができるのではないか。
豊洲問題ではダブスタ発言を連発し、ボロが出続けている小池都知事であるが、都電荒川線の混雑を緩和することができれば、僕としては少しは認めてもいいと思っている。
あの石原慎太郎元都知事だって、ディーゼル規制という正しい政策を1つくらいは行ったのである。小池都知事もせめて1つくらい、なにか実績を残してほしいと思う。
*1:都電荒川線→「東京さくらトラム」 小池知事がPR(テレビ朝日)http://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000099643.html
*2:都電荒川線の愛称を決定(東京都)http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/04/28/02.html
*3:都電荒川線と沿線のバラ(荒川区)https://www.city.arakawa.tokyo.jp/kanko/kankojoho/miryoku/arakawasenbara.html
*4:小池都知事「満員電車ゼロ」戦略に足りない点(東洋経済オンライン)http://toyokeizai.net/articles/-/170163