<天才を間近で目にする驚き>演出プランをはるかに超えていたビートたけしの想像力 - 吉川圭三
※この記事は2014年10月23日にBLOGOSで公開されたものです
吉川圭三[ドワンゴ 会長室・エグゼクティブ・プロデューサー]
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前回に引き続き、筆者が体験し、驚かされた(?)「ビートたけし」のエピソードについて書きたい。
15年近く前の番組収録の時だ。「番組対抗スペシャル」ということでオールスター・日本テレビのレギュラー番組の出演者のほとんどが「Gスタジオ(通称・Gスタ)」に集結するという番組でのこと。
この時、たけしさんは一番スタジオが盛り上がったところに乱入し「スタジオを攪乱して去ってゆく」という設定だった。筆者も、その頃には、たけしさんとの仕事も多くこなし、「目で会話」ができるくらいにはなっていた。「ヘンテコ衣装」を十分用意し、演出プランも完璧だった。
たけしさんが入ってくる。衣装を選び、筆者の演出プランを聞く。普段は段取りが決まっているので細かい打ち合わせはしないが、「スペシャル」の特番だからということで、打ち合わせをした。
「あそこにあのタレントがいます。こういういじり方が出来ます。そのあとこの小道具であのタレントに突っ込みます・・・」云々。
筆者は細かく説明した。たけしさんは「フンフン」と黙って聞いている。
さて本番だ。キラ星のごとく「Gスタ」を埋めるタレントの群にビートたけしが突っ込んで行く。爆笑の渦だ。毒舌を吐いたり。突っ込んだり・・・でも、何かがちがうのだ。
そう。筆者の演出プランと違う。全く違うのだ!
全く違うだけではない。たけしさんの実演の方が数倍面白かったのだ。「ビートたけし」もプロ中のプロだし、筆者の演出プランの方が良ければそちらを取るだろう。しかし、筆者のプランと、実際に目の前で展開される実演はレベルが違った。
これにはショックを覚えるとともに、この人の潜在的能力の高さ、やると決めた時の集中力の高さに驚かされた。筆者はサッカー・アルゼンチンのメッシに動きを指示していたようなものだったというわけだ。
しかし、このようなことを目の前で体験すると本当に驚嘆してしまう。おそらく、直接打ち合わせしていた筆者くらいしか、このことをわからなかったに違いない。