※この記事は2016年09月17日にBLOGOSで公開されたものです

 核戦争が起きた後の世界を舞台にした、オープンワールドRPG「Fallout4」を発売しているベセスダ・ソフトワークスは、対応を予定していたPS4版のMOD対応を無限に延期することを発表した。
 ベセスダはソニー側と議論したものの結果として合意に至らなかったとしている。(*1)

 まず、多くのゲーマーではない人のために「MODとは何か」という説明が必要だろう。
 MODとはごく簡単に言うと「ユーザーが作る改造データ」である。単語の由来は「Modification=変形」から来ている。
 改造データというとチートツール、すなわちキャラクターを強くしたり、お金を満タンにしたり、無敵にしたりして「俺つえー」状態で、ゲームをめちゃくちゃにしてしまうようなイメージが強い。
 しかし、MODの多くはプレイヤー自信がそのゲームをより楽しむために、プレイヤー自身が開発したデータである。

 どういう種類のMODがあるのだろうか。
 プレイヤーやゲーム内キャラクターの見た目をかっこよくしたり、かわいくしたり、セクシーにしたり、面白くしたりするモノ。
 銃やアーマーという武器や防具の見た目を変えたり、新しい機能を付与するモノ。
 敵の数を増やしたり、減らしたり、強化したり、弱体したりするモノ。
 元のままでは少し使いにくいゲームシステムを使いやすくするモノ。
 周囲の木や石や水や空といった風景を書き換えてより綺麗にするモノ。
 キャラクターを脱がせたりセックスさせたりするモノ。

 など、誰かが少しでも「こういう機能があればいいな」と思うような変更を気軽にできるのがMODなのである。ちなみに最後にあえてセックスMODの説明も入れておいたが、これを使っているのはごく一部のプレイヤーであり、多くのプレイヤーの支持が高いのはそうしたエッチなMODよりも、ゲームシステムや難易度を変更して、自分好みに調整できるようなMODである。
 どうしても「チート」の印象が強い改造プログラムではあるが、プレイヤーの大半は「ゲームでインチキをするために」ではなく「そのゲームを、自分のPC環境に合わせてより楽しむために」MODを導入しているのである。

 もちろん、ゲームを改造するのだから、MODの流通にいい顔をしないゲームメーカーも多い。しかし、Fallout4を発売しているベセスダ・ソフトワークスは、MODに対し極めて開放的なメーカーとして知られており、Fallout4でも公式にMODをサポートしている。

 だが、こうしたゲームの改造というのは、これまではPCゲーム界での話でしかなかった。
 なぜならPCはその仕組み的にインストールされたゲームを改造しやすいということもある。
 またPCは、それこそネットの動画をそれなりに見られる程度のPCから、ゲームが綺麗にきびきび動くようにお金をかけてチューンナップされたPCまで、個々で性能が全く違うので、同じゲームでも各自が求めるクオリティが違ってくる。

 公式ではなるべく広い性能差のPCに対応するために妥協しなければならないことがたくさんある。そことプレイヤー自身が求めるゲームクオリティの差を埋めるのがMODなのである。

 故に、MODの適用は自己責任だ。性能の低いPCにあれやこれやとMODを導入すれば、ゲームが動かなくなることもある。また、セーブデータに異常が発生したり、ゲームを進めるのに必要なフラグが立たなくなったりすることすらある。
 そうした不利益があっても、MODは多くのPCゲームプレイヤーに受け入れられ、ゲーム文化に影響を与え続けている。

 PCユーザーの多くが、MODでカスタマイズされたゲームを楽しんでいる一方で、家庭用ゲーム機ではMODに対応したゲームはほとんどなかった。
 しかし、PCと家庭用ゲーム機の性能が徐々に近づき、最近ではPCとPS4とXbox oneのクロスプラットフォームで発売されるゲームが多くなった中で、家庭用ゲーム機でもMODの実装がプレイヤーにも期待されるのは必然といえた。

 そうした期待の中、ベセスダ・ソフトワークスはFallout4のPS4版とXbox one版もMOD対応させると発表していた。そして実際にXbox one版は現在すでにMODに対応している。
 Xbox one版が対応したことで、PS4版もソニー側の了承が期待されていたが、残念ながらかなわなかったという話である。

 さて、このニュースは、もしかしたら家庭用ゲーム機において、極めて重要な分水嶺になるかもしれない。
 今のところ、日本では圧倒的にPS4が支持されている。家電量販店のゲーム売り場を見ても、PS4の売り場は広く、Xbox oneの売り場は狭い。出てるゲームも大半がクロスプラットフォームで「PS4でもXbox oneでも同じゲームができるなら、シェアの高いPS4がいいや」と思われてしまう。  しかしPCよりも自由度が低い家庭用ゲームでもMODを楽しみたいというユーザーがXbox oneに注目してもおかしくはない。そもそもPCゲームの大半はWindowsで動くので、Microsoft社が発売するXbox oneがPC文化と近しいのは当然でもある。PC文化を入れ込むような柔軟な対応が続けば、PS4との違いが際立ち、牙城を崩すきっかけにもなるかもしれない。

 一方で「やはり、家庭用ゲーム機には自由度を期待できない」として、これまでさほどPCゲームをプレイしてこなかった人たちが、PCゲームに移行する可能性もある。最先端のゲームがしっかりと動き、さらにはMODなどをたくさん入れられるPCは決して安い物ではないが(とはいえ10万から30万である。20年前なら入門用PCの価格帯だ)、家庭用ゲーム機では得られないゲーム体験が得られる。

 しかしそれでも、いまのところ大半の家庭では「ゲームといえばゲーム機」が当たり前である。PCでゲームを楽しむのは一握りのゲーマーだけだ。だが、PCの性能があがり、もっと安いPCやノートパソコンでも、3Dのゲームが楽しめるようになると、その状況も変わるかもしれない。

 かつては誰の家にもあったCDラジカセやコンポが、パソコンや携帯やアプリに取って代わられて、部屋から消えていったように、ゲームもそのメインストリームがPCに移り変わっていく可能性は決して低くはない。今普及しているからといって、その現状にあぐらをかいてはならないのだ。

 少なくとも僕は、このニュースを見て、家庭用ゲーム機の性能がいくら上がっても、日本の家庭用ゲーム機という文化自体には天井があり、その天井がいつか家庭用ゲーム業界を押しつぶしてしまうのではないか、そんな気がしているのである。

*1:PS4版『Fallout 4』のMod対応が無期限延期―ソニーの承認得られず(Game*Spark)http://www.gamespark.jp/article/2016/09/10/68557.html