※この記事は2014年09月20日にBLOGOSで公開されたものです

 ついに発売となったAppleのiPhone6。
 別に新製品に飛びついたわけではないが、今まで使っていたiPhone5の契約が2年を迎えるので、新しい携帯を買わなければならないという理由で、僕も発売日に手に入れた。

 人気があるのは画面が大きいiPhone6Plusだが、僕は片手で操作することが多いということもあるし、また音楽などもそれほど大量に持ち歩かないという、これまでの使い方から、iPhone6の64MBのモデルを購入した。

 と、自分は普通に手に入れることができたが、発売当日、全国各地のアップルストアではちょっとした問題が発生していたようである。
 その問題とは、中国人らしき人たちが、アップルストアの行列に大量に割り込みをしたり、また心斎橋のアップルストアでは、手に入れられないことに腹を立てた中国人らしき人たちが暴れるなどしたという。(*1)

 これに対してネットなどでは、マナーの悪く、大量にiPhone6を買い占めようとする中国人たちに対する批判の声が相次いでいる。

 さて、この問題を理解する上で、真っ先に理解しなければならないのは「アップルストアに並んでいる人は、なぜ並んでいるのか」ということだ。  「iPhone6を手に入れたいからだろ?」と思った人は、8割方間違い。確かにiPhone6を手に入れたいことは間違いないが、本当にiPhone6が欲しいだけなら、わざわざアップルストアに並ばずに、どこの町にでもあるドコモやauやソフトバンクという通信業者(以下キャリア)の名前がついたショップに予約を入れればいいだけのことだ。

 実際、発売当日に家電量販店をのぞいたら、iPhone6Plusはさすがに次回入荷未定となっていたが、iPhone6の方は在庫がある店が多かった。単にiPhone6を手に入れたいだけなら、アップルストア以外で、いくらでも手に入るのである。

 それでも彼らが並ぶのには、大きく分けて2つの理由がある。
 1つが、これまでのiPhone発売日にも、たびたび列を作ってきたような「iPhone発売日というお祭を楽しみたい人たち」が並んでいるということ。

 彼らにとって、iPhone6を手に入れるのは二次的な目的であり、並んで発売当日を待つこと自体が楽しいイベントなのである。今年も、待つ時間をネットの生放送システムを利用して放送したり、様々な仮装をしたりと、各自が楽しんでいた。

 そしてもう1つが「SIMロックフリーのiPhone6を手に入れたいから」だ。
 SIMロックとは、いわば携帯本体がキャリアに結びついているということだ。だから、例えばドコモショップで買ったiPhone6は、同じiPhone6であっても、auやソフトバンクの回線で利用することはできない。

 しかしSIMロックフリーの携帯は、SIMカードを差し替える事によって、いつでも各社の回線を契約して利用することができる。最近はSIMロックフリー携帯の利用を前提に、SIMカードを販売するキャリアもあり、そうした業者を利用したり、また日本と海外を往復するような人が、現地で契約したSIMカードを使うために買ったりする携帯である。

 今回はこのSIMロックフリーのiPhone6の発売が、問題を引き起こしたといえる。
 今回のiPhone6は、まだ中国では発売されておらず、まだ発売日も決まっていない。そして、SIMロックフリーの携帯は改造などをしなくても、世界中どこのキャリアのSIMカードでも使うことができる。

 つまり、中国でまだ売られていないiPhone6を早く手に入れようというお金持ちたちのオーダーを取り付けようと、中国の転売屋たちが発売日に世界各地のアップルストアに押し寄せたというわけだ。中でも日本は円安が進んでいることから、割安で手に入ることで人気になっているようだ。  実際、多くの人員を雇って、アップストアに並ばせて定価で買わせているのだから、十分な利益が出ているのだろう。

 ちなみに、AppleではSIMロックフリーの携帯を、前バージョンのiPhone5S/5Cの時にも行っていたが、この時はキャリア版の発売が2013年9月だったのに対して、SIMロックフリー版は2ヶ月後の11月に発売されたため、新機種発売日に混乱などは特に見られていない。

 確かに、割り込みや商品が手に入らないといって暴れるのは、不愉快だ。そうした不愉快だけれども、ある意味では「ガチ勝負の商売人」が、iPhone6発売開始で浮かれるお祭り気分の日本人の列に入り込んできたことによって「せっかくのお祭り気分がぶち壊しだ!」ということで、多くのアップルファンが怒っているというのが、実際の問題ではないかと僕は考えている。

 そしてそれは一方で「問題としては、たったそれだけ」であるとも言える。
 多くの人がマナーの悪さとともに怒っている「中国人転売屋によるiPhone6の大量買い」が悪いことだとは、僕にはさっぱり思えないのである。

 ITジャーナリストの神田敏晶は、こうした転売に対して「日本の欲しがるユーザーが日本で手にすることができないというケース」として、日本で売られている携帯が日本で手に入らないことが問題だと主張する。(*2)

 しかし、SIMロックフリーの携帯とは、本来そういうものである。日本のキャリアに縛られずに世界中で使えることがSIMロックフリーの利点なのだから、それを売る場所がどこかということと、買う人がどこの人であるか、どこで使うかということは、当然紐付かないし、紐付けないためのSIMロックフリーである。

 逆に言えば、僕を含む大半のiPhone6のユーザーは、日本のキャリアに紐付けられた、主に日本で使うためのiPhone6を手にしており「日本で売られているiPhone6が日本で手に入らない」などという状況ではないことは明らかだ。

 確かに現状、一部のiPhone6が手に入りづらい状況はある。しかし、これも数ヶ月経てば解消される。中国でもどうしてもすぐに手にしたいようなお金持ちだけが、転売屋を通して定価の数倍という高値で手に入れるのである。もし日本人がすぐにでもSIMフリーのiPhone6を手に入れたいなら、その転売屋から買えばいい。需要と供給のバランスによって価格は決定される。実に正しいじゃないか。

 結局、アップルストアでのトラブルは一時的であり、このことが何か今後に響くわけではない。もし、次のiPhone6SやiPhone7の発売日に行列で混乱を起こしたくなければ、単純にアップル側がSIMフリー版についてはオンラインストアでの完全予約制にするなど、対策を取ればいいだけの話である。

 お祭り騒ぎを演出するからには、そのお祭りを守る責務はアップルストアの側にこそあるはずだ。

*1:iPhone6買えない、どういうことだ!? 中国人か100人騒動大阪ミナミのアップルストア 警官50人かけつけ1時間(MSN産経west)
http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/140919/wlf14091918490017-n1.htm
*2:なぜ?銀座のアップルストア前にホームレス風の人が行列するのか?(神田 敏晶 Yahoo!ニュース)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kandatoshiaki/20140919-00039222/