「自民党の一強で国民はニヒリズムに陥っている」小林よしのりと春香クリスティーンが「民主党の存在意義」を議論 - BLOGOS編集部
※この記事は2014年10月06日にBLOGOSで公開されたものです
政権の座を明け渡して以来、存在感が弱まっている民主党。再生に向けた苦闘がつづくなか、若者との交流をはかるイベントが9月28日、東京・永田町の党本部で開かれた。約250人の若者を前にしたパネルディスカッションでは、漫画家の小林よしのりさんとタレントの春香クリスティーンさんがゲストとして登場。「民主党の存在意義」をテーマに、海江田万里代表と議論した。(取材・高橋洸佑)「今日は、ネット中継がなくて良かった」
パネルディスカッションではまず、「若者の政治意識」について議論が展開された。「国会議員の追っかけ」としても知られるクリスティーンさんは、16歳までスイスで過ごした経歴を持つ。高校2年生のときに日本の高校に編入したが、政治に対する意識が日本とスイスで大きく違っていることに驚いたという。「スイスでは、学校の授業の休み時間にも、無意識のうちに徴兵制はどうなんだとか、EUに加盟すべきかというテーマについて、クラスメートと話していた。一方、日本では、政治とか社会についての話が休み時間の中でまったくない。どちらかというと、ファッションとか髪型の話ばかりで、どうして政治の話をしないのだろうというのが、一番驚いたところでした」
これに対して、小林さんは「イデオロギー化しやすい世論」の問題を指摘した。
「若い人たちが、ふだん大学内で政治の話をしないというのは、日本人の性質として、欧米の人たちと感覚が違うから。うかつに、原発についてどう思うかとか、集団的自衛権についてどう思うかとかを話すと、すぐにあの人は右寄りだとか、クソ左翼だとか、いろんなレッテルを張られてしまう。
イデオロギーのカテゴリーができあがってしまっていて、集団的自衛権とか靖国参拝とか、すべてOKと言わなければいけない状態になっている。わしみたいに、『靖国参拝も基本はやらなければいけないんだけど、今みたいに中国とチキンレースしているうちは、参拝すると危ないよ』と、ちょっと複雑な話をすると、もうついていけない。いまで言うと、安倍首相に賛成しないと保守じゃない、とかね。
だから今日も、ネット中継がなくて良かったと思っている。ネット中継があると、おしまいなんですよ。安倍首相だったら全部『888』(拍手を意味するニコニコ動画の投稿コメント)となるけど、民主党の議論をやろうとしたら、もう議論を聞く耳がない。これは『安倍首相に反対する会だ』と思えば、全部ネトウヨがバッシングしてくる。そういうことがみんな怖いから、自分の意見を言いたくない」
さらに小林さんは、ネット上で行われる匿名の議論についても「ネットでなんか議論できない」と述べたうえで、「ネット上で、匿名で議論するということは、日常生活の中で顔を出して議論ができないということ。それができないところが、日本人の弱いところ。自分の意見と違うと、全部『朝鮮に帰れ』と言われる。クリスティーンさんも『朝鮮に帰れ』と言われる。訳が分からない」と語気を強めた。
この意見に対してクリスティーンさんは、「ネット自体はいろんな情報が入るし、大事な存在」と認めつつ、「ネットだけで爆発的な議論が起きていることがもったいない。ふだん言えないような、匿名だからこそ言えるような議論だけが爆発的に起きてしまっている。ネットでの議論と日常の議論を併用して、お互いの顔を見ながら話せるというのが理想的だと思う。それができて初めて、ネットは活用できる」と話した。
「中間層の復活を、民主党の目的にしてほしい」
そのような状況に、政党はどう向き合ったらいいのか。「民主党の存在意義」はどこにあるのか。パネルデスカッションの後半では、自民党の一強体制が強まるなかで、民主党が打ち出すべきビジョンについて話し合われた。小林さんは「自民党の一強で、自民党が何でもできるという状況」の中で、「国民はニヒリズムに陥っている」と指摘。そのうえで、次のように語った。
「本当は脱原発なんだけど、もうやりようがないから、任せとけばいいやっていう感覚になっている。だから、あいかわらず支持率だけは高い。単に女性大臣を増やすというだけで、(支持率が)ガーンと上がっていく。あれは全部、女性なのかもわからない、『準男性』みたいな、在特会とかいろんなところにつながっている恐ろしげな女の人ばかりだ。海外では知られているけど、日本では知られていない。マスコミが報じないからだ」
こう述べつつ、民主党への期待を口にした。
「だから、海江田さんを確かめるために、今日は来た。民主党が代替案を出せる、自民党に代わるビジョンを出せる党になり得るのか。維新の会とかは全然期待していない。あれは全部、自民の補完勢力だと思っているから。対抗勢力になりようがない。もっと民主党が強くならなければ、もうどうにもならない。そういう潜在的な期待はあると思う」
そのうえで小林さんは、民主党に次のようなアドバイスを送った。
「民主党の問題はビジョンをどう出すか。それはたとえば、『中間層を復活させる』とか、標語的に出してしまっていいと思う。中間層はいま崩壊している。低所得層ばかりになってしまっている。子どもの6人に1人は三食、食っていない。6人に1人が三食食えないなんてことは、わしの育った時代にもなかった。だから、中間層を復活させるというのを、民主党の大目的にしてほしい」
これに対して海江田代表は、「党首をやっていて一番つらかったのは、無関心だった。それが今少しずつ関心を持ってもらえるようになっている。安倍さんの大きな力の前につぶれてしまうのか、それとも、これじゃいけないと立ち上げるのか、そこを見られている。自民党の補完勢力になろうなんて、これっぽっちも思っていない」「人口が減っていくなかで中間層を復活させるのは難しいが、それをやらないといけない」と答えた。
ただ、与党時代の政権運営で国民からの信頼を失ってしまったのも事実だ。「どう信じていいのか分からないという人が多い」。クリスティーンさんがそう指摘すると、海江田代表は次のように民主党の姿勢を説明した。
「民主党はイデオロギーの政党ではない。それが分かりにくい印象を与えていたのかもしれない。日本には多様な人がいるから、その多様性を認めていこうというのが、民主党。自民党も昔はそうだったと思うが、いまの安倍さんは多様性じゃない、一色に染め上げようとしている。多様性がある日本にしないといけない」
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