「″普通の国″実現に着手した、たった一人の政治家が安倍晋三」~田久保忠衛・日本会議議長が会見 - BLOGOS編集部

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※この記事は2016年07月13日にBLOGOSで公開されたものです

13日、日本外国特派員協会で、「日本会議」議長で杏林大学名誉教授の田久保忠衛氏による会見が開かれた。

田久保氏は元時事通信ワシントン支局長・同論説委員などを歴任。昨年、三好達(元最高裁判所長官)に代わり、議長に就任した。

日本会議をめぐっては、同団体の議員懇談会に安倍内閣の閣僚が多数所属していることから、国内外のメディアで注目を集めている。 会場には海外メディアの記者だけでなく、話題を呼んでいる「日本会議の研究」 (扶桑社新書)の著者、菅野完氏らの姿も見られた。  

冒頭発言

私は(会場にいる)誰よりも古いここの会員です。今日は壇上でお話しさせていただけるのを大変光栄に思います。  

「日本がどっちの方に向いているのか。フェアな報道をしなければならないので、考えを聞かせろ」と言われ、やってまいりました。  

フランクに申しますと、外国人記者クラブからの世界への発信は、どこに視点を置くかによってガラッと違ってくるという風に思います。

「日本が危険な、極めて好戦的な状態にあって、そこでナショナリストである安倍さんが登場した」という報道がありますけれども、私はそうは思わない。現実に安倍さんがナショナリスト的な政策をやったとは聞いていません。

それよりも日本の立場を、今から20数年前にブレジンスキー教授が極めて正確に予測しました。彼は日本について「security protectorate of United States」と表現したのです。

仮に、国家が「政治」と「経済」と「軍事」の"三本足"で立っていると仮定致します。日本では、その一本の軍事は、全く普通の国のそれではないのです。これを間違えると、とんでもない記事になります。申し上げておきますが、日本の憲法には軍隊に関する規定がないんです。軍隊の規定を載せろという、一般の国々と同じようなことをやろうとすると、「軍国主義者だ」という非難を浴びる。ブレジンスキーが言うように、外交防衛問題では、日本はいちいちアメリカの言うことを聞かないと動けないんじゃないか、これは普通の国では無いんじゃないか、ということです。

ですから日本は、異常な左から真ん中に軌道修正しようとしている。これを一部の新聞は、真ん中から極右に移る、という報道をしております。極めて遺憾であります。

90年から91年の湾岸戦争をご存知でしょう。日本は130億ドル出しただけで、何も動かなかった。どこからも感謝されませんでした。

私は当時ワシントンにおりました。ワシントン・ポストの一面の広告を見ると、クウェートが国際社会の皆さんへ、と掲げた大きな感謝広告でした。非常に丁寧な言葉で、"以下の30か国に"とお礼が述べられていましたが、その30か国に日本の名前はなかった。

イギリスの「エコノミスト」は、最も私が愛読し、権威ある雑誌だと思っていました。当時この雑誌は、「日本は昼寝しているのか、国際情勢が全くわかっていない、日本は立ち上がれ」と言いました。素晴らしい論説だと思って、私は著書に引用しました。

ところが去年、日本会議に関するエコノミストの論調にびっくりしました。「日本は戦前の日本に復帰しようとしている」と、こんなことを書いている。弱い私が抵抗できるのはたったひとつ、この雑誌を読まないことです。

湾岸戦争が終わった数年後に、小沢一郎という政治家が、ある本を書きました。当時、彼は「日本は普通の国になれ」と言った。これは小沢が言う前から私どもが言っていたことでありますから、大賛成であります。

しかし、今は正反対のことを言っている。私は、この人を政治家として全く信用しない。

この、小沢の言った「普通の国」の実現に着手し、次々に手を打ってきたのが、たった一人、安倍晋三です。私はここで、安倍の"立脚点"を皆さんに理解していただきたいと思います。

安倍は、普通の国から右にシフトしたナショナリストではない。極左から真ん中に持ってこようと努力した政治家です。

今、自衛隊には、国のバックボーンがありますでしょうか。天皇陛下は警察と消防関係の大会にはご出席になるけれども、自衛隊関連のものにはお出にならない。軍をコントロールする統帥権が、戦前と戦後ではまるっきり変わっている。

こういう事実をわきまえないと、日本という強い国がさらに強い国になろうとしている、という誤解が生まれます。

もう一つ付け加えたいと思います。 私は国際情勢をずっと分析してきた人間でありますが、皆さんも報道を見ていてお気付きの通り、誰か政治家で、(先の参院選で)国際情勢を論じていた人が一人でもいますか?

  昨日、ハーグの仲裁裁判所が判決を出しました。日米の立場を、まさにハーグの判事は述べたのです。このことが一切選挙の争点にならなかったのは異様なことだとすら私の目には見えました。

中国の膨張主義が、とくに南シナ海で目立ってきたのは13年以降であります。ハーグの判決でお分かりのように、明らかな膨張主義ではないか。

これに対抗するためにも、日本は先程申し上げたように、防衛で欠陥があり、ぐらついているから立てない。この1本を補うために、日米同盟を強化しなければならない。

中国の膨張主義に対して、最も信頼すべきはアメリカでありますけれども、ここにも目立たないながらも大きな変化が起こりつつある。 アメリカ大統領候補であるクリントンさん、トランプさん。お二人がおっしゃているのは、アメリカは対外コミットメントは制限する、ということです。

オバマ大統領はウエストポイントの演説で、アフガニスタンに増派ははするけれども、私はアメリカ・ファーストだと言った。

一つ、中国の膨張主義。二つ、アメリカの内向き傾向。その間に立って、日本はどうしなければいけないか。

戦前の軍隊を再現するなどという、おどろおどろしいことを言わないで欲しい。戦前の軍隊と今の自衛隊のシステムは全く違うんです。

その自衛隊のシステムを普通の国のような軍隊にして、これを憲法に盛り込む。したがって私は改憲に賛成であります。

  これで最後にしますけれども、護憲派の言い分は中国の言っていることに極めて似ている、と申し上げて、私のプレゼンテーションを終わります。

質疑応答


―参院選の結果を受けての改憲への期待や今後の方向性について。

3つあると思います。

まず私の立場。衆参両院で2/3というのは戦後初めてなので、私個人は、絶好のチャンスだと思います。私が安倍さんであれば、任期の間に全力を挙げて憲法改正を実現したいと思います。

日本会議は選挙結果に対して歓迎の声明を既に発表したと思います。日本会議は合議体ですから、これから、いろいろな運動を検討してから乗り出していくんだろうと思います。

3番目は私の希望でありますが、皆様ご存知の通り、日本は民主主義社会でございます。 同じ自民党の中でも憲法改正に慎重な人たちもいるし、積極的な人もいる。自民党の中でもひとつにまとめるには、相当難しいかなと思います。

ましてや野党の人たちの発言を見ておりますと、「憲法9条に反対だ」と明確に申す方もいます。 これから日本全体がどう動いていくのか。これは私の研究テーマのひとつ。もちろん国際情勢が大きな要因になると思います。

―10年後ぐらいの世界において、どんな日本を望んでいるのか?ビジョンを聞かせて欲しい。 第二次世界大戦についての見解は?あの戦争は間違った戦争だとお考えか?

おそらく10年後には憲法が改正されると。そして、北東アジアの一角に“普通の国”が実現する。しかし、周辺諸国を脅かすわけにはいかない。仲良くやらないと我々は生存できない、地政学的地位にある。

したがって憲法改正した後の10年間、あるいはそれ以後もずっと軍隊をつくるけども、そこにシビリアンコントロール、厳しい制度を定めて、関係国に心配を起こさせない。

国内的には観光客がたくさんきて日本を知るようになっている。「優しい国だね」「治安はしっかりしてるね」「文化もおもしろいね」「平和を愛する国だね」いう印象を強く出していく。私は“道義国家”が目標だと思っています。

いかなる国も戦争をした国は、異なる歴史観は持っているんだいうことは当たり前。それを「修正主義」というのは結構です。修正主義ではないと思いますが、いかなる国も歴史観というのは違うものだと、私は了解している。

賢い、国際性をもった政治家は、歴史観を異にしながらも、これをいつまでも根に持つようなことはいたしません。

例を申し上げます。一部の皆さんが「ナショナリスト」と叫んだ安倍さんはアメリカの議会で何を言われたか。非常に柔らかいことをいわれて、下院議長が涙を流されているのを私はテレビで目撃しました。

アメリカ大統領のオバマさんは、伊勢志摩にこられた時に、特に広島に訪問された。

2人の賢明な政治家が、歴史観はそれぞれ異なるけれども、大きな見地から水に流して、新しい日米関係を作ろうという、これを行為と言葉で示されたことだと思います。

―第二次世界大戦は間違っていたかどうかという点については?

間違っていた部分もあります。正しい部分もあると思います。

アメリカの戦争責任について触れた書籍もある。従って、どっちかが絶対に正しくて、どちらかが絶対に間違っているということはない。「どっちもどっちだ」ということだと思います。

―最近の天皇陛下の平和主義、戦争責任についての発言は日本会議の立場と異なるのではないか?

私は天皇陛下の発言はすべて正しいと思う。

―戦前の日本も膨張主義ということが出来ると思うが、中国の膨張主義については、どう考えているのか?

あの戦争は、日中の戦争であり、日米であり、日ソの戦争でもあった。3つとも少しずつ違う。 今おっしゃったのは日中の問題。南シナ海については、戦前日本がやったことが膨張主義だからと言って、今の中国の中国の膨張主義が許されるわけはない。

従いまして、私の立場は昨日のハーグの国際的常識に従う。中国のやっていることは冒険主義ではないというのは、これは間違いじゃないか。明らかな冒険主義だと思います。

―日本を「普通の国」にということだが、自民党の改正案は憲法9条だけではなく「個人の権利」についても言及されている。これが制限されるようでは「普通の国」とは言えないのでは。

個人の権利、基本的な人権を尊重するか。日本に「尊重しない」という人はほとんどいないんじゃないでしょうか。ですから、他の国と日本が違うというのは、どういう点が違うんでしょうか。

―日本会議の会員の中には、加瀬英明氏のように体罰を許容すべきとの意見や、女性の社会進出を抑制すべきだというような意見もあるようだが、この点についてコメントを。

加瀬さんは日本会議の会員だが、それらは日本会議の会員が言ったとしても、日本会議を代表する意見ではない。

これは個人的な見解ですが、簡単に申しますと。

ラフカディオ・ハーンが日露戦争の時に書いた論文集があります。そこでつくづく言っているのは、こういうことなんです。

日本人は子どもに体罰を加えない。レストランなんかで暴れ放題、子どもが暴れているのに、これを放置している。大学に入ってから厳しくいうけど、これは逆なんじゃないか。

今でも私はその通りだと思う。だから、子どもに少し体罰、アメリカがやっているように「スパンク」ですね。お尻をたたくぐらいのことはやって当然じゃないかと。

その国、その国には、いろいろな文化と習慣があって、体罰が必要な国もあるし、必要のない国もあるだろう。一概に「こうしろ」と強制はできないと思います。