親の純粋な良心が、子供を危機に追い込む - 赤木智弘
※この記事は2014年09月16日にBLOGOSで公開されたものです
大阪で、子育て支援NPOの代表によるマッサージを受けた生後４ヶ月の子供が死亡した事件。どうやら、そのNPOでは「ズンズン運動」という体を揺さぶる運動法を子供に行っているようである。
このNPOでは2013年にも施術を受けた子供が死亡していたようで、施術と死亡の関係を警察が調べているという。(*1)
ズンズン運動という名前を聞くと、昔「ずんずん教の野望」というアーケードゲームがあったなーなんてことを思い出すわけですが、ではこのズンズン運動を行う人たちの野望は何だったのだろうか。
もちろんNPOを隠れ蓑にして、適当な運動を広めて金を稼ぎたかったとか、自尊心を満たしたかったとかんがえることはすごく簡単だ。 しかし、実態としてはそうではなく、今回子供を死なせてしまったNPO代表も、またNPOの職員たちも、単純に子供により良いことをしようとしただけなのではないかと思う。それをわざわざ悪意があったと憶測する必要はないはずだ。
しかし、残念ながらそのNPO団体の人達には「本当に子供によいこと」を判別するだけの知能がなかったし、子供の苦しさを認識する能力もなかったのだろう。ダメな人間が独善性をもって「子供を愛した」結果、子供が死ぬことになってしまったわけだ。
それはこのようなNPOのいうがままに子供を差し出してしまう親たちも同じで、当然「子供のため」と思いながら、目の前で行われていることが子供に対する暴行であるということに、気づけないのだろう。
僕たちはつい「善意で行われていることだから、問題があるように見える行為でも大丈夫」だなどと、思いがちである。しかし、残念ながら、子供をより良く育てようと思っていようが、子供を殺してやろうと思っていようが、首に過剰な負担をかければ子供は死ぬ。
他のさまざまなことでも同じだけれども、動機の純粋さが結果を保証することは決してない。
いくら子供をより良く育てようと思っていても、首を折ったら死ぬし、殴れば脳に障害が残る可能性もある。
問題は「純粋な良心」である。
親の「純粋な良心」は子供に対して、なんのてらいもなく、まっすぐ向かってしまう。
例えば、子供を殴る親は「子供が悪いことをしたから、しつけとして殴るのだ」と思っている。しかし、それはいつしか「子供が悪いことをしたという思い込みで殴る親」に変質していく。なぜなら「悪いことをした」の判断は、親自身に一任されるからだ。そして子供に反抗するすべはない。また、世の中には「子供を殴る親は立派だ」と褒める人すらいる。そうした状況で、子供への暴力はエスカレートして止められなくなる。
親と子供だけの子育てにおいて、親が良かれと思うことと、それが本当に良いことか否かを判断する人は、親当人以外にはいない。親が間違った子育てをして、変な団体に子供を預けて暴行されようと、そのおかしさに親自身は気づけないのだ。
家という密室の中で、親が子供を支配する。そんな環境のなかで正しい子育てを迫られる親たちには、気づけないことがたくさんある。それに親が気づくためには、子育ての場に色々な立場の人を立ち入らせる必要がある。
しかし、昨今「子供の安全安心」が問題となる中、親以外の大人は危険因子として子供から引き離されがちである。子供を「親の所有物」ではなく「社会の中に存在する個人」として扱うために、どのように客観的な視線を親子の間に加えていくべきか。今回のような事件を減らすためには、そうした考え方が必要になってくるはずである。
*1：マッサージ受けた生後4か月の男児死亡 NPO代表が行った「ズンズン運動」とは何なのか（J-CASTニュース）
