※この記事は2016年09月20日にBLOGOSで公開されたものです

民進党の代表選が9月15日に行われ、蓮舫参議院議員が代表に選ばれた。旧民主党時代を含め、初の女性党首として、党勢を回復することはできるのだろうか。物議を醸した「二重国籍」問題はアキレス腱とならないか。民進党の今後について、田原総一朗さんに聞いた。

■「二重国籍」問題は収束したと言える

蓮舫さんについては、二重国籍問題が新聞やテレビで大きな波紋を呼んだ。彼女は、台湾国籍の父親と日本国籍の母親の間に生まれたが、出生時の法律では「父親の国籍になる」とされていたので、もともとは台湾国籍だった。

ところが、1985年に国籍法が改正され、父親だけでなく母親の国籍を選べるようになった。そこで、当時17歳だった彼女は父親と一緒に台湾の事務所に行き、手続をした。彼女は日本生まれの日本育ちで、台湾語が話せない。父親が係官と台湾語で話していたため、会話の中身はまったく理解できなかったという。

彼女は「そのとき台湾国籍を放棄したのだと思っていた」と説明している。しかし実は思い違いで、日本の国籍を取得したが、台湾国籍は放棄していなかった。以来、二重国籍のまま来てしまったということが、いまになって問題とされた。

だが、蓮舫さんの説明によれば、「台湾国籍を放棄したと思い込んでいた」ということなのであって、別に手続を怠ったわけではない。ごまかしたわけでもない。また、これまで不都合なことが起きたわけではない。二重国籍のまま国会議員や閣僚を務めていたことが問題だと指摘する声もあるが、チェックしていなかった国の側にも不備があったといえる。

この二重国籍問題について、民進党の中でも一部で批判が起きたが、大きな動きにはならなかった。代表選で対決した前原さんや玉木さんも、このことで強い批判はしなかった。その結果、蓮舫さんが代表に選ばれた。そういう意味で、この問題は収束したと言ってよいだろう。

むしろ注目すべきは、これから彼女が民進党の代表として、いかに戦うかということだ。

■自民党との差別化に苦労する民進党

僕はこの前、ニコニコ動画の番組で、民進党代表選の候補者討論会の司会を務めたが、民進党の今後の戦い方について難しい点があると感じた。

一つは、党のカラーを明確に打ち出しにくいということだ。欧米では保守とリベラルの二大政党が競っているところが多い。アメリカでは共和党が保守で、民主党がリベラル。イギリスでは保守党が保守で、労働党がリベラルというように。でも、日本はそうなっていない。

本来、保守政党は自由競争を重んじて、小さな政府を志向する。市場や社会にあまり深く介入しない立場だ。しかし自由主義的な政策が強くなりすぎると、貧富の格差が拡大してしまう。そこで、今度はリベラル政党が選挙で選ばれるようになる。

リベラル政党は格差をなくすために、社会保障や福祉に力を入れる。つまり、大きな政府になっていく。その結果、財政が悪化することになるので、次の選挙では保守政党が勝つ。このように、振り子のごとく、保守とリベラルの政権が交互に出現するわけだ。

それに対して、日本は、自民党中心の政権が一時期を除いて続いてきた。自民党は本来、保守政党だが、経済の面ではリベラルな政策も取っている。公共事業や社会保障に税金をつぎ込んで、1000兆円もの借金を作った。本来の保守ならば、こんな借金はできない。自民党が保守とリベラルの両方をやっている政党なのだ。

そうなると、民進党は戦いにくい。リベラルだが、似たような政策を自民党がやってしまうから、対立軸を作りにくい。民進党の代表選候補者の討論会でも、前原さんや玉木さんは、財政をもっと緊縮すべきだと述べていて、自民党より保守寄りともいえる意見を出していた。

■自民党に「憲法改正」を打ち出してもらいたい?

もう一つ、安全保障の問題について言うと、安倍政権は保守右派の政策を取っている。去年は安保関連法案を成立させたが、その中心テーマは集団的自衛権の行使を認めることだった。事実上の解釈改憲をすることによって、これまで「戦えない自衛隊」だったのを、「戦える自衛隊」にしようというものだ。

先日、僕が安倍首相と会ったとき、彼は「集団的自衛権の行使を認めるようになって、アメリカは一切文句を言わなくなった」と話していた。

一方、民進党はそのような自民党の姿勢を批判している。安全保障の面では、共産党と協力体制も取った。だが、その結果、共産党との違いが分からないという問題が起きている。

本来ならば、民進党は自民党と異なる代替案を示すべきだが、それができていない。たとえば、小渕政権時代にできた周辺事態法の枠組みを守り、自衛隊を地球の裏側までは派遣しないというようなことを言っているが、いまひとつ自民党との違いがよく分からない。

それが、民進党の一番の問題だ。

むしろ、自民党が「憲法改正をしよう」と打ち出してくれたほうが、民進党は助かるだろう。ところが、安倍首相は先日、僕と会ったとき「憲法改正をする気はあまりない」と言っていた。

ただ、彼は、朝日新聞の調査で憲法学者の7割弱が「自衛隊は憲法違反」と答えたことを気にしていて、「改正するならば、憲法9条に第3項を加えて、自衛隊の存在を明文で認めればいい」という考えを口にしていた。

民進党としては、自民党がもっとはっきり「憲法改正をするぞ!」と言ってくれたほうがありがたい。でも、実際にはそうではなくて、むしろ自民党は「働き方改革」なんてことに力を入れようとしている。その中身はほとんどリベラルと言っていい内容だ。

これでは、民進党も戦い方が難しい。