※この記事は2014年09月20日にBLOGOSで公開されたものです

19日、徴兵制を拒否し、フランスに亡命している韓国人のイ・イェダ氏が外国特派員協会で会見を行った。イ氏は雨宮処凛氏の招きで来日。滞在中は若者と交流しながら徴兵制について話をしているという。韓国で日本語を習得したというイ氏は、日本語で会見を行った。

同席したアン・アキ氏は徴兵を経験。安氏によれば、韓国の徴兵制は1950年の朝鮮戦争勃発後に始まった。当時の財政状況に鑑み、ほぼ無料での服務が行われてきたが、経済力が上昇した現在においても、待遇に大きな変化は無いという。韓国の最低時給の水準に残業代や週末手当を除外しても、9万5000円が支払われなければならないが、二等兵の月給は日本円で約1万円という現実だという。また、外出・外泊は月に1日、服務期間全体で10日間までと定められ、多くの兵士が一部屋40人で生活をしているという。アン氏は、こうした状況から3日に1人のペースでの自殺者がでていると指摘した。

イ氏によれば、韓国では軍に行くことが社会人になる一つの段階として考えられており、政府やメディアが若者に徴兵制の賛否を問うような意識調査を行うことはないという。

そうした中、イ氏は、これまで多くの人に自身の抱く疑問をぶつけてきた。ほとんどの人は、"国民の義務だから仕方ない"、"行かなくて済むならば行かない方がいい"と答えたという。

亡命前には周囲の人々に自分の考えを明かした。友人には「お前が正しいのはわかるし、軍隊が過ちをしているのも理解しているが、今お前が拒否しても何も変わらない」と言われたこと、母親には「徴兵制の問題を解決するために、家族を捨ててまで。なぜお前が犠牲になるのか。」と言われたという。

イ氏は、日本の若者に何を訴えたいか?と問われると、"徴兵制になる前に確実に反対するべき。少なくとも国民が制度を監視できる具体的な制度や法律を作らせるべきだ"とコメントした。【編集部:大谷広太】

イ・イェダ氏 写真一覧

イさんによる冒頭発言

こんにちは。私は韓国で1991年に生まれました。今22歳です。2012年7月、20歳のときに徴兵がいやで亡命を決意し、フランスに旅立ちました。日本円で6万円程度のお金を持って、片道切符でした。フランス語もできませんでした。

難民申請を支援してくれる団体を探し、ホームレスのシェルターで寝泊まりしたりしながら難民認定されるのを待ちました。そして2013年6月、フランス政府に難民認定されました。

それまで徴兵拒否で亡命した韓国人は他にもいましたが、徴兵制度そのものが亡命の理由として認められたのは僕が初めてです。他の方々は性的マイノリティだったり、宗教上の理由から徴兵が難しいとう理由で亡命が認められました。

僕は今、パリでベーグル職人として働いています。

僕がなぜ亡命したのか、皆様にお話します。僕は中学生の時に手塚治虫のブッダを読んでから、自分は人を殺すことはしないと決めました。徴兵制とは、兵士になり、人を殺すように訓練されることです。これは僕の良心と信念に矛盾するものです。

韓国では「良心的兵役拒否」は認められていません。代替服務制度もありません。応じなければ、刑務所に1年間入れられます。また、韓国社会では徴兵に行っていないと、就職が難しいという問題もあります。徴兵を拒否することは社会的な死を意味します。

韓国では、2000年ごろから徴兵拒否をする人が増えてきました。イラク戦争に韓国軍が派兵されたこともその背景にはあります。

今年の4月には、徴兵された20歳の若者が、床に吐いた唾を舐めさせられるなどの陰湿ないじめを1ヶ月以上にわたり受けた果てに、先輩兵士に執拗な暴行を受けて死亡しました。6月には、徴兵された21歳の若者が銃を乱射し5名が亡くなるという事件が起きました。彼はいじめを受け、いわゆる"逆ギレ"状態で銃を乱射したそうです。軍隊内でのいじめ自殺も多く、毎日のように自殺者が出ています。
そのような軍隊内の生活がどうしても嫌で入隊前に自殺する若者も少なくありません。

いじめだけでなく、軍隊生活は24時間の"奴隷制度"です。給料は日本円で月に1万円くらいです。徴兵中は携帯電話の所持も禁止され、インターネットもできず、外部との連絡も取れません。外部との接触を遮断することによって人間関係が軍隊だけになり、一層陰湿ないじめに結びつきます。

現在徴兵を拒否して刑務所にいる韓国人は約800人、全世界で兵役拒否で投獄されている人は約970人です。徴兵拒否者として投獄されている人の9割を韓国人が占めています。1945年以来、1万6000人以上のひとが刑務所に入れられてきました。

そして私の家族、友達、愛する人はみな韓国にいます。私がここで言いたいのは、亡命という極端なことをせざるを得ない現状を改善するよう韓国政府に求めたい、ということです。旅だってからの2年間、家族や友達、愛する人に会えていません。フランスに亡命した私が韓国に帰国すれば、待っているのは刑務所です。

私は先月、雨宮処凛さんに電話をもらい、今月16日、日本に着きました。処凛さんからは、7月の集団的自衛権の閣議決定後、日本の若者の間でも徴兵制へのリアリティが高まっているという話を聞きました。徴兵制の実情や、社会でどのようなことが起きたのか日本の将来の人々ためにも、私の話が何らかの参考になればと思っています。