「故人サイト収集家」が語る「死後晒されないためのSNS防御法」 - 古田雄介 - BLOGOS編集部
※この記事は2016年02月22日にBLOGOSで公開されたものです
2016年1月に発生した軽井沢スキーバス転落事故では、犠牲者のSNSやブログが衆目を集め、そこにアップされていたプロフィール写真が複数のマスメディアに掲載されるなどした。予測不能な事故に巻き込まれ、ネットに残した情報が予測不能に拡散する。10年以上前から起きていることだ。しかし、ソーシャルメディア時代といわれるいま、情報拡散を防ぐ手立てを改めて考えてみたい。筆者は亡くなった方が残していったサイトの追跡をライフワークにしており、『故人サイト』という事例集も出版している。不本意に残ってしまったであろうサイトや、本人の意図と違う形で世に知られるようになったサイトを数百件単位で拝見し、それらを記事にもさせてもらっている。この活動の是非を問う声はあろうかと思うが、本稿ではその経験を踏まえた死後のSNS防御法をお伝えしたい。
最も実効力が高いのは近親者の人力
インターネットにオープンな状態で置かれている情報は、本人がそのつもりでなくてもパブリックなものと見なされて、知らないうちに引用・言及されたり報道目的で使用されたりということが起こりうる。個人的には、本人がプライベートなものとして使っているならその意思も尊重し、パブリック扱いする前に連絡先があれば一報入れるなどのひと手間を入れる(連絡が来なかったり、そもそも連絡する術を設けていないならパブリックとみなす)のが妥当だと思うが、それが世間の常識というわけではない。現状何も手を打たなければ、万一のことが起きたとき、ネットにアップした情報が意図しない形で世に流れ出ていくのを防ぐのは難しいと考えておいたほうがいい。食い止めたいならどんな手を打つのが効果的だろうか。もっとも実効力が高いのは、家族などの近親者に動いてもらうことだ。
あなたが何かしら報道性の高い事故に巻き込まれて命を落としてしまうとする。被害者としてメディア関係者に名前が知れ渡れば、その時点でFacebookやTwitter、Instagram、ブログやホームページなどが検索されるだろう。本人であると確証を持たれたらアップした写真や近況を伝えるつぶやきが拾われ、人物を報じる材料として使われる。死からその瞬間までは短くて数時間、長ければ数週間程度だろうか。ここが不意の情報拡散を防ぐ第一にして最大の機会となる。
このタイミングで何かしらの行動が起こせる有力候補は、あなたの死を優先的に知ることができる家族だ。訃報を受け取った直後、あなたのSNSやサイトに代理でログインしてもらい、公開設定を「友人まで」に限定したり、誤解を招きそうな写真や記述だけ急いで削除したり、あるいはページ全体を閉じたりしてもらえれば、かなりの部分は赤の他人の目から逃れられるだろう。
家族に動いてもらうためには、自分がどんなSNSやサイトを持っていて、それぞれのアカウント情報やどんな処置をしてほしいかを伝えておかなければならない。何も普段から明け透けにする必要はない。IDなどの重要な情報はリスト化して、預金通帳やシステム手帳といった緊急時に家族が開くであろうものに挟んでおけばいい。そのうえで普段から「何かあったときはお願いね」くらい伝えておけば、措置が間に合う確率はグンと高くなるはずだ。
なお、多くのサービスは契約者以外がなりすましてログインすることを規約で禁じているが、死亡時の緊急措置に限れば黙認されるのが一般的だ。サービスの提供元は契約者の生死をリアルタイムでキャッチする術を持っていないので、このタイミングで自発的に何かしらの対応をすることは不可能だし、後から個別に咎めるといったこともしない。少なくとも筆者が5年間このテーマの取材を続けてきた限り、異を唱える運営元には出会ったことがない。
サービス提供元への相談も有効
Facebook、Googleでは独自の設定も
残念ながら、“第一の機会”に対策が間に合わなかったとしよう。あなたのSNSやサイトは、マスメディアや物見高い人々に気づかれてしまっている。プロフィール写真や文面はすでにコピーされて抹消を望むのは絶望的になっているかもしれない。 それでもやれることはある。閲覧制限すれば以後のやりとりは守られるし、コメント欄を承認制にすればスパム業者に荒らされずに済む。訃報を書いてもらえば読者に義理が立つしサイトに区切りもつけられる。ページやアカウントの削除ももちろん可能だ。なにより、そうしたアクションによって本人や家族の意思を示すことができる。
“第二の機会”では、もう手遅れで諦めざるをえない部分もあるが、時間的な余裕があるため打てる対策も多い。
家族には、第一の機会と同じ手段のほか、遺族としてサービス提供元に相談するという手段もお願いできるようになる。最近は「承継」といって、契約者が死亡したあとにアカウントとサイトを法定相続人が引き継ぐことができる規約にしているサービスが増えているため、IDやパスワードが分からない場合でも身分証明の後、運営元が応じてくれる可能性がある。とくに日本語でスムーズにやりとりできる国内サービスなら現実的な手段だ。
Facebookページなら友人が頼りになる。Facebookは亡くなった利用者のページを「追悼アカウント」という保護モードに変更する機能を備えている。故人の知り合いが専用ページ(https://www.facebook.com/help/contact/651319028315841)で申請すれば、Facebook側の調査後に追悼アカウントに切り替わる仕組みだ。また、自分の死後に追悼アカウントを管理する相手を指定する機能(設定>セキュリティ>追悼アカウント管理人)も備えているので、近しい友人や家族に「死んだら友人だけの設定にして」といった言付けを添えてお願いしておくという方法もある。
没後3ヶ月以降の対応なら、Googleが提供している「アカウント無効化管理ツール」(https://www.google.com/settings/account/inactive)を活用するのがお薦めだ。これを使えば、長期間Googleにログインしなくなったとき、アカウントやGmailやGoogle+などのデータを抹消したり誰かに託したりできる。誰かに託す際は自由文を添えたメールを送ることができるので、そこに個別の言付けや他のサービスの対応を書き添えておくことも可能だ。発動期間は3ヶ月から18ヶ月までの6段階となる。
これからも、おそらく最速なのは「家族の手」
ネットを見渡すと、利用者の死亡時を想定した機能や規約はここ10年で急ピッチに整備されていると感じる。それでも喫緊の対応が迫られる場面で人力に勝る対処法は見当たらない。それは、オンライン上のアカウントと人の生死が直結しないからだ。メールアドレスひとつでいくらでも新たなアカウントが作れる構造上、ここを縮めるのは難しい。おそらくこれからも死後のネットで最速なのは家族の手だ。自分が故人になる場合だけでなく、家族に不幸が訪れる場合も想定し、そのことを念頭に置いておきたい。
古田雄介/フリーランス記者
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