※この記事は2014年02月15日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第311回

　２月９日に、東京都知事選挙が行われ、やはりというかなんというか、当然のように桝添新都知事が誕生した。
　少なくとも僕は、舛添が勝つことは変わり様のない結果だと思っていたので、この点については全く注目していなかった。僕が主に注目していたのは、前回選挙でも反原発として立候補した宇都宮けんじ候補と、今回電撃的に反原発を主張して出馬をした細川護煕候補の、どちらが勝つのかという点であった。

　僕としては「やはり細川が勝つのかなぁ」と思っていたが、結果は３万票差ほどで、宇都宮けんじが勝った。勝ったと言っても２位なので、当選することはないのだけれども。

　自分が誰に入れたかといえば、宇都宮けんじである。しかし、多少なりとも期待して票を投じた前回に比べれば、今回は彼自身に期待したという要素は少ない。やはり立候補した時に全面的に反原発として、反原発票を集めようとしたことが、気に入らなかった。僕はもう、反原発の妄言と、運動のための被災地差別には辟易しきっている。

　また、彼の福祉政策の大半は、老人福祉を基本とした、若者を苦しめる福祉政策である。特に「75歳以上の医療費を無料に」という政策は、若者の医療費負担を極限まで増大させ、病院のサロン化を進めて、若者の病院利用を妨げる、最悪とも言うべき政策だ。

　だから、僕は桝添VS宇都宮の構図のままだったら、選挙に行かないとか、マック赤坂あたりに入れてネタで済ませるつもりだった。

　しかし、細川の反原発としての出馬で話は変わった。
　小泉純一郎という、小泉改革を推し進め、日本の新自由主義傾向を確たるものとした、少なくとも社会保障の充実を考える人からすれば「敵」としか考えようがない後ろ盾を持つ細川に対し、これまで小泉政権を批判してきたはずの反原発左派が、なんと、支援に回るというのだ。しかも、反原発という事以外の政策が、全く提出されていない時点でだ。

　それから「反原発派は、細川に一本化しろ」などという、意味のわからぬ暴論が振りかざされるようになった。

　当然、福祉を切り捨て、貧困や格差を固定化する新自由主義を信奉する細川小泉を、左派が支持するいわれはないはずだが、今回細川を支持した、著名な左派によると「原発事故が起きれば福祉どころではないのだから、新自由主義とか福祉などを問題視するよりも、真っ先に反原発であり、子供たちの命を守る事こそ最重要なのだ」という。

　しかし、今回の原発事故においても、迅速にそれなりの対応ができたことで、大きな健康被害が懸念されるような状況は避けられた。それはすでに明らかになっている。

　また、事故後の福島でも多くの命が、他の都道府県と同じように産まれ、公的な福祉の重要性は高まるばかりである。(*1)

　そもそも原発立地が原発を受け入れざるを得ない問題というのは、都市と地方の格差問題にほかならない。
　地方が貧しく、産業が成り立たないからこそ、地域は原発を受け入れ、その恩恵を受けるしか無かったのである。

　地方格差問題があるかぎり、たとえ原発が無くなったとしても、地方にメガソーラー施設などの、巨大な代替エネルギー施設が建設され、またしても東京からの助成金に頼る生活を強いられるしかないのである。結局は箱が原発では無くなったというだけに過ぎない。 　その状況を解消するためにも、反原発であればあるほど、貧困や格差の問題に注力しなければならないのに、彼らはどうして「急進的反原発」として、曖昧な情報やデマを繰り返し、空疎な論理に堕しながら、同時に地方格差のみならず、多くの格差を固定化して多くの人達を苦しめる、新自由主義者に協力してしまうのだろうか？
　僕には全く理解できない。

*1：平成 24 年度「妊産婦に関する調査」結果報告（福島県）
http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/260207siryou5.pdf