※この記事は2014年10月27日にBLOGOSで公開されたものです

最高裁が、女性が妊娠後に降格されたことを違法と判断した最高裁判決を受けて、24日マタハラNetのメンバーが外国特派員協会で会見を行った。マタハラNetは、女性が安心して妊娠、出産、子育てしながら働き続けられる社会の実現を目指して、マタニティハラスメントに関する情報や被害体験の共有などを行っている団体。会見の詳細をお伝えする。(BLOGOS編集部)

マタハラ問題をきっかけに働き方の改善を議論すべき

小酒部さやか氏(マタハラNet代表):私たちは、7月頭に数人のメンバーで立ち上げた本当に小さな会です。ですが、この7月からの3~4か月の間で、たくさんのメディアの方に報道していただきました。そして、昨日の広島の理学療法士の女性の最高裁の判決に向けて、勝訴を勝ち取れる動きになるように活動してまいりました。

私たちは、マタニティハラスメントの被害女性や、専門家の先生方をお呼びして「交流会」を開催してきております。9月18日の最高裁の弁論が開かれた際も交流会を行いました。その時は、日本の多数のメディアの方々に取り上げられたのと同時に、ロイター通信さん、CNNさんといった海外でも報道されました。

私自身もマタニティハラスメントの被害者で2回の流産を経験しております。私たちのような被害女性、第二、第三の被害女性をもうこれ以上出してほしくないという思いを届けたくて、メディアの方々に9月18日の交流会を報道していただきました。

昨日10月23日の最高裁の判決に私たちの思いやメッセージが届いたのではないか、と思っております。昨日の最高裁判決は、マタハラ防止の大きな一歩と捉えております。マタハラ問題の解決を起点に、スタートに長時間労働の見直しなど、すべての日本の働く人たちの働き化の見直しをして、働き方の改善を行っていければと考えております。

日本は「長時間労働の割に生産性が低い」「行動経済成長期から馬車馬のように働いてきて、その辞め時がわからない」と言われております。日本では、産休、育休制度があり時短勤務といったように制度は整っているのですけれども、長時間労働できない、短い時間で帰る育児を抱えた女性は排除される対象となっております。

あと数年で日本は「大介護時代」に入り、上司たちが時短勤務、介護休を取る時代がやってくると言われてます。あと数年で、働き方の違う人たちが職場にあふれる時代がやってきます。

今、マタニティハラスメントの問題でつまずいている場合ではないです。マタハラ問題の解決をスタートに、長時間労働の見直しなどをして、新しい働き方の幕開けとなってほしいと思っています。昨日の最高裁の判決、そして、私たちマタハラ.netの存在がそのきっかけづくりになればと思っております。

メディアの皆さんにはぜひこの問題を取り上げていただき、海外の視点から日本の現状を伝えていただければと思います。よろしくお願いいたします。

最高裁判決は大きな第一歩

新村弁護士:マタハラネットのサポートをさせていただいております。

私からは、昨日の最高裁判決について少しご説明させてもらいます。先程から出ておりますけれども、広島の理学療法士の女性が妊娠したので体の負担が軽い業務への異動を希望したが降格されてしまったという事案です。昨日の最高裁判所の判決は、妊娠中の軽易業務、簡単な業務への転換を契機とした降格は原則として禁止だと判断しました。

例外的に女性が自由な考えで同意をした場合や会社が業務上の支障があって、法の趣旨に反しないような特段の事情が存在するときだけ、例外的に許されるという風に判断しております。

日本では、男女雇用機会均等法で、妊娠や育児を理由とする不利益な取り扱いは禁止されています。ところが、現実にはこの権利が十分に保障されておらず、妊娠とか出産、育児を理由として解雇や降格、退職強要などをされる人が後を絶たない現実があります。

裁判所もそれにはすごく消極的で、これまではっきり「違法だ」と判断することはほとんどありませんでした。ですから、その原則をきちんと判断した最高裁は、大きな第一歩だと言えます。

私たちは、マタハラの背景には、長時間労働や残業が当たりまえという日本の労働文化があると思っています。そして、「男は仕事、女性は家庭」という性別によって役割を変えるのが当然だという意識も日本は根深いと思っております。こういった日本人みんなの働き方や意識が変わらなければ、マタハラがなくなることはないと思います。

今、安倍首相は、「少子化を解消する。そして、日本の経済を成長させる」と言って女性活躍推進の法律を出しています。ですけれども、その中にこのようなマタハラ被害をなくしたり、長時間労働を見直すというような視点はあまりないように私たちは感じています。

女性のみならず男性も含めて、日本の労働者が妊娠や出産、介護、そういった家庭のことを大事にしながら、仕事をしていくためには、もっと根本的な改革が必要だと考えております。

昨日の判決は、その第一歩だと思っていますので、私たちマタハラNetは、この判決を力にして、国や企業、広く社会にこの問題を訴えていきたいと考えております。そして、長時間労働を見直して、女性はもちろんすべての労働者がワーク・ライフ・バランスを自己選択していきながら、安心して、幸せに働ける社会を目指した活動をしたいと思っています。

マタハラの現状は12年前から変わっていない

宮下浩子氏(マタハラNet運営メンバー):私は、12年前にこの「マタハラ」という言葉が出来る前に、妊娠を理由に職場を解雇されました。その理由に納得ができず、職場復帰を求めましたけれども、復帰を求めた場で、とても暴言を吐かれたりしました。

命が助かったんですけれども、復帰を求めに言った時に「もし、お腹の子が死んだら、店にいい噂が立たないでしょう。僕はそれを阻止したいんだ」「妊婦がいると、お客さんが気を遣うでしょ。だから僕は、そういうことを店長として阻止をしなければいけないので、妊婦を雇うことはできないよ」と言われました。それでも納得がいかなかったのですけれども、復職を求めたのですが、その時既に退職届は本社に出されていました。

当時は何の情報もなかったので、インターネットで調べて「妊娠を理由に解雇することは違法だ」と知ったので、再度復職を求めに行きました。そうしたらば、「法がどうのこうの言ったって、その職場職場に合わせてできた法律ではないので、うちの会社では無理だよ。その法律は通用しないから」と言われました。

私はやはり納得が出来なかったので、当時7か月の身重な体で暑い中、労働基準局にも相談に行きました。しかし、労働基準局も「会社側に問い合わせて話を聞いたところ、会社側の顧問弁護士が、何ら違法なことをしていないから、もう復職は認められない」という返事でした。そして、「宮下さん、この件に関してはどうしますか。裁判にしますか。調停にしますか。何もしませんか。どれにしますか」と言われました。

最後の伝手だと思って相談に行った労働基準局でしたが、そこでもまた傷つけられ、とても辛い思いをしました。私はやはり納得が出来なかったので、主人に相談をして裁判をすることに決めました。その際に、私の当時の同僚たちも、暴言を吐かれた時に聞いていてくれた同僚も証人になってくれて、裁判に勝利的和解ですけれども、勝つことが出来ました。

その時の和解内容にも「妊産婦の働き続ける意向を尊重し、その働きやすい職場環境の維持、改善に努めるものとする」という内容を和解条件に入れてくれとお願いしました。ただ、会社側にとっては、それを和解条件に入れることによって、妊娠を理由に解雇したことを認めることになるので、なかなか和解条件に入れてくれませんでした。

それでも、お金より何よりも私は自分だけがいいという思いをしたくなかったので、今後その会社で働き続ける女性のために、「この条件だけは折れない、これだけでいいので」ということで和解条件で入れてもらいました。

私は12年前に戦いました。12年たって、今法が改正され、「マタハラ」という言葉で皆さんも衆知するようになったと思いますけれども。法が改正され、よくなりましたけれども現状は12年たっても変わっていません。それと心に受けた傷も変わっていません。私は無事出産が出来ましたけれども、その12年の間に亡くさなくてよかった命がたくさんあったと思います。

これ以上、私たちのような被害者がでないためにも、「今変えるべきだ」と思い、こうして出てまいりました。

「妊娠と仕事と両方とるのは欲張り、わがまま」と言われた

小酒部氏:私は2回流産をしました。一度目の妊娠の時は、業務がすべて私に集中していた状態だったので、職場に妊娠の報告ができず、深夜残業、夜の11~12時まで働いた結果、流産してしまいました。

入院して、手術をして、職場に復帰して、上司に流産の報告をしたところ、上司に言われた言葉は「あと、2~3年は妊娠なんて考えなくていいんじゃないの。今は仕事が忙しいんだから」と言われました。

半年後、2回目の妊娠をしました。妊娠がわかると同時に切迫流産の状態で自宅で一週間安静にしていました。そうすると、自宅に上司がやってきて、私は契約社員なんですけれども、「契約の更新をするな」という風に退職勧告を4時間に渡ってされました。「1週間、突然休んで迷惑をかけた」「イメージが悪い」「復帰してきたとしても職場の人間が気を遣う」「だから契約を更新するな」と言われました。

私たちは働き続けたかったので、翌日より出社し、1週間後に流産しました。日本には母性を守る制度があるはずです。人事部長に「これはいったいどいう状態なのか」と確認しに行きました。人事部長は「妊娠と仕事と両方とるのは欲張り、わがまま」「そんなに仕事に復帰したいのであれば、妊娠は90%あきらめろ」と言われ、退職せざる得ませんでした。

日本40代、50代の職場の上司たちは今でも、こういう言葉を普通に使います。社会の意識改革が必要だと思います。

「女性の活躍」の前に、まずは「女性の就労継続」を

―フェミニズムの観点から「女性を特別扱いするのは、かえって問題があるのではないか」という意見もあると思いますが、それについてはどう考えるが?

小酒部氏:日本では、男尊女卑がまだまだ根強いと思います。こうして女性が声を上げることを「わがままだ」とか「権利ばかり主張している」と言われてしまいます。しかし、妊娠は女性だけがしますけれども、いつ誰が病気や事故で仕事に穴をあけるかわかりません。

また、先ほど話したように、日本は高齢化社会でこれから大介護時代が来ると言われております。上司たちが介護休を取る時代がやってきます。ですから、この問題は女性だけの問題ではなく、すべての働く人の問題として捉えていただきたい。

圷(あくつ)弁護士:今の問題意識は、正に「マタニティハラスメント」という本を初めて書かれた杉浦浩美先生の中でも出てきます。「男女で同じように働くべきだ」「平等はキープすべきだ」というと、女性はそういう自分の身体的な負担を隠さなくてはいけないのではないか。そういう話になりまして、当然妊娠から出産、一定時期に関しては、女性は身体的な変化が生じるわけですが、その変化を主張してしまうと、逆に差別を許してしまうことになるから、それを隠して、発信しない、発言しないということが、ずいぶんなされてきた、と言う風に書かれています。

それが結局、日本において、また世界においてもそうかもしれませんが、マタニティハラスメントというものが置いてきぼりにさせてしまったのではないか。そういう問題提起がされています。

しかしながら、それは身体的に当然、通過しなければならないプロセスであるので、その部分に関しては、やはりケアしなければいけないという捉えなおし方がされています。

―安倍首相は、女性の社会進出、労働環境の改善のために、何をやるべきか?また、それは成功すると思いますか?

圷弁護士:安倍首相が目指してらっしゃる「すべての女性が活躍」ということに関しては、私たちも賛成です。しかしながら、予定されているのは政府がKPIとして掲げております「202030」(※2020年までに30%の女性を指導的な地位につけるという目標)という点です。それは男性並みに馬車馬な働き方をしていた女性を上げてあげる。きっと今まで差別があったんでしょうけれども、そこを上げてあげるというだけの目標です。

今まさにおっしゃったように、本当に女性をか輝かせるためには、その上の部分の女性たちだけではなくて、マタハラによって職場を追い出されてしまった状況、あるいは女性差別、まだまだ続くセクハラ、そうした問題こそ焦点をあてて改善しなければならないと思います。

今国会で「女性活躍推進法案」が出ていまいりました。労働政策審議会でわずか2か月の審議、スピード審議でした。それも当初のスケジュールを前倒しをし、当事者の声は、その審議会に一切呼ばない、聞かないというような状況で法案として上がってきました。

9月30日の報告案なんですけれども、この中には長時間労働、そして私たちが声を上げて署名を集めたことによってマタハラなどがあるということが記載されています。しかしながら、10月7日に出てきた法律案には、マタハラとか長時間労働の撲滅みたいな内容は一切書かれていません。

なので、今国会で審議されることになりますので、是非その点を国会議員の皆さんにきちんと議論をしていただいて、何が問題なのかということに焦点をあてて、それをきちんと反映した法律にしていただきたいと思っております。

小酒部氏:日本の女性は第一子の妊娠を機に6割が退職すると言われております。退職した正社員の女性の10人に1人が解雇、退職勧奨など会社側の違法行為により退職に追い込まれている状況です。安倍政権のいう「女性の活躍」はもちろんなんですけれども、私たちのように働きたくても辞めさせられてしまっている女性が数多くいます。「女性の活躍」の前に、まずは女性の就労継続が先決なのではないかと思います。

―マタハラの議論をきっかけに新たな労働システムをと言う話があったが、どのような労働環境を望んでいるのか?

小酒部氏:まずは、長時間労働の見直しをしたいと考えております。女性が出産・育児をしながら働くためには、パートナーである男性のサポートが必須です。ですが、日本では男性の育児休暇取得が2%以下と言われています。

長時間労働を見直して、すべての人で出産・育児をサポートして、そして、女性が仕事をし続けられるような環境が整うべきだと思います。

新村弁護士:長時間働くことができて、残業もサービス残業もたっぷりできる労働者じゃないと会社にいられないというような、そういう標準があるのが問題だと思っています。妊娠していたり、育児をしている女性はそんなに働けませんから、排除される代表になるわけです。それがマタハラです。

でも、これは介護している男性や体調を崩してしまった男性といった人にも当てはまる問題だと思います。私たちが「新しい時代」というのは、そういったいろんな事情を抱えた人たちでも、家庭と仕事を両立しながら、働くことが出来る社会。そういったものを「新しい時代」と呼びたいと考えております。

小酒部氏:もう少し細くして、具体的にいますと、ワークシェアリングをもっと広めていきたいなと。例えばペアー制度、一つの仕事を二人で進めるような制度の導入ですとか。いつ誰が業務を抜けても仕事が滞らないようなシステムを導入していくべきだと思います。

圷弁護士:皆さんには、日本が過労死、過労自殺の国であるということを思い出していただきたいと思います。私はアメリカに労働の調査に行ってまいりました。その時に労働省、そして弁護士事務所などにインタビューに行きましたけれども、「なんで死ぬまで働くんだ。それだったら違う仕事に移ればいいじゃないか」と言われました。

日本の職場では、そうした労働者が違う職場にいけるというような道もなかなかないですし、本当に自分の意志ではなく、働かされている、強要されているというのが現状です。今までずっとそれが改善できずに、過労死、過労自殺が過去最高レベルまであがっています。

安倍政権が本当に女性を活躍させたいのであれば、まずその長時間、過労自殺、過労死問題に取り組まなければいけないのに、そこに何ら手当をしていただけてないというのは大問題だと考えております。

―少し本題からずれるかもしれないが、日本には労働基準法というものがありまして、週の労働時間というのは40時間と決められています。しかし、これは現状を正しく反映していないと思います。最高裁で法律的な見解が決まっても現実が変わらないというようなことも起こりうるのではないか。

圷弁護士:1日8時間、1週40時間というのは、労働基準法で定められています。それを超えて働かせるためには、労働組合などと36協定という協定が必要になります。かつ、割増賃金と呼ばれるものが支払われなければならないとされています。

その理由は「人間らしい生活を維持するために必要な制限」という風にとらえています。何故なら、すべての人々は1日24時間しかありません。で、当然睡眠時間をキープしなければいけない、そしてプライベート、家族との時間があります。そうすると、おのずと3で割ると8時間、×5で40時間。36協定と割増賃金が定めがある以上、当然それを超える残業というのも法は許容しております。

ただ、日本では残念ながら、「○時間を超える労働をさせてはならない」という上限の規制というのは現在のところありません。

―判決によると本人の同意があれば、減給や降格も可能ということになるが、経営側が同意を強要することで、マタハラが続く可能性はないのか?

圷弁護士: 確かに、そういった言及がありますけれども、その「同意」について真意かどうかということについて、きちんと裁判所としての判断も示されています。その同意に至ったことにつき、客観的、合理的理由があるかどうか。処遇を変更したことによって、その不利益の具合がどの程度か。なので、単なる「同意」ということではなくて、慎重に判断しなさいよ、という基準も示されています。