「オバマ大統領は全て召し上がった」~銀座「すきやばし次郎」の小野二郎氏が会見 - BLOGOS編集部
※この記事は2014年11月05日にBLOGOSで公開されたものです
オバマ米大統領が来日した際、安倍総理大臣との夕食会の会場となり話題となった東京・銀座の鮨店「すきやばし次郎」の小野二郎氏(89)が会見を行った。小野氏は「ミシュラン・ガイド」で三ツ星を連続で獲得するなど、世界的に著名であり、秋の叙勲では黄綬褒章を受章した。この日は長男で「すきやばし次郎」本店の店主でもある禎一氏(55)と、30年以上にわたって交友があり、共著「鮨 すきやばし次郎: JIRO GASTRONOMY」を出版した料理評論家の山本益博氏(66)も同席。オバマ大統領来店の際の秘話も明かした。【編集部:大谷広太】
小野二郎氏 写真一覧
伝統を重んじているという二郎さんのお鮨には、相反する両方のものがあるように思うが。
山本氏:江戸時代は単身の男性が圧倒的に多かったので、その人達のためのファストフードとして、お鮨も蕎麦も天ぷらも流行ったのです。
そこがスタートですが、回転鮨でも、きちんと酢飯の温度は人肌、というようなお店もあります。一つの"スナック"から150、200年と経つうちに芸術と言っていいようなのも出てくるし、両方混在しています。ですから、二郎さんも両方ともがお鮨だ、と言われると思います。回転鮨も食べたことありますよね?自身が作っているのだけがお鮨ではないですよね。
二郎氏:あります。勉強のためにあらゆるお鮨を食べております。
研究して進歩しなかったら、お鮨もあまり値打ちがないと思いますので、自分たちはそれなりの勉強をしていると思ってやっております。
ーミシュランの三ツ星になるということは素晴らしいことだが、課題もあるのではないか。つまり、鮨の食べ方、伝統、歴史、味そのものにあまり詳しくない客もたくさん来るのではないか。お金を出せば食べられると、軽い気持ちで来る客もいると思う。鮨に対して芸術的なお考えを持つ立場として、どう対応しているのか。
禎一氏:うちの場合はいろんな方がお見えになりますけれども、食べ方がダメな方にはまずお教えします。こうやって食べますと綺麗に食べられますよ、美味しく食べられますよ、ということをお伝えしています。中には、どのように食べると美味しく食べられますか、私の食べ方が間違っていたら教えてください、というお客様も増えています。
たとえば外国人の方はご飯の方に醤油をどっぷり付けて壊して食べてしまう方も多いのですが、酢飯にも味がついていますから、付けない方がいいわけです。付けるんだったら、魚介の方に付けたほうがいいわけです。醤油小皿の方にガリを漬けまして、上の魚に醤油を塗って召し上がっていただけると、綺麗に食べられるわけです。
ー京橋の「与志野」での修行時代に、影響を受けたこと、学んだことは。
二郎氏:鮨屋になりたくて修行に入ったんですけど、それが26歳の時でした。和食の方から鮨の方に転向した年齢です。26歳というと皆さんよりも遅くなってからですので、必死になって勉強したつもりです。それが現在、財産になって自分の体に残っていると思います。
親方は日本で3本の指に入るような職人さんだったんですが、サボるのが好きな方で、それは真似をしないで(笑)、自分なりに努力をしてきたつもりです。
ー7割くらいが外国人のお客さんとのことだが、海外にお店を出すつもりは?
二郎氏:これはもうよく皆さんから言われる話なんですけれども、私は自分の目が届く範囲でなかったら、支店を出そうとは思っておりません。鮨の値打ちも下がりますので、未だにこれだけはやらないようにしております。
ー世界での鮨ブームに伴い、魚の乱獲など、問題点も出てきている。私は自分の娘や孫娘が20年、30年先に、鮪を食べられるだろうかと思う。長期的に見て、鮨の世界はどう発展すると思うか。
二郎氏:3年ほど前に、店の若い者に"あと5年たったら材料が全部変わってくるだろう"と言っていたんですが、それが徐々に現実になっていくような気がいたしますので、将来、現在と同じ材料で鮨ができるということは、全く考えられません。
ーマグロを安定して提供するためには、やはり外洋のマグロを使わなければならないと思う。これについてはどうお考えか。
二郎氏:それは事実だと思います。そのくらい今はマグロが少なくなっておりますので、国産のだけ狙っていてもいいのはなかなか手に入らないと思います。
ー養殖マグロも使うようになるのか。
禎一氏:ゆくゆくはそうなると思います。かつて鮨ブームではなかった頃は、外国で獲れたマグロはみんな日本に来ていましたが、地元で穫れたものは地元で取引するということになり、輸入量が減りましたた。 その足りない分を日本でどうするかというと、やっぱり養殖を使わなければまかないきれないと思います。
ウナギなんかはすでに養殖が当たり前で天然は珍しいというスタイルで来ていますので、マグロもだんだんとそうなっていくんではないでしょうか。
ーいわゆる"寿司屋"が世界中に広まっていて結構なことだと思うが、昨今テレビを見ていると、突拍子もないネタやソースなど、日本人の感覚するととても鮨とは思えないようなものが出てくる。
鮨がグローバル化していく中で、ここからは鮨、ここからは鮨でない、というような線引をすべきだと思うか。
二郎氏:日本だけだったら、そういう風にした方がいいかなと思いますけど、世界中でブームになっていますので、その国その国のやり方があると思いますから、これは規制してしまってもあんまり良くないのかなと私は思います。
共同通信社 写真一覧
禎一氏:一週間前、突然官邸から「貸し切りでお願いしたい」と言ってきました。手前どもの方はもう予約がいっぱいだったのでお断り申し上げたのですが、「閉店の後でも構わないから」ということで、お受けしました。それがアメリカ側の要求なのか、その辺りはわからないですが、「首相官邸のご招待」ということでした。
最初はいたずら電話かと思ったんです(笑)。次の日、外務省から電話がありまして、職員の方が来られて、お話を伺うことになりました。
お受けすることにしましたら、それからの1週間、毎日警備でした。
当日はみなさんもご存知の通りすごい警備の中ご来店いただきまして、召し上がって頂いたんですが、最初から難しい事務的な話に入られたので、私どもはどうしたらいいかわからなかったんです。
でも、「普通に出してください」と言われたので、父はいつもの「おまかせコース」をお出ししました。
順番に食べて頂いていて、大統領は中トロを召し上がっていただいた時に、とても気に入っていただいたようで、ウィンクしていただきました(笑)。
大統領はお出ししたものはひととおり、全部召し上がっていただきました。
日米交渉の話がやっぱり長引いたので、味わって食べていただいたかどうかはちょっとわからないですけれども、全部食べていただいて、今まで食べたお鮨の中で最高だとおっしゃっていただきました。
山本氏:オバマ大統領は「今まで食べたお鮨の中で一番美味しい」と、3度言われたそうです。
禎一氏:大統領は左利きで、お箸もとてもお上手に使われて、とても綺麗に召し上がっておられました。お鮨がとても大好きだということもおっしゃっていました。
山本氏:その日の予約を全部断って、一日貸しきったという噂もありましたね。お昼のお客様と夜のお客様をきちんとこなしたあと、やられたんですよね。
禎一氏:全部終えてからですね。
山本氏:ですからその晩、次郎のお鮨食べに行くのにパスポート見せて入ったそうです(笑)。
禎一氏:私ども官邸とホワイトハウスから何もコメントしてはならんと言われておりましたので今まで黙っておりました。いろいろマスコミの憶測で2個しか食べなかった、4個しか食べなかったなどと書かれておりましたけれども、すべて召し上がっていただいて、とても美味しかったとおっしゃっていいただいたので、有難く思っております。
山本氏:二郎さんは「大統領の目の前に包丁がありますが大丈夫でしょうか」と質問なさったそうです(笑)
禎一氏:それがないとうちの仕事ができないので(笑)
山本氏:料理人が作ったものを大統領がその場でダイレクトに食べるというのは、歴史上なかったことなのではないかと思います。
国賓でいらした世界で最も有名な大統領が迎賓館や皇居の豊明殿ではなく、非公式ながらも銀座のお鮨屋さんで食べた。二郎さんだけの栄誉ではなくて、大統領がお鮨をつまんだ瞬間は、鮨がフランス料理のように世界のグローバルスタンダードな料理となった瞬間でもあるのです。これをニュースキャスターが誰も指摘しなかったことは寂しいなと思いました。
昨年、和食が世界無形文化遺産に指定されましたが、日本の鮨業界にとっても追い風となるような瞬間だったというのが実感です。これが一番大事な点だと思います。
ー儲かったのか?
禎一氏:普通にいただきました。すこし貸切料をいただきました。閉店外ですから、時間外手当ということでしょうか(笑)
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