※この記事は2016年07月19日にBLOGOSで公開されたものです

インターンシップ検討会が３省主導で開催

日本型の新卒採用慣行は確かに万全の代物ではなく、問題を抱えてはいる。そこで、さまざまな識者が公的会議の場や団体声明などを通して、改革案を謳う。

昨今、その中でも流れが強くなってきたのが、「インターンシップ（学生の就業体験）を通して採用を行うことで新卒採用慣行を是正しよう」というものだ。経済同友会や産業競争力会議でも、インターンシップの発展についての提言や意見が上がっている。

こうした流れを受けて、インターンシップのあり方についての検討会が文部科学省、経済産業省、厚生労働省の3省合同で設けられ、2016年7月12日に初会合を開くことになった。以下、7月13日付の日経新聞から拾っておこう。

「人材不足に悩む中小企業は解禁日前のインターン採用を求めている」
「日商の担当者は日本でインターンが広がらない理由に『採用に直結しない』ことを指摘。海外のインターン事情に詳しい委員の一人も『一番大きいのはインターンが採用に組み込まれているのかどうかだ』と指摘した」。

さてさて、こうした話は本当に的を射ているのか。それとも素人狸の皮算用なのか。過去の経緯と、欧米のインターンの実態などをつまびらかにしながら4回にわたって説明していく。

採用目的にすれば普及？中小の人材難も解決？

7月12日のインターンシップ検討会で協議された最大のポイントは、採用目的でインターンシップを行うことを許可するか、否かだ。

現在は、インターンシップはあくまでも、学業の一貫として位置づけられており、そこで企業が採用を行うことをよしとしていない。ただ、欧米ではインターンシップで普通に採用もされる。採用されるとなれば、参加する学生も増え熱意も高まる。同様に企業も本腰を入れる。だから、採用目的を許すべきではないか。だから初会合では、まずは、インターンシップに参加した学生の態度・個性・能力評価などの個人情報を、採用にも使えるようにしてはどうか、という話が先行議題となった。
インターンの情報を基にした採用は、

「実際に働き職場や仕事をよく理解してから入社できる」
「企業も面接ではわからない学生の能力・個性が理解できる」 などという点は確かによいだろう。

ただし、その結果、インターンシップ時点で選考までが済んでしまう形で、採用が「早期化」「通年化」していくとどうなるか。

「みなが一斉にヨーイドンする現行よりいい」「時期がまちまちだからチャンスが何度もある」などという話が聞かれがちだ。 がしかい、こちらの方は・・・なのだ。

過去の経緯を見る限り、逆に「早期一斉インターン開催」となり「面接や説明会よりインターン期間は拘束が長いためチャンスは少なく」となるとまずは結論をざっと述べておく。

15年前の完全自由化時代、大手の2割強がインターンを実施

実は日本でインターンシップは過去何度も流行したことがあった。しかも、過去においては、インターンシップで「採用をしてはいけない」的な協定も何も存在していなかった時期がある。その当時がどうだったかをまずは調べれば、自由化後に何が起こるかよくわかるのだ。

その自由化時代とはいつか？1997年までは就職協定があり、早期採用は不可だった。2002年卒以降は経団連就職倫理憲章ができ、それが2004年に賛同企業の社名発表方式に変わるため、それ以降は「早期採用」がやはり事実上できなくなる。とすると、1998年～2003年卒は実質的なルール空白時期であり、ここで異常な盛り上がりを見せるのだ。

その状況をレポートしたリクルート社発行の雑誌「Works」54号（2002年12月）から主要なデータ（図表①）を見てみよう。



東証一部上場のうち、2002年度インターンシップを行う予定の企業は23.1％と4社に1社強となっている（ただし、このデータは母数に「無回答企業」を含まないために正確性に欠けるきらいはある）。現状と比べるとかなりの浸透度となっていることがわかるだろう。しかも、当時はまだ1dayインターンシップなどというものがなかった（このお手軽インターンは常見陽平氏が2005年前後に当時人事担当をしていた玩具メーカーにて発案されたという）。かなりな日数を費やす本格派インターンシップが、当時は普及していたといえるだろう。そのころ、企業がインターンシップを行う理由は何だったのか。CSRなどがまだ声高らかに叫ばれなかった時代でもあり採用協定もなかったから企業は正直に答える。その状況を示したのが、図表②だ。



なんと、45％が「採用目的」であり、続いて大学とのパイプ作り17％、企業PR15％と企業側の即物的要望が並びここまでで8割に迫る。その他にも社内活性化10％、労働力5％と企業目的が先行し、社会貢献はたったの8％にとどまる。

と、ここまで見れば、「カッコつけずに、採用目的にすれば、企業側はインターンシップに本腰を入れる」という話は正しい。 ただし、それがどんな結果を生むか、なのだ。

大学2年末から就活に明け暮れたあのころ

こうした盛り上がりが最高潮に達した2002年は大変なことになった。 自由化も5年を過ぎており、人気企業が大手を振って正面から「インターンシップで早期・通年採用」を打ち上げたからだ。その先陣を切るのが松下電器産業（現パナソニック、文中「松下」）だ。

なんと、前年の2001年3月に「新3年生」「新大学院1年生」をターゲットになんと春休みに、「採用目的でインターンシップを行う」とぶち上げた。それも、実施期間は2週間。ただ内容自体は非の打ち所のないすばらしいものだった。プログラム数も140を超え、外国人留学生向けの専門プログラムまで作っている、完璧な「実務体験型インターンシップ」だ。

そもそも関西地区では有名大手外資系企業が古くからインターンシップ採用を実施していたことで、学生たちのインターンシップへの関心が高かった。そこで、松下も1980年代から本格型インターシップを連綿と実施してきた。その意地もかけて、自由化の中で集大成のプログラム、そして早期・通年化に踏み出したわけだ。

関西地区ライバルのサンヨー・シャープなどもすぐにあとを追い、さらに同業内では富士通など東京企業にも伝播して、早期×本格的プログラムが実施されていく。

そのさまを、当時の新聞報道から採用直結型インターンを行った大手企業の記事を抜き出してみる。

　■2002年8月26日　日経新聞12ページ
　　神戸製鋼、三洋電機、シャープ、三菱レイヨン、花王について言及
　■2001年8月19日　に御経済新聞1ページ
　　ＪＣＢについて言及
　■2001年4月11日　日経新聞11ページ
　　富士通について言及
　■2001年10月10日　日本興業新聞１ページ
　　三菱電機について言及

ざっと日経テレコンで日経新聞関連を調べただけでこの状況なのだ。

こうして2002年には関西系大手に関してはなべて大学3年夏休みには採用を行う。東京系もメーカーを中心に3年夏インターンは盛り上がりを見せた。

外資やベンチャーは国内大手の攻勢に耐えきれず、さらにインターン採用を前倒しし、2年後期試験終了で春休みなったとたんに実施と、まさに、「超早期×通年」が繰り広げられたのだ。

結果が、データ1に出る通り、一部上場企業の23.1％もがインターンシップを行う状況となる。ちなみに、当時はITバブル崩壊後で景気はまだまだ低空飛行であり、一部上場で新卒採用を行っていたのは全体の7割程度だった時代だ。それでいて、このインターンシップ実施率だ。

しかも、文系学生の一番の採用受け皿でもある金融業界が、不良債権の最終処理で竹中スキームの詰めが行われていた時期でもあり、都銀・メガ証券・生保・損保などはこの波に乗り遅れ気味でもあった。今なら、こうした企業も必ず、早期×本格×通年型インターンシップ採用に打って出ていただろう。

整理すれば、2002年は不況期でもあり、インターンシップ流行の震源地が関西かつメーカーという地味な状況でもこれほどの騒ぎになったのだ。現在なら広がりははるかに大きくなり、みなが「一括×早期×通年」インターンに奔るだろう。

1社インターンじゃ決められない 内定後、続々他社に流出

さて、2002年の結果はどうだったか。

それが、惨憺たるものだったのだ。前出のワークス54号から抜粋しておこう。
さすがに、２年終了時点でインタンシップというのは、極端な例ではあるが、3年夏休みに採用直結型インタンシップを行うのはかなり普通になっているし。かしこの時期では、志望・能力とも未成熟の応募者が多く、本当に適性があるのかどうか判断しきれないことが多い。また、早熟人材を仮に発掘できたとしても、就職までの2年近くをどうやってリテンションするか、という問題に行き着く。過度の早期化には警鐘を鳴らす声が多々聞かれる。

「3年夏からの内定・拘束は難しいでしょう。私たちがコンサルティングを行ううえで、夏冬（春）2回インタンシップを行う企業に対して、夏は波及効果と位置付けては、とお話ししております。学生に無料奉仕。ここまで熱心、というイメジ。そこである程度めぼしをつけて、冬のインタンシップや、春からの選考に声をかける。こうした形でないと難しいでしょう」（前出シンカ／佐藤氏）「採用目的では3年冬～春に、と理解した企業が増えていますね。そのため、大手通信メカのように夏のインタンを廃止した企業、もしくは、夏・冬の抜本的なプログラム改編を行うため今年は開催を見送った某大手ITソフトメカや独立金融系企業など、インタンシップの先端企業が、自社の目的、メリットを再確認し、変更を行いつつあります」（メディアネット／渋谷氏）
結局、超早期採用しても、学生たちを入社までうまく導くことはできず、あとから通常採用をし始めた企業に多々、抜き返されてしまうことになるわけだ。だからインターンシップで早く内定を出したとしても、その後、リクルーターの接触や勉強会などをかませながら、長く付き合って、他社に寄り道させず、そうして通常採用時期にもう一度、応募してもらう。こんな何度手間にもなることを企業は知った。こんな苦労にへとへととなった大手企業は、２００４年度の就職倫理協定本格化を渡りに船と歓迎し、早期採用と決別した。

企業にとって相当なコスト増　だから倫理協定につながった

ここまででいったん整理しておこう。

日本の横並び意識が強い大手企業群では、誰かが抜け駆けした場合、皆がそれに追随する。だからとんでもない早期化の横並びが起こる。 ただし、日本の学生の就業感はそんな超早期に醸成されてなどいない。そんな中で、たまたま１社受けて内定が出ても、他を見たくなる。普通の選考なら１日でカタがつくが、２週間もかかるインターンシップだと、その間まったく他社を見ることができない。とすると、インターン終了後に、他社の説明会や、インターン募集に顔を出す。

こんな感じで、インターンシップで内定が出ても、その後に人気企業がインターンや通常採用していれば、すぐそっちに応募してしまうのだ。結果、企業は内定から入社の歩留まりが下がり、学生は就活の超長期化に悩む。それが2002年前後の教訓だったのだ。

こんな苦労をして、採用できた彼らなのだが、その定着率はかつてよりよくはなっていない。各社の入社3年離職率がこの時期下がったなどという話は全く聞かなかった。インターンシップを通して社内を知っているので入社ショックが小さく辞めない、というのはあてが外れたようだ。それよりも、インターンで体験した職場と入社後に配属された仕事が異なるという不満、世話をしてくれた社員とはあまりにもタイプが異なる人が上司になったといった失望、インターンからの拘束で他社を見ていない分、隣の芝は青く見る型の退職もあったと聞く。

これほどまでに実りの少ない早期化・通年化なのだが、それでも取り組み続ける企業はある。ユニクロ（ファーストリテイリング）やワークスアプリケーションなどがそうだろう。彼らとて、内定学生の流出には頭を悩ませている。それでも内定者を拘束したりせず、他社に行きたい奴は行け、くらいの強い意思を持って続けている。

最近、ユニクロ社で、早期・通年採用の状況を聞いたが、同社のインターンを経て能力アップした学生が、他社で内定をもらうという話も確かにあるそうだ。ただ、彼らがより高く翔いてくれるなら、それでもいい。社会貢献と採用の両方を兼ねてこの事業を行っている、という。果たして、ユニクロのような潔さと覚悟がある企業はどれだけあるのか。

就職氷河期の２００２年でさえこうだったのだ。あれからスマホに代表されるネット環境は相当進歩している。かつてよりも、流行の伝播は早いだろう。めぼしい大企業が動くとなれば、学生たちはいやがうえにも動かざるをえない。こうした状況下では、あっという間に大企業の横並びの超早期化が進むだろう。これでは、一括採用が一括インターンシップになっただけの茶番ではないか。

もはや学業阻害ではなく学業破壊、という状況だった

さて、２００２年のこんな状況が果たして学生たちには良かったのか。その点を振り返って、今回を終えることにしたい。

実は、先ほどから引用してきたワークス54号は、私が編集長をしていた当時のものであり、この特集は私自身が担当した。取材の最中、大学・学生に広く声を聞いた。

もちろん、松下はじめ、本格的なインターンシップに参加できた学生はその成果を体感していたとプラスの話も多々出てくる。がしかし、一方で大きかったのは、「学業阻害」という話だ。大学2年の終わりから4年までずっと就活が続く。しかも、従来の「説明会2時間＋面接1時間」というライトなものではなく、2週間も長々と続く。

就業体験としてはうれしい長さだが、就活と考えると苦しい。口々から出たのは、

「早く結果が知りたい」「これじゃたくさん受けられない」「拘束時間が長すぎる」という話。そして、こういう就活（インターンシップ）大好き学生がいるために、その他大勢の普通の学生が、お腹の痛い思いをしたという。

「だって、やつらはすでに有名大手で働いているから差を感じて」
「仕事の話とか、社会人との知り合いの話とかされると・・・」
こんな感じで、一人、インターン勝者がいると、周り中が切羽詰まる思いになったという。

学生には今以上にプレッシャーを与え、学業は阻害ではなくもはや破壊となるだろう。

インターンシップ自由化の前に考えるべき点、第一回は、大企業について書いてみた。

海老原嗣生
株式会社ニッチモ代表取締役。立命館大学経営学部客員教授、経済産業研究所雇用市場改革プロジェクト、リクルートキャリアフェロー、奈良県行革推進ワークマネジメント部会長。

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