18歳世代の投票率51.17%は低くない?~原田謙介氏が振り返る「18歳選挙権」~ - BLOGOS編集部
※この記事は2016年08月02日にBLOGOSで公開されたものです
総務省の発表によると、7月10日に実施された参議院選挙の投票率は、54.70%だった。なかでも、今回注目を集めた18、19歳については、18歳が51.17%、19歳が39.66%となっており、いずれも全年齢の平均を下回る結果となった。
公職選挙法の改正以来、18歳、19歳に対して政治への関心を高める啓発イベントが行われてきた。この1年間に中高あわせて、延べ約40校 6000人に対して、政治への関心を高める模擬授業を実施するなど、こうした活動に多く関わってきたNPO法人YouthCreateの原田謙介氏は、この結果をどのように受け止めているのだろうか。(取材・文:永田正行【BLOGOS編集部】)
18、19歳世代の投票率が「低かった」という報道に違和感
正直なところ、私自身も18歳世代を甘く見ていて、「投票率は40%ぐらいかな」と思っていました。「本当にすいません」という感じですし、選挙前に多くの高校生と交流をもって話をしていたのに、全然理解出来ていなかったんだと反省しています。
ただ、選挙結果が出た次の日の新聞各紙の見出しを見ると、「18歳投票率のびず」「全体に比べて低い」といったものが目立ちました。今回が、初めてなので、全体より低いのはむしろ当たり前です。そのため、「低かった」という報道の仕方には違和感を覚えました。
逆に全世代より18歳世代の投票率が高かったら、それはそれで他の世代に問題があるという話になるのではないでしょうか。世の中がどう感じているかはわからないですが、私あるいは私の周囲は、投票率については「よかった」「高かった」と評価しています。
今後、より詳細な分析が進んでいくと思いますが、投票率がそれなりに高かった要因の一つとして、この1年間、18歳選挙権にあわせてメディアや学校、行政、政治家のすべてが啓発、PR活動をやってきたことが挙げられると思います。「この歴史的タイミングならいくか」と考えた人も多かったのではないでしょうか。
そう考えると、次の選挙においては、この年代の投票率は多少下がる可能性があると思います。だからこそ、今回こういう数字が出た要因を、しっかりと分析して、効果の高いものを引き続きやっていく必要はあるでしょう。「18歳選挙権」という話題がもうない中で、どうやって興味関心をもってもらえるかというのは考えなければいけません。ユースクリエイトとしても、投票行った人に対して、「自分の投票した政治家をTwitterでフォローしましょう」といったように、その後も政治に対する関心を継続してもらえる流れを作りたいですよね。
ただ、今回「18歳選挙権」がフォーカスされることによって、学校の選挙に対する対応が変わったことは大きいと思います。学校側で啓発活動をする流れが大きく変化することはないと思うので、そういう意味では高校生にとって劇的に政治との接点や啓発が減ることはないと考えています。この1年間にも、様々な事例が出てきていますし、それを先生同士で共有する場も出来つつあります。
「共通投票所」「移動期日前投票所」などで投票の利便性向上を
18歳と19歳で投票率に大きな差が出たことについて、私は住民票と教育の差だと考えています。都市部で18歳、19歳の投票率が高いのは、おそらく大学生になっても親元はなれてない人たちが多く、住民票があり選挙権を行使できる場所に実際に住んでいるという事情が背景にあるのではないでしょうか。
また、教育については、19歳の中でも二年前に高校を卒業した人は、高校で何も新たな主権者教育を受けていない世代なのです。昨年度高校3年生だった人は、それなりに選挙や政治についての授業を受けているので、そうした差も出ていると思います。なので、この二つの要素を改善していけば、これほどまでに差が出ることはなくなるのではないでしょうか。
さらに、これは18歳、19歳世代に限りませんが、投票について全体的に利便性の改善を続けて行く必要はあるでしょう。今回は、それほど普及しませんでしたが、自分の住んでいる地域に関係なく投票できる共通投票所を準備できる自治体が増えれば、投票率の向上につながる部分もあると思います。
日々世の中が便利になっているのに、投票だけが利便性の改善されず、「投票所が少々遠くてもいくべき。それだけの熱意が必要」みたいな議論はナンセンスですよね。
例えば、島根県浜田市では、今回初めてワゴン車に投票箱を積んで市内各地区を巡回する「移動期日前投票所」が導入されました。こういう取り組みが広がれば、下校時間にあわせて高校の前に行くとか、スポーツイベントにあわせて、投票所の方から有権者のいる場所に行くといったこともできます。これは今の公選法でもできるということなので、こうした取り組みが広がると面白いと思います。
高校生は大人が思ってるほど暇じゃない
ただ、高校生は大人が思っている程、「時間に融通がきかない」ということは考えてあげたほうがいいと思います。少なくとも朝から学校にいるわけですし、会社員なら10~15分くらいなら自由に動ける場合も少なくないでしょうが、高校生はそれほど気軽に校外に出られません。その上、部活があって、塾があって…という生活の繰り返しだとすると、それほど自由な時間はないんですよね。
今回、実際私のところにも、関西の新聞から、「投票日が文化祭の学校が10校あるんだけど、どう指導すればいいのか」といった取材がありました。それは「出来るかぎり、期日前投票に行こう」という話ですよね。実際、ある学校は文化祭の最中に抜けて投票にいく場合、「公欠扱い」にするということにしたようです。「文化祭を抜けてでもいけ」とは強制できないですが、行きたい人の意志を尊重できる仕組みにしてあげてほしいと思います。
海外にはそもそも投票日が日曜日ではない国もありますし、「日曜はみんな暇だから行くだろう」という発想が通用しなくなってきているのかもしれません。
「若者が選挙に行けば世の中が変わる」という幻想
今回、「18歳選挙権」にあわせて、「若者が選挙に行けば世の中が変わる」といった過度に若者に期待する言説も見かけましたが、世の中の多くの人が、様々な不平不満を持っている中で、その解決策を若者に丸投げするような態度は、無責任だと思います。
もちろん若者自身も様々な問題に興味をもって変化していかなければならない部分もあるでしょう。しかし、結局世の中を作っているのは大人です。「大人が変わらないから若者が変わるべきだし、若者が変わったら世の中が変わる」というのは、あまりにも若者を利用しすぎだと思います。
例えば、選挙期間中に「20代は自民党支持が多い」という事実に対して、非自民支持者が驚くといったことがありましたが、「若者は憲法改正が嫌だから自民党に投票しないはずだ」というような話は、憲法を改正してほしくない人の希望を若者に仮託しているにすぎません。
当然ですが、一口に「若者」といっても、それぞれいろんな考え方がある。「若者」全員がひとつの考え方にまとまることもありえませんし、「若者が動いたら世の中が変わる」みたいな都合のよい話はないということです。「若者は○○に反対するはずだ」と信じ込んだ人もいるでしょうが、そういう人たちは、もう少しよく若者を見て欲しいと思います。
より若者の声を吸い上げる仕組みが必要
手前味噌になってしまうかもしれませんが、この1年間の活動を通して、学校現場もはじめ、10代と政治の関係は大きく変わったと思います。「選挙を知ろう」ではなくて「政治と関わることを知ろう」というコンセプトで様々な活動ができたことは非常によかったと考えています。
ただ、どうしても「著名な10代の方と一緒に考える」といった形の企画が多く、「普通の18歳、19歳」にクローズアップするといった企画は少なかったという反省があるので、そこは今後の課題でしょう。
統計で見れば、当該世代の中でも「18歳選挙権に賛成」という声が多いということになっています。しかし、私が実際に会った中には、公選法改正決まった瞬間には「『やった!投票に行こう』と思ったけど、『選挙大事だとか政治の授業を受ければ受けるほど、自分の一票に自信がもてなくて、行くのをためらっている』」という方もいました。こうした当事者世代のここ1年の心境の変化は、もう少し細かく観測しておけばよかったと思います。
もうひとつ今後は、若者の声を吸い上げる必要があるでしょう。私たちが総務省と一緒にやってきた企画も、各政党が行った企画も、その多くが基本的に「若者に伝える」で終わってしまいました。意見を集めたとしても、1回のイベントの数時間で若者と話して、「そうだね」で終わってしまうので、今後はより時間をかけて若者の声をすくいあげていくことが課題になると思います。
最後に、これはあくまで私が観測した範囲の話なので、気のせいかもしれませんが、今回は、「子どもと投票に行きました」「親と投票にいきました」といった書き込みがSNS上で目立ったように感じました。なので、18歳選挙権には、40~50代の親世代の投票率にも影響を及ぼす可能性があるのではないでしょうか。